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クリスマスプレゼント

「イブに歩くなんてな」


 クリスマスイブ、こんな日に俺は商店街をてくてく歩いていた。

 カップルが目に付くこの日は家で『日本人は西洋かぶれな行事なんていらねぇ』と叫び(予定ないから)こういう時だからこそ宿題でもしようと思っていたら、コーヒーをこぼしてしまった。しかも妹の雑誌に。

 まるで不法侵入者を発見した犬っ子のように吠えるように怒られて、買ったばかりのファッション雑誌の弁償と謝罪としてスイーツを買ってくるハメとなったのだ。


「クリスマスに買ってこいだなんて、マッチ売りの少女かシンデレラみたいじゅあねぇ、メニ」


 俺は右横にいる茶柴色の髪にくりっとした目を持つ、柴犬感のある美少女で魔法少女の相方メニに愚痴をこぼしたが、そこには誰もいなかった。


「あれ、メニ? スマホか?」


 事件が発生すると本来の姿、スマホになってポケットに納まっているのだが、どのポケットにもスマホの重さはなかった。


「いない……という事は、迷子か」


 俺の暴走で忘れていたが、メニはもともと食いしん坊系の犬っ子性格であり、リードを持ってなければ、気になったところに走っていく。


「迷子ってスマホが迷子になってどうする」


 って、スマホだから俺に連絡がきたらどうするんだ、この前(第5話参照)携帯をメニに食べられて機能を一括されてしまったから、携帯からメニに通話することもできん。

 仕方なく、今来た道を戻り、メニがいそうなところを探すことになった。


「あーもー、カップルばっかりじゃねぇか……」


 クリスマスじゃなくても活気のある商店街なので、今日の混み具合はヒドイものだった。人ごみに巻き込まれながら進むとメニは簡単に見つかった。

 焼き鳥やの露店で商品をじーっと見つめていた。

 これは『人間の食べ物が欲しいけれども勝手に食べたら飼い主に怒られる。でも食べたい!!』という時にやるひたすら見る犬っ子の行動と変わらない。


「メニ……お前、何してんだ」

「あ、健斗。美味しそうだよ」

「美味しそうじゃねぇ。ほら、さっさと行くぞ」


 ぐいっとメニの手を掴もうとしたが、すばしっこい美少女はひょいとかわし、逆に俺の袖を掴み、引っ張った。


「健斗、焼き鳥、買って、買って」

「買って、買って」


 ……へ?

