同士
「まあ、健斗は、ある日突然、魔法少女になった素人だから、仕方ないと思うよ」
翌日の登校。高校の制服をきた小学生に見える魔法少女の相方メニはフォローしてくれた。
「あっちも、ある日突然、魔法少女になったのは同じだろう」
ど素人から始めたとはいえ、俺もそこそこ倒してきて、それなりに強くなったんじゃないかなぁと思っていた矢先に3人目の差である。正直凹む。
「魔法少女になる前から何かやってたんじゃないかな。格闘や裏稼業とか」
「裏稼業って何だよ……」
俺の視線は塀のスキマから顔を出す犬っ子に移り、考える事をやめた。こんな時でも犬っ子を見ると心が癒される。近所で一番の癒し犬っ子、ロンちゃんは(第2話参照)はまるで『健斗、どうしたの?頭をなでてくれるとハッピーになれるよ』と言っているように思えた。
「そうだよね、ロンちゃん。俺、頑張る」
ロンちゃんをナデナデしながらついつい声にしてしまったが、メニしかいないから良いだろう。
「マイワールドに浸っている所悪いが」
「わぁっ」
後ろから声をかけられ。俺は声をあげてしまった。ロンちゃん、驚かせてごめんよ。
「すまないな。俺も時間がないから、要件だけ言っておく」
ロンちゃんの飼い主かと思ったが、その者は俺と同い年ぐらいの切れ長の目をした男だった。着ている制服はここら辺では見かけないもの。
「放課後、時間を開けといてくれないか。場所は後でメールする」
それだけ言うと男は走りだし、角を曲がった。後を追ったが、曲がった時にはもう姿たは見当たらない。
「……何だアイツ?」
「ここら辺では見かけない制服を着た、見知らぬ人が声をかけるっていうのは、どうみても」
「3人目の魔法少女。男子高校生が、かぁ?」
「健斗、人の事、言えないでしょ」
「……」
確かに……
授業中、教師の目を盗みスマホを手に取ったが、メールの受信はなかった。
「…………」
スマホをポケットにしまいながら、俺は昨日の出来事を思い出した。
3人目の魔法少女。
気になるのが性格だった。性格っていうべきなのか? あれは。
戦闘終了後、一言も話すことなく去っていった。上から目線で見ているならば、彼女の表情に冷笑とかあるはずなのに、それもない。
男からメールはなく、放課後を向かえた。 昼休みに、あの男が3人目の魔法少女だと間違いないだろうから、3人目の魔法少女と連絡をとれるメニに『集合場所を教えてくれ』とメールさせたが、返信はなかった。
「よぉ、変態魔法少女」
そいつは校門にいた。
俺は返答よりも早く、奴の口をふさぎ、人目のない所まで引っ張ってから、睨みつける。
「人の事言えないだろうが、魔法少女」
「少なくとも、マイワールドに浸れるほど、いってはいない」
「……」
メニが割ってくれなければ、近くのカラオケで自己紹介はできなかっただろう。
『魔法少女』という聞かれては困る単語を含むのでカラオケを選んだ。
場所を決めると言ってたが、結局、俺が決めるハメになったが。
「俺は、柴沼健斗。高2」
「俺も2年だ。菅原晴紀という」
「魔法少女名は?」
「……。そうだな、ラスティと呼んでくれ」
名を言い終わったところで店員さんがドリンクを運んできた。数秒前まで会話が交わされていたとは知るよしもない店員さんは営業スマイルで帰ってゆく。何か凄い光景だな……
烏龍茶を一口飲んでから、俺は気になる事を口にした。
「それにしても、すごい戦闘スキルだな。何かやってたのか?」
「子供の頃、空手をやってた」
「やっぱり、経験か」
「戦闘が好きだからな。好き過ぎて回りの声が聞こえないことがある」
喉が渇いていたのか晴紀は烏龍茶を一気に半分飲んでから、言葉の残りを続けた。
「俺の魔法少女としての活力は戦う事にある。戦うのが好き過ぎて記憶に残らないほど」
「記憶に残らないって」
「異常ってやつだ。
だから、俺は極力1人で戦うつもりだ。仲間を傷つけないためにもな」
晴紀は残り烏龍茶を飲み干して立ち上がった。
「今日はさそれを言うためにきた」
「もう帰るのか?」
「ああ。だが、お前はまだ楽しんでいろ。何せ3時間設定に頼んだから」
言い終わると、晴紀はスマホの瞬間移動機能を使い、姿を消した。
「……な、何なんだあいつは」
単独行動すると言い。カラオケ3時間しろという、どS行動していった。
「まったくわけわからねぇ。メニ」
俺は立ち上がった。別に3時間頼んだって料金払えば、キャンセルできる。
「おっけー。健斗の友達にメールしておいたよ」
明るい茶髪の美少女でスマホ兼魔法少女の相方は、妙な返事をした。
「メールって?」
「健斗のおごりでカラオケ3時間やるって。皆にメールしたよ」
メニはにっこりと笑っていた。柴犬みたいに尻尾を振り『えへ顔』を向けて。
晴紀とメニの連携プレーにより、カラオケ大会が始まることとなった……




