現実
男達から解放されて俺は再び河川敷に戻ってから変身を解いた。
「かりん……」
魔法少女のまま座り込むかりんの横に向かい俺は現実を口にした。
「かりん。そもそも、中学生には戦いなんて無謀すぎるんじゃないか?」
「いや、魔法少女になって、私も活躍したい……」
「戦闘って、悪ければケガどころか生命にだってかかわる……」
「嫌だ。魔法少女になって活躍して、そして有名になるの」
かりんは首を振る。何を言っても彼女の考えは変わらないようだ。
「……」
立ち上がり見上げると、空は夕刻の終わりを告げている。
「とにかく、今日は帰ろう。それから……」
かりんは俺のズボンを軽くひっぱった。
「帰りたくない。健斗、泊めて」
傷心の中学生を無理に帰らせるにはいかず、俺の部屋に連れて行った。
とはいえ俺の家族に事情を説明しても納得してくれないだろうし、部屋に涙目の女子中学生を目撃されたら、誤解した親たちに袋だ叩きにあうのは間違いないだろう。
俺は細心の注意を向けて魔法を解いた花凛を部屋に入れた。
彼女の夕食を仕入れなければならないので『どんな事があっても、家族を入れるな』とメニに頼んでから、俺はニワと共にコンビニに向かった。
「花凛。学校でも内気で、ほとんどクラスメートと話さないんです」
5センチくらいのサイズになったワニのヌイグルミは俺の横をフワリと浮きながら、しゃべり始める。もちろん、俺ら以外に人はいない。
「僕とコンビを組んでから少しずつコミュニケーションがとれるようになってから花凛、将来はアイドルになりたいって教えてくれたんです」
「だから魔法少女になったって事か?」
「はい。魔法少女になったからアイドルになれるって考えよりも。魔法少女になって活躍して、自身をもってほしいと思って」
俺は首を振って否定した。
「でも、魔法少女は戦うものだ。女子中学生に戦闘なんて危険すぎる」
「そうなんです……今まではコボルトで済んだものの」
「俺の前に副将軍の片腕レベルの奴が現れた。そんな奴を中学生に戦わせる気か?」
「…………」
ニワは黙っていたが、首を振った。
「危険なのはわかっています。でも、今、このタイミングで魔法少女から手を引いたら……花凛。正直、すべての物事から恐れをなして逃げ出してしまいそうで」
「…………」
俺達から会話が消えた。
夕食をとった花凛は俺のベッドに体育座りしたまま、動くこともしゃべることもなかった。
なんて声をかければ良いのかわからず、俺はとりあえず学校から出された宿題をすませつつ、たまに花凛の様子を伺った。
いつもは永遠のように感じる宿題があっという間に終わり。さてどうしようか、と考えた時、花凛が俺を呼んだ……ような気がした。
あまりにも小さな声で、聞き取れなかった。
「呼んだ?」
花凛から返事や動きはなかった。
ついでに花凛の横にいたメニは横になりぐうぐうと眠り、ヌイグルミのニワにも動きはない。まぶたのないヌイグルミなので目が開きっぱなしだが、動きもしゃべりもしないので、こいつも眠っているのかもしれない。
「健斗……」
しばらくして、今度はちゃんと花凛は呼んでくれた。
「どうした?」
それ以上、花凛は言わず、俺はとりあえず近づいた。同じベッドに座ると花凛は腕を伸ばし、俺の利き腕を掴む。
「ねえ、健斗。どうすればいい? どうすれば戦うことができるの?」
不安に包まれた目をしているが、何か強い力を感じた。
「戦う……とりあえず勇気があれば、どうやって戦おうか考えられるんじゃないかな」
「勇気。じゃあどうすれば勇気を持つことができる?」
「どうすれば……どうすればといっても」
しばらくし考えても、答えはでなかった。答えがでないまま視線を戻すと……花凛はその体勢で眠っていた。
「…………」
俺は花凛の掴んでいる手をそっと解除し、体育座りの体勢のまま眠るのは大変そうなので横にさせようと腕を伸ばしたら……殺気を感じた。
「健斗さん。変な真似をしたら、噛み付きますよ」
「えと、誤解だから」
「そうですか、なら、良いのですが」
ニワは花凛の前に飛んでいくと、ふわりと少女を浮かび上がらせた。
「今日のところは花凛を連れて帰ります」
「ああ、そうしてくれると、助かるよ」
「帰って、様子を見つつ花凛と話し合ってみます。
健斗さん。もし、魔法少女が3人から2人になっても、怒らないでください」
「怒らないよ」
「それでは、おやすみなさい」
部屋は静まり、寂しくなった。