 俺の袖を引っ張る奴がもう1人いた。おそるおそる左側にいる者を見つめた。


「えーっと、どちら様でしょうか?」


 チワワ(ロングコート)みたいに、くりっくりの目とプラチナブロンドをツインテールにした女性がいた。

 俺より10センチほど小さく童顔をした大人の女性で赤のコートを羽織っていたが、胸のふくらみが大人であると訴えている。


「メニの友達だよ」

「そう。焼き鳥を見てたら、メニと会ってね『美味しそうだね』って言って友達になった」

「……。今、ここでなった友達って事か」

「そうだ。健斗とか言ったな。あれ、ほしい」


 ツインテールの童顔女性はまっすぐネギマを指した。


「メニも。買って、買って」

「買って、買って」


 そしていい年した大人とスマホにねだられることとなった。音量調整などしないので、視線集中である。


「分かった、買うから静かにしてくれっ」


 露店の店主に同情の目を向けられながら、俺は焼き鳥を購入。


「うん、うまい。やはり焼きたては良い」


 しかし、この女性……どう見てもオカシイ。

 どこかの国から来た、というには日本語が流暢すぎる。子供の頃に日本にやってきた世間知らずのお嬢様ならいいのだが。

 何せ、俺は魔法少女だから。何があってもおかしくはない。


「しかし、すごい飾りだな。何か祭りでもあるのか?」


 こいつ、どうみても後者だ。クリスマスを知らない奴はいない。


「今日はクリスマスだよ、えーっと」

「ワシか? ワシはチワンティーヌという」

「チワンティーヌ? どこの国の人なんだ?」

「セバリアラ国だ」


 こいつ、やっぱり異世界から来てる……そんな国、地球には存在しません。


「クリスマスの日はね、皆で七面鳥やケーキを食べてね、プレゼントを貰うの」


 何も気づいていないメニはぺらぺらと、本格的な国のイベントを教えた。


「プレゼント? おい、健斗、プレゼントをくれ」


 案の定、チワンティーヌは両手を俺に向けた。


「あのね、プレゼントというのはサンタという……」

「あれ、柴沼君? 偶然だね」


 収集がつかなくなったところで天の声? いや、女神様が光臨した。


「か、華川(かがわ)先輩」


 アフガンハウンドのような高貴なる憧れの人、華川先輩。

 焦りだす俺を見たメニがニヤリと笑い、出来たばかりの友達に何か小声で話す。


「キレイな子だね、柴沼君の友達?」


 華川さんの視線はもちろんひそひそ話しをする2人に向けられている。


「違います、友達じゃなくて……えーっと、親戚です」

「親戚? 柴沼君って海外の親戚がいたんだ、すごい」

「えっと、そうじゃなくて。えーっと、そうです。いとこが海外にとついで、嫁いだ先の親戚なんです」


 俺はとにかく思いついた納得のできる嘘をついた。


「そうなんです。あたしたち、遠い親戚なの」

「親戚だ」


 ニヤニヤ笑う2人は口裏を合わせた。


「親戚だから。これから健斗にクリスマスプレゼントを買って貰うところだったんだ」


 おいおいおい、メニ。何を言ってんだ。


「ついでに、キレイなお姉さんも健斗にクリスマスプレゼント買って貰おう」


 おいおいおい? メニ、何を言ってくれてる。


「え、でも」

「気にすることはない。こいつは臨時収入を貰って懐ホクホクだ。家だって買えるぐらいだ」


 家を買える臨時収入ってどれぐらいセレブなんだよ。


「え、そうなんだ。じゃあ、お言葉に甘えようかな」

「本当ですか」

「良いかな、柴沼君」

「喜んで」


 クリスマスプレゼントを先輩に上げることができるなんて。

 普通は買ったがいいが、渡せずに終わることがあるのに、2人もいい奴だ。

 ……そう思っていいのかな。




 先輩が気になっている雑貨屋に着くと3人はリードを外された犬っ子のように店内を散っていった。


「言っておくけど、俺の懐内で買えるものにしてくれ」


 メニとチワンティーヌにそう言ったが


「ワシはこの棚にあるもの全部いただこう」

「俺の懐はそんなに南国じゃない」

「健斗、あたし、このかわいいスマホケースにしたいな」

「お前のスマホは俺が使うスマホになるんだ」

「ねえねえ」

「今度はな……先輩。どうしました?」


 突っ込み芸人モードを急いで消した。


「柴沼君。これ、いいかな?」


 そう言って持ってきたのはキャンドルだった。ガラスの器に透明なゼリーとチョウの置物が入っているおしゃれなものだった。

「もちろんです」

「ありがとう」


 先輩のプレゼントが決まったものの2人が戻ってこないので、俺は先輩に話しかける。


「先輩、買い物ですか……あ、いや、クリスマスだから、イベントですか」

「柴沼君、そんな余裕ないよ」

「そ、そうですよね。受験ですから。参考書か何か買いにきたんですか?」

「まあね。ついでに生き抜きしようと思ったけど、カップルばっかりで嫌になっちゃうわ」

「あ、俺もそうです。本当は家でこもっていたかったのに、こんな事になって」

「ふふ。そうなんだ」


 先輩の柔らに笑う表情こそ、俺にとって最高のプレゼントだった。 




 暴走娘たちのプレゼントが決まらないので2人にも同じゼリー状のキャンドルを渡した。



「じゃあ、柴沼君。今日はありがとうね」


 プレゼントを受け取ると先輩はにこっと笑って背を向けてあるきだそうとしたが、メニに肘をつかれ、俺は声を上げた。


「あ、あの、先輩」

「なぁに?」

「えと、受験、頑張ってください。俺、応援しています」

「……。ありがとう」


 先輩は微笑んでくれた。


「さてと、ワシもそろそろ帰ろうかな」


 先輩が居なくなって謎の女性ことチワンティーヌが伸びをすると、彼女の名を呼ぶ数人の男が走りよってきた。


「探しましたよ、チワンティーヌ様」

「という事は見つかったか?」

「はい。もちろんです」


 部下は七色に光る手のひらサイズの球体をチワンティーヌに渡す。


「何だそれ?」

「ああ、ボールだ。上司とボール遊びをしていたら、手が滑って人間界まで飛んでしまったのだ」

「ボール遊び? 人間界?」

「そうだ。ま、気にすることはない。お前らには知らない世界だからな」


 そうであってほしい。


「では、健斗とメニ。世話になったな」


 それだけ言うと、チワンティーヌは背を向けた途端、姿を消した。


「……。なんだったんだあの人」

「さあ」

「メニ、お前、何かわからないのか」

「そう言われてもね……」

「……。まあ、いいか」


 嵐のような出来事にため息をつき、俺達は商店街を歩き出した。


「健斗、プレゼントちょうだい」

「いいけれども、また、飲み込むつもりじゃないだろうな」

「そうだよ。食べたら、スマホのアプリになるよ。キャンドルの画面がでてね息を吹きかけると炎が揺らいだり消えたりするんだよ」

「器用だな、お前」


 今度は迷子にならないように、メニの手をつないだ。



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