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俺が魔法少女になったら  作者: 楠木あいら
魔法少女の日常
6/28

強敵を乗り切ろう

 

 放課後を迎えた俺はホームセンターに行った。

 もちろん、ペットコーナーの犬っ子を見るため、そろそろ新しい子が入荷する時だし。ペットアイテムを見るのも楽しい時間の1つでもある。


「青春真っ盛りの高校生が1人でペットコーナー……何か間違っていない?」


 右横にいる茶柴色の髪にくりっとした目を持つ、柴犬感のある美少女で魔法少女の相方メニはリードを手にしながら言った。


「言っておくが1週間ぶりなんだからな。俺だって放課後のスケジュールはぎっしりなんだ」

「男友達とカラオケかゲーセン巡りが?」

「そうだ。ここから、何か起こるかもしれないじゃないか。ときめく出会いとかがさ」

「…………」


 何か言いたげだったが、メニは話題を切り替える。


「それはそうと健斗。犬を飼ってないのに、どうして犬用の商品を見るの?」

「将来、犬を飼うための情報収集だよ。新しい家族はどんなリードにしようかな、と考えるのって楽しいし」

「……。どうして健斗は犬を飼わないの? 健斗の家って一軒屋でしょ」

「…………」


 メニはぎょっとしていた、俺が泣きそうな顔をしているから仕方ない。


「それを聞くか、メニ。俺の悲しい悲しい話を」

「じゃあ、やめておく」

「聞いてくれ……じゃなければプライド捨てて泣くからな」

「わかった。心行くまで聞いてあげる」

「ありがとう、メニ。実はな」

「実は?」

「俺以外の家族全員が大の犬嫌いなんだ。親父は小学生の時、野良に噛まれ、お袋は幼稚園製の時に追われ。妹は金持ちん家に遊びに行ったら、ドーベルマンに唸られて以来……トラウマ体験をした。重度の犬嫌い一家なのさ」

「あらら……」

「会話の少ない現代によくある冷めた一家なのに、俺が犬飼いたいというと一致団結して反対する……」

「…………」


 メニは返答してくれなかった。それもそのはずである、姿を消していたから。

 それからスマホの通話着信が鳴る。


「ご愁傷様って言いたかったけれども、事件よ」


 メニは事件が起きると本来の姿であるスマホになり、通話着信を鳴らす。


「もう言っているよ。わかった」


 俺は手にしていたリードを置いて出口に向かう。


「場所はここから徒歩で10分ぐらいにある河川敷、変身してから移動した方が早いわね」


 スマホを耳に当てながら走る俺はリザードマン戦の記憶を思い出し、灯油売り場のすみに向かう。人がいないことを確認してからスマホの画面に表示された『PUSH 変身』

を押した。

 スマホから光が生まれ俺を包む。数秒で男子高校生から黒髪と犬耳、尻尾をもつ魔法少女ココに変身した。


「柴犬を愛する心は誰にも負けられない。柴犬ラブピュアファイター、ココ参上」


 誰もいないが魔法少女たるもの決め台詞は言うのがお約束である。

 満足したところで、子犬のように軽やかになった体で走り出した。


「メニ、ナビをよろしくね」


 変身すれば声が高くなり言葉も変わる。心の中の声は変わらないが。

 首輪型チョーカーの飾りに納まった相棒メニは『任せて』と言ったが、次に不安を口にした。


「ココ。今回は強いモンスターのエネルギーを感じるわ。気をつけてね」

「おい。あれ、何だ?」


 ホームセンター敷地内を出ようとした辺りで、誰かが声をあげ指を空に向けていた。

 俺も足を止め、その指先にある方向を見上げる。


「黒い柱だ?」


 黒いまっすぐな線を書いたようなそれが空に向かっていた。


「ココ。あの方向に河川敷があるわ」

「待ち伏せってわけね。急ぎましょう」


 メニの発言からして、どうやら待ち伏せの可能性が高い。となれば敵のレベルも高そうだ。

 俺は深呼吸をしてから足に力をため、黒い柱と魔法少女の姿に驚く人たちを後にした。

 



 軽やかな足とジャンプを繰り返し目的地の河川敷に到着した。

 川原の方から空に向けて黒い線、オーラーを放つそれらしき者が立っていた。黒色で中の者ははっきりと見えないが、1人のようだ。被害者がいないのはせめてもの救い。


「お前か? ここいら一帯のモンスターを追い返している魔法少女は」


 黒いオーラが消えて現れたのは人語を話す……キレイなお姉さんだった。

 黒い皮のミニスカートに、同色の袖がなくてヘソが見える丈の短い上着。白く美しい脚もさることなら、胸元を大きく開いて、谷間をおがめた……見えてしまったのだから、仕方がない。

