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俺が魔法少女になったら  作者: 楠木あいら
魔法少女の日常
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武器を作ろう

 柴沼健斗(しばぬまけんと)17才。失恋しました。

 まぁ、一方的な片思いだったからな。でも、俺のせいでコテツの笑顔が失せるなんて嫌だから、俺は想いを言わないで去るよ。

 コテツ、短い間だったけれども、青春の思い出ありがとう。


「健斗、ペットコーナーで泣かないでくれる」

「泣いてない。ガラスが結露で湿って、それが顔に付着しただけだ」


 俺達はホームセンター内の犬猫コーナーにいた。高2男が放課後に通う理由はただ1つ、ペットコーナーの犬っ子を見るため。もちろん毎日、通っているわけではない。1人で暇な時だけである。


「コテツちゃん……」


 そして俺の前にはガラス越しに豆柴がいて、右に『契約済み』という札が貼られている。誰かの子になるので失恋なのだ。


「うう、コテツちゃん。初めて君と目が合った時、俺は一目ぼれをしてしまった……でも、君は新しい飼い主さんの所へ行ってしまうんだね。いいんだよ、君の幸せが俺の幸せさ」


 ガラス越しの声はコテツには聞こえない。ついでにメニ以外、周りに人がいない事を確認しているので変な目で見られることもない。


「それはそうと、なんでコテツって呼んでいるの? 売出し中の子って名前ついてないよ」


 肩にかからない長さの茶柴色の髪にくりっとした目を持つ、柴犬感のある美少女で魔法少女の相方、しかも普段はスマホだという……長い説明を必要とするメニはガラス先にいる豆柴を見上げながら聞いてきた。


「名前がついてないから俺が仮の名前をつけているんだよ。オスならコテツ、メスならココ。あぁ、これは将来、俺が犬っ子を飼った時につける名前ね」

「……じゃあ、将来つけたい犬の名前を魔法少女の名前に使ったわけ」

「良い名前だろ」

「こんな奴を魔法少女にして良かったのかな……」


 外見が小学生に見える奴に言われるとカチンとくる。

 俺が文句を言おうとした時、メニの姿はなく制服のポケットが重くなった。それから通話着信音が鳴る。


「もしもし」


 俺はペットコーナーを後にして、足早に出口に向かった。


「メニ、誰かに見られたらどうするんだよ」

「大丈夫、健斗以上に確認しているから」


 こいつ……


「あ、言い忘れていたけれども。私がスマホに戻る時は事件発生しているから」

「それを早く言え。またコボルトが現れたのか?」


 出口に出ると明らかにただ事ではない空気を感じた。


「リ、リザードマンだと……」


 ホームセンターを出てすぐの駐車場と歩道の間に、トカゲ人間ことリザードマンが立っていた。

 人と変わらない大きさだが、緑色の固い皮膚に赤い目。開きかけの口からはヘビのように舌をちょろちょろと出している。右手には曲刀を手にしている。


「ケケケ」


 リザードマンの周りに数人の人がしゃがみこんでいた。血が流れている様子はないが、エネルギーを吸い取られたのか、何か毒気に当てられているのかわからないが動く様子はなく危険にさらされているのは確かだ。


「おいおい、一気にレベル上がりすぎてねえか。コボルト2戦の後はゴブリンとかキノコのお化けとか」

「あたしに言わないで、敵が用意しているんだから。今回は被害を受けているから、さっさと人目のない所に行って変身よ」

「わかったよ」


 リザードマンのおかげで変身場所はすぐに見つかった。灯油売り場の角へ移動するとスマホ画面に表示された『PUSH 変身』を押す。

 スマホから生まれた光が俺を包み込む。光は数秒と立たず俺を魔法少女に変えた。

 

「メニ? どこにいる?」


 忘れていたけれども、魔法少女になった時、メニは見かけなくなるが気配を感じた。


「ここ。君の首輪の迷子札になっているよ」


 犬耳、尻尾がはえてから魔法少女衣装が微妙に変わっていた。首輪……みたいなチョーカーが衣装の一部、それから色もピンクから赤色へ加えられていて、そこからメニの気配と声がした。


「何でもありなんだな」

「それよりもココ、見える? リザードマンの周り」

「もちろん」


 魔法少女になってからリザードマンとしゃがみこむ人たちの周りに薄灰色の半円状のバリアみたいなものがあった。


「メニ、あれ、私が壊すことできる?」


 魔法少女になると普通に女言葉に変わってしまうようだ。


「基本、ピュアな力があれば何でもできるよ。武器だって作れちゃう」

「ピュアな力……」


 魔法少女になって今日が3回目。正直、人々の平和のため。と正義心からピュアパワーを出すのは無理だった。

 俺の場合。犬っ子の平和のため。『えへへ』と純粋に笑うために戦う。


「そうだ、コテツちゃんだ」


 もし、リザードマンがこのホームセンターを荒らすものなら、コテツちゃんが危ない。いや、もしかして、あのバリアの中にコテツちゃんを迎えに来た新しい飼い主さんがいるかもしれない。


