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僕と先輩の真実捜し  作者: 速水 そら
厄介ごとを招く猫
2/7

 季節はすっかり秋に変わり、帰り道の草むらからは、鈴虫やコオロギの透き通る音色が重なり合い、静かな夜に響き渡っていた。暗い夜道を自転車のヘッドライトを頼りに、下宿先へペダルをこぐ。実験が毎回のごとく延長し、疲労は蓄積されるばかりだ。原付なら幾分楽だろうが、忙しさを理由に買いにいっていない。今週末のバイト代が出たら買いにいこう。時計を見ると22時を過ぎていた。見たかったテレビは終わってしまった。前回ピンチにたたされた主人公は、無事にヒロインを救い出せただろうか。あの悪党はなかなかの切れ者だ、そう簡単にやられはしないだろうし…。あぁなんでうちのテレビは録画できないんだ。

大学から自転車で20分のところにある下宿先にやっと到着した。大学内に寮もあるのだが、共同生活は自分には向いていないし、何より門限があるのでやめた。今時21時門限とかあり得ない。自転車を止め、たいした物は入っていっていないはずなのに妙に重いかばんを、かごから出した。肩に掛け、階段を上り、すぐ目の前にある自宅の扉の鍵を開けようとした。


ゴトンッ


 部屋のなかから何かが落ちる音がきこえた。音の正体は予想がつく。まったく先輩は何やってんだか。

「先輩、近所迷惑なんで静かに…あ、俺のビール!!」

「よぉ、遅かったな。待ちくたびれたじゃねいか~」

空いたビールの缶を抱いて、ろれつの回らなくなった先輩が寝転びながら言った。冷蔵庫にはあと1本しかなかったから、僕の分はもうない。お腹を思いっきり蹴飛ばしてやった。




 「ふつう酔いつぶれているやつの腹蹴るか!?」

「ふつう人のビールを勝手に飲まないでしょ、おあいこさまです。」

棚の上の方の引き出しに隠しておいた日本酒片手に、晩酌を始めることにした。先輩は床にうずくまったままだ。ざまあみろ。

「やっべ、マジで気持ち悪いんだけど」

「悪酔いにはニラがいいらしいですよ、食べますか?」

「それ、嘘だろ。」

「…嘘です。やっぱ食べられないんですね。ほんと猫みたい。」

「まぁ、猫だから。あとネギとかもダメな、前食って死にそうになった。」

そう言いながら、ふらふらと立ち上がり、四つ足でなんとか踏ん張りながら、先輩はトイレの方へ歩いて行った。扉は軽く開けてあるから大丈夫だろう。しばらくして、先輩のうめき声が聞こえてきたが、気にせず酒を飲み続けた。


 先輩が居候を始めて3ヶ月近くが経っている。高校時代の演劇部にいたころは、僕や後輩のことをよく面倒をみてくれたり、面倒ごとを持ち込んだり、とにかくよく一緒にいた気さくな人だった。先輩が大学へ進学してからは音信不通になってしまったが、久々の再会が猫になった先輩とは。世の中なにがあるかわからないもんだ。


 

 「先輩、明日なんですけど、1日家にいてくれませんか?」

さっきまで苦しんでいたのが嘘のように魚肉ソーセージをかじる先輩は、僕の問いかけに反応し、じっと見つめてきた。黒い瞳に黒い毛並み、黙っていればなかなかかわいい猫である。黙っていれば。

「・・・お前、もしかして彼女がいるのか?」

猫の表情から感情を読み解くのは僕にはできないけれど、このときもし先輩が人間だったら、にやけた不快な笑顔で僕に言っているだろう、そんな口調だった。想像しただけで腹が立つ。

「いますけど・・・。」

「やっぱりな!俺をネタに女を家に招いたんだろ!まったく下心が丸見えだよ、近藤くん。あぁあぁまったく男というのは、欲にまみれた獣そのものだね。・・・その子、かわいい?タレントだと誰に似てる?」

「そうですね・・・あゆみん似ですかね。僕が好きなドラマのヒロインやってる。」

「・・・お前の頼みならしょうがない。一肌脱いでやろうじゃないか。」

あんたの方がよっぽど獣だよ、見た目も中身もな。










 

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