2人目の魔法少女
「ところでメニ、何をバージョンアップしたんだ?」
扉を閉めて階段を降りながら、何も変わってなさそうな相棒を見た。茶髪の柴犬系美少女(犬耳とかはついていない)はにやりと笑う。
「メニ、瞬間移動できるようになったんだ」
あやうく階段を踏み外しそうになった。
「しゅ、瞬間移動って……」
「うん、魔法少女は3人しかいないのに、モンスターは日本中に現れるから、退治しきれないんだって」
「理由はわかるが……どうやって」
「あのね、部屋の奥にいた白髪のおじいちゃんに大きな飴玉貰ったの。メニはそれを一口で食べたら、いつのまにかできるようになったんだよ」
「…………」
俺はそれ以上聞くのをやめた。
更新手続きを済ますとやはり解放感がある。今日は日曜日。まあ、休みの日じゃなければ、都会にこれないところに住んでいるから。
「せっかく都心に来たんだから、どこかに寄っていこう。メニ、ここら辺で行ける犬っ子スポットを調べてくれないか?」
スマホにネット検索命令をする。これってCMでやっていた事が実現できるっていいな。でも、スマホでなく人型だが……
「健斗……せっかく池袋にいるんだから、水族館行こうよ、犬っ子はどこででも見られるじゃない」「かばもん、田舎には田舎の。都会には都会でしかみられない。犬っ子がいるんだよ」
「でも、見に行くのはペットショップでしょ。生まれて、しばらくした」
「う」
「ブリーダーさんも近くにいるとは限らないじゃない。もしかしたら、健斗が済んでいる地域のブリーダーさんかもしれないし」
「…………」
いや、ここで引いたら負けだ。
「いや、メニ。でも、水族館……」
犬っ子に悪いが水族館の誘惑にかられたまま、メニのいる方向に向いたが、肝心の相棒がいなかった。
それから上着のポケットが重くなったような気がする、軽量化されたスマホだと、なかなか気づけるレベルではないので何となくである。
「というわけで、健斗」
「え、事件発生?」
その声は俺が出したものではなかった。
「?」
辺りを見回した。雑居ビルから離れ、だいぶ人通りの多くなったあたりで携帯を耳に当てているのは数名ほどいたが、声が聞き取れるのは前方にいる1人。
「じゃあ、さっそく瞬間機能を使えるの? え、そんなに近く? しかたない。走って行くよ」
スマホをきった、その者は俺に気づくことなく走り出した。
「聞いたか、メニ」
「もちろん。その子が言った通り、現場はここから数分もかからないところだよ」
「よし、俺達も出発する。メニ、ナビを頼む。できれば、あの子に気がつかれないルートで」
「おっけー」
俺は走り出した。
現場は三車線の道路のど真ん中だった。
現れたモンスターの近くにトラックが1台止まっていて、そこから数メートル先に立ち往生した車が、進みも戻ることも出来ずに止まっている。
「クケケケケケ」
車がモンスターの横を通り進めないのは、振り下ろされたら大変な曲刀を持った2匹のリザードマン(トカゲ男)が長い舌をチョロチョロしているからだろう。
「事故を起こした車はないが、まだ警察は着ていない」
安全範囲内にいる野次馬の1人として俺は現場を伺っていると、少女の高い声が近くのトラックの上から響いた。
「人間界の道路交通法を守らない無法者」
人影が道路に着地する。
「ウィッチ・アイドル、かりんが成敗する、覚悟しなさい」
リザードマンの前に現れた魔法少女は、一言でいうならばミニチュアダックスフンド娘というところだろうか。茶色のツインテールに黒色のゴシック風の魔法少女服。髪の質量が多いからミニチュアダックスフンドみたいな、になっただけなのだが。
「ウィッチアイドル……」
「少なくとも、健斗よりもセンスあるわね」
「……」
「どうする? 参戦する?」
「様子を見てからだな。彼女1人で倒せるのに出て行ったら何か恥ずかしいし……」
何よりも、俺が男の魔法少女なので、あまり知られないようにしたい。
「うわぁぁぁ、2対1なんて卑怯よ。わぁっ」
しかし、格好良く登場したものの魔法少女かりんは、逃げるまわるのに必死で彼女の手に負えないようだ。
「メニ、行くぞ」
俺は野次馬を離れ、まず、変身できる場所を探す事にした。
振り下ろした曲刀を肉球グローブで受け止める。
「クゲッ」
「魔法少女ココ、ただいま参上」
昨日、格闘の対戦をテレビ観戦したせいか。体が楽しく動いた。曲刀を弾き上げて蹴りをかまして武器を振り落とす。軽い体のお蔭でカポエラキックもヒットした。
「ジャンプしてからの、ホーリーハンド」
1匹を倒した俺は、ほとんど同じ手で2匹目も消滅に成功。
「大勝利!」
決めポーズを取った所でパトカーのサイレンが聞こえてきたので、早々に去ることにした。魔法少女といえとも、職務質問は避けられないのだから。