 腰に曲刀を携えているものの、そのラインも美しい。ポニーテールの黒髪が左右に揺れればうなじも見えるかもしれない。


「……」


 犬っ子は大好きだけれども、高校生はキレイでセクシーなお姉さんも大好きなのです。

 となれば話は早い。

 俺は敵に背を向けて逃げ出した。


「ちょっとココ。何で逃げ出すのよ」

「バカモン。あんなセクシーな敵さん、2度見たらピュアパワーがなくなる、のよ」


 魔法少女はピュアな心が動力源?今も『バカモン』と言った時だけ、体が重くなった。

 

「こうなったらメニ、待て状態の犬っ子作戦よ。犬っ子は飼い主さんにご飯やおやつの前に『待て』と言われたら、食べてはいけない。でも、ものすごく食べたいけれども、我慢しなくてはならないので食べ物から視線をそらす」

「つまり、見ないで戦うってこと?」

「メニの視力ってどうなっている? 見えるならナビしてくれれば」

「見えるけれども、難しいと思うよ。第一……」

「第一?」

「敵さんが怒って強風攻撃しかけてきた」

「それを早く……うわわっ」


 メニに抗議するよりも早く体が浮いた。というより、飛ばされた。

 敵は予想もつかない行動にぽかんとしたが、我に返れば攻撃するのは当然だろう。

 息を吹きかけた木の葉のように飛び上がり、ぽてんと落ちた。もちろん、痛い。


「それでも逃げる」


 魔法少女は起き上がり走り出すしかなかった。


「ちょっと、ココ。いつもの犬っ子大好きパワーで邪ま(よこしま)な考えを消し去るのよ」

「邪まな考えは逃れられない。これが男の本能なの。私だって犬っ子のために世界を戦いたいわよ」

「じゃあ、右から可愛い犬が助けを求めて、左からキレイなお姉さんが君を呼んだら。どっちを向く?」

「ううう……」

「悩んでどうするの」

「そんな事いったっ……うわっ」


 返答に困ったところで敵が再び強風攻撃をしかけた。怒っているらしく今度は倍以上とばされた。もちろん、落ちて痛い。


「ココ、前方30メートル先にシェットランドシープドックと人の反応あり」

「…………」


 川原を散歩する犬っ子を巻き込むわけにはいかない。

 犬っ子反応があった方に背を向けて、目を閉じたまま前方をむいた。


「さっきから、何、逃げてんだ。さっさと戦えっ」


 怒り狂った敵の声がする。確実に向かって大攻撃をしかけてくるだろう。

 落ち着け、俺。

 後方のシェットランドシープドックのためにも……敵を倒したらその子に会うためにも……どちらかといえば、先に犬っ子を見たい。


「一撃で倒してやるっ」


 風が前方から吹いてきた。自然と腕が動く。

 金属が擦れる音が響き、差し出した両手に重さを感じた。リザードマンの攻撃を受け止めた時よりも重さ異常の圧力を感じた。


「急に戦う気が出たようだな。だが、遅い」


 しゅううと音がして不安を感じ取った俺は目を開けてしまった。

 しまったと思った時には、もう遅い。自分の肉球つきグローブとその先にいるお姉さんを……


「驚いたか、魔法少女」

「もちろん」


 でも、俺はニコっと笑っていた。


「我が名は妖剣部隊長ガルハンワー。後ろの人間はただの幻だ」


 オプションのなくなったモンスターならば、恐れる気はない。それどころか、後方のシェットランドシープドックのために戦うのみ。


「ココ、感じる?」


 みなぎるピュアパワーを感じたところでメニが言った。


「ええ。もちろん」


 新しい技が使える気がする。なんとなくだが、とりあえず心の中に光るそれに触れてみた。

 右手に光が生まれ、肉球付きグローブが3倍にふくれあがった。

 俺は受け止めていた妖剣を右手で跳ね上げる。

 妖剣は空中でバランスを崩すことなく、浮いたまま刃を水平にする。刃をこちらに向けて。

 それよりも速く、ジャンプして上をとった俺は3倍に膨れた右手グローブで叩き落した。


「暗黒の地で反省しなさいっ」


 妖剣は地面に触れた途端、妖剣は消えた。


「勝利」


 勝利のポーズを決めてから。ふうと息をついた。


「それにしても今回の戦いはなかなかの強敵だったわね。でも犬っ子の平和のために私、負けない」

「一番の強敵が妖剣の幻って、何か違うような気がするな」


 メニの言葉が痛いシメの言葉となった。




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