「でえぇぇぇ……」


 そう考えると体にエネルギーが溢れてくるのを感じてきた。軽くなった体でおもいっきりジャンプし、着地場所を決めると片足を曲げて、逆の足でバリアを蹴りつける。

 ばぁんと風船が割れるような音がして灰色のバリアがガラスのように粉々になった。 


「邪悪な心に染まってしまったリザードマン。これ以上の悪事は許せない」


 リザードマンを睨みつけてから、周りに視線を向けた。


「今のうちに逃げて」


 動けなくバリアが溶け、しゃがんでいた人たちは目の前の犬耳と尻尾を持つ魔法少女に驚いたが『逃げて』と言葉が聞こえるとそれに従ってくれた。


「ケケっ」

「リザードマン。柴犬ラブピュアファイター、ココがお相手よ」


 ……ん?何か違和感を感じる。何か引いているような軽くつめたい空気を。

 突然、派手な格好をした犬耳尻尾をつけた子供が現れた事によるものか、まあ、魔法少女なんて現実に現れないからな。

 それとも……もしかして、俺のネーミングセンスってそんなに悪いのか?


「前者ならば戦って知名度をあげるのみ」

「多分、後者だと思うな」

「ケケケ、ケケケケケケ」


 言い争いになりそうな会話にトカゲが割り込んできた。リザードマンの言葉は魔法少女になっても解読できないが、推測はできる。因みに今の話は『バリアを破るとはちょこざいな、俺の剣を受けるがいい』だろう。

 間違いない。奴は曲刀を抜き放ち、俺に振り下ろした。


「でぇい」


 振り下ろされた俺はメニが言っていたピュアパワーを信じて真剣白羽取りのポーズをとり武器をイメージした。

 メニに正しい武器の出し方を教わったわけではないのだが、何かこうすれば武器がでる気がした。失敗すれば、笑い話にならない光景が広がるが、見えない力は俺に加勢してくれた。

 ぼわんと音がして、俺の両手に何かが現れる。


「グローブ?」


 ボクシングのグローブほどある犬の手(肉球つき)がリザードマンの攻撃を受け止めていた。グローブの周りには特殊なオーラがあってそのうすい膜が武器をはじいているようだ。


「ケゲッ、ゲゲゲケケ」


 トカゲ人間の言葉を推測してみると『小娘めっ、ワシを怒らせたなっ』だろう。リザードマンが曲刀を右に左に素早く振り回してきたのだから。速い攻撃に俺も右、左とステップを踏んでかわす。

 避けるのが精一杯で攻撃にまわれない。

 そもそも俺が知っている魔法攻撃は光の輪だけ。一撃必殺だが目を閉じて集中しなければ使えない。


「ココ、気をつけて」


 メニが首の辺りから忠告した。


「段差があるから、足元に注意して」


 ホームセンターの歩道から駐車場に移動していた俺はタイヤ止めの段差に近づいていた。メニが注意した時にはバランスを崩すところだった。

 『言うのが遅い』と文句を言いたかったが、そんな余裕なんてない。バランスを崩す魔法少女の姿を見て、リザードマンが大きく曲刀を振り上げようとした。


「…………」


 マズイ、いくらピュアパワーでなんとかなる魔法少女とはいえ、物事が素早すぎて対処方法が浮かばない。思い浮かばなければピュアパワーを形にかえられないのだ。


「ケケゲッ」


 リザードマンは勝ち誇ったように声を出した。推測する気にもなれない。バランスを崩した俺はまず後方に倒れてゆく、背中に痛みをくらって。

 それから……


「ケゲゲ? 」


 振り下ろしたトカゲ男の曲刀が俺の大分前で止まった。俺の周りに黄色、光色のバリアが貼られていた。


「ココ、今よ」


 メニに言われ、俺は目を閉じた。


「光の輪よ。浄化を」


 光が俺から生まれると輪になって広がってゆく。暗黒の地から来たモンスターを消滅するために。




「……バリアって、一体、どこから」


 リザードマンを消して、騒動に巻き込まれないうちに逃げるようにホームセンターを脱出した俺は、隣にいるメニを見下ろした。もちろん、2人とも人間の姿になっている。


「メニではない誰か作り出したバリアによりココは助かった。けれども、一体誰が? もしかして、新たなる魔法少女が現れる? 次回もお楽しみ的な言い方をしているな」

「わかりやすい言い方ありがとう。まったくもってその通りよ」

「残念だったな。あのバリアは俺が出したんだよ」

「え、健斗が? あの状況で?」


 まっすぐ見上げるメニににやりと笑ってみせた。


「バランスを崩して倒れようとしていた時、俺の視界に1匹の、しかも極上に可愛い黒柴が見えてな。黒柴っ子が『負けないで』って俺に言ってくれたんだ」

「……」

「黒柴っ子のエールを受け取った俺のピュアなパワーと頭が対処方法を見つけ出し、俺は一瞬にして強力なバリアを貼ったわけよ」


 メニが何も言ってこないので、俺は話を続ける。


「あの黒柴っ子、あのペットコーナーにあるトリミングでもやっているのかな? また、ホームセンターに行くのが楽しみだなぁ」


 俺はスキップしたくなる衝動を抑えて、帰路を進んだ。


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