かりん という子
「うへへへへ」
爽快にモンスターを倒し、休み明けの放課後も良い事があったので頬がゆるみっぱなしである。
下校する俺らの前に散歩中の柴犬がいて目が合うと、その子は『えへっ』と笑い返してくれたではないか! その犬っ子はおやつをたっぷりもらって上機嫌だったのか、それとも俺の犬好きに気づいて笑ってくれたのかは、気になるが。
「やっぱり犬っ子っていうのは癒しだよなぁ」
「健斗の顔、物凄くゆるんでいるよ」
じっくり観察されても今の俺には気にとめないが、メニの方が怪訝な表情をしていた。
「それはそうと、気づいている?」
「へ? 何が」
「つけられているわよ。私達」
「え……」
言われて俺はそのまま振り返ってしまった。が、後ろにそれらしき姿はなかった。
メニに苦情を言おうとした時、後方から風が吹いた。前方に向きを戻すと、その者がいた。
「魔法少女、ココ。あたしと、勝負しなさい!」
前方には茶髪のツインテール娘、魔法少女かりんが人差し指を向けた。
「……」
俺ではなく、メニに。
「…………」
「うーんと」
俺達が顔を見合わせるのと見たかりんは、無視されたのと思ったのか声を高めた。
「魔法少女ココ。1番の座をかけて戦うのよ!」
改めて人差し指をびしっと向けたのだが、やはりメニに向かっている。
「かりん。重要な事を言ってもいい?」
かりんの背後から浮遊するワニのヌイグルミが現れた。おそらく、かりんの相棒だろう。
「何よ、ニワ。人が格好よく決めている時に」
「指を刺す方向、間違っているよ……子供の方じゃなくて、あっち」
「え……高校生の、しかも男が魔法少女だっていうの、し、信じらんないっ」
かりんの言葉は、何気に俺の心をえぐった。俺だって気にしているんだよ。男が魔法少女やるのは……
「ごめんなさい、間違ったりして」
落ち着いて話をするため、俺らは近くのファーストフードに寄った。
「いや。まあ、普通は女の子がなるもんだから。そう考えてもしかたないよ」
「でも……」
変身をといたその子はここら辺では見かけない制服を着ている。さっそく瞬間移動機能を使ってきたようだ。
「とりあえず、自己紹介しよう。俺は柴沼健斗。高2だ」
「健斗さんですか。青春真っ盛りな年頃ですね」
小学生くらいの高い声がテーブルの上で聞こえた。
15センチほどのワニのヌイグルミが2本足で立っていた。ギザギザのフェルト製の歯に同じ素材の回るい目。丸みを帯びた腹。可愛いよいうより愛嬌がある。
「僕はかりんの相棒でニワと言います」
ワニだから、ニワなのか……
「ニワはヌイグルミなんだな」
「はい。ヌイグルミですが、バッグの飾りサイズにもなれば、町のゆるキャラの着ぐるみサイズ、まあ、人間並みにもなれます。もちろん、好き嫌いはありません」
そう言うとポテトを指のない手で器用に取り口の中へ。口ががっしりと閉じて、開くとポテトは消えていた。……どこの相方も想像できない事をしてくれるらしい。
「はいはい。あたし、メニ。健斗の相棒」
「メニさんですか、相棒同士、仲良くしましょう。」
メニは手を伸ばしヌイグルミの手を握った。何も知らない人からみるとほほえましい光景になるだろうな。説明していなかったが、もちろん、ニワがしゃっべったり動く時は回りに人がいない時だけである。
「えと……大沢花凛です……中学二年です」
花凛はうつむいたままだった。
「花凛。人と話す時は顔をあげないと。すいません、健斗さん。花凛は魔法少女の時と違って、普段は内気なんです」
どうやら変身することにより性格が変わるようだ。
「花凛。本題に入ろう。今日はどうしてここに来たのか」
「……。ニワ。代わりにお願い。だって、男の人とあまり話したことがないから」
「仕方がないなぁ。僕が代弁します。
今日、健斗さんのところに来たのは、先週のお礼と、ご挨拶。それからお願いがありまして」
「お願い?」
「はい。先週見た通り、花凛の戦闘能力は低くて、これから先を考えると健斗さんに戦い方を教えてくれないかと」
「良く、今まで戦ってこれたな」
「ほとんどコボルト相手だったので」
ニワはふうとため息をつき。花凛が頼んだミルクティーを、カップに口を突っ込んでごくごくと飲んだ。
花凛は見慣れているから無反応だが、なかなか衝撃的な光景である。しかも、布の素材なのに彼の口の周りには一滴の水分も付着していないのだ!
呆然と見つめる俺達の驚きに気にすることなく、ニワは更なる発言をした。
「花凛は魔法少女として活躍し、そこからアイドルになるという、大きな夢があるんです」
「アイドル?」
「はい、モンスターを倒す美少女なんて、アイドルにぴったりじゃないですか」
「アイドルになりたいために魔法少女で戦うって……」
不純な動機と言いたかったが、俺もどうどうと言えるたちでないので、やめた。




