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俺が魔法少女になったら  作者: 楠木あいら
魔法少女かりん
19/28

更新

 魔法少女育成協会からメールが届いた。



 魔法少女育成協会                              魔法少女様


 拝啓、ますますご健勝のこととお喜び申し上げます。

 さて、この度、下記要領にて魔法少女の契約更新とスマートホォンのバージョンアップを行うこととなりました。つきましては、ご多用中誠に恐縮ではございますが、ご来場いただきたくお願い申し上げます。                                       敬具



 とうわけで俺は魔法少女の相棒兼スマホのメニを連れて池袋に到着した。


「さすが都会だねぇ、人が尋常なく、うじゃうじゃしているよ」


 郊外から出たメニの感想はそれだった。


「恥ずかしくなる発言はしないでくれ。それよりも、はぐれるなよ」

「はぐれると、健斗の方が迷子になるね」

「……」


 俺の携帯はメニの体内にあるため、その通りである。


「メニさん。お願いしますから、はぐれないようにナビしてください」

「おっけー」


 スマホであるメニは、どうやってかは知らないが、通信機能したままネットで地図を検索し、目的地に向かう。


「こっちだよ」


 と、メニは散歩中の犬っ子のような軽い足取りで右に左に曲がってゆく……人の少ない道へ。


「着いたよ」


 と、言って止まった場所は都会なのに人通りのない場所にある古い雑居ビルだった。


「池袋なのに……」

「魔法少女育成協会は2階だよ」


 メニは疑問にならないのか、階段 (エレベータもない) を上がっていく。2階にあがってすぐに、白い鉄製にすりガラスがはめ込まれた扉があった。異世界というよりもタイムスリップしてしまったようだ。

 すりガラスには『MS協会』と白いインクで書かれてある。MS? 魔法少女のMSか? せめてマジックガールでMGだろ。いや、ウィッチガールにしてWGとか。


「……まあ、いいや、入ろう」


 俺はとりあえず、ノックして扉を開けた。


「いらっしゃいませ」


 扉を開けた先には『昭和』という言葉が当てはまるような古めかしいカウンターと、それに見あった椅子が2つ。部屋自体はもっと広いのだが、仕切りにより狭いカウンター以外、どうなっているのかわからない。


「今日はどういったご用件ですか?」


 笑顔を向けてカウンターの奥にいるのはいかにも事務員という制服を着た女性だった。眼鏡をかけた、なかなかキレイな人。


「あの、メール受け取って、更新に来たのですが?」

「お名前を伺ってもよろしいですか?」

「柴沼です」

「メニです」

「……お前はいいって」

「柴沼様とメニ様……魔法少女ココ様ですね、お待ちしておりました」


 事務員さんの言葉を聞いて、ほっとし、忘れていたファンタジー感も思い出した。


「まずは、こちらにお座りください」


 事務員さんは書類を俺の前に置いた。


「こちらの更新手続きに目を通したら、名前と日付をお願いしますね」


 事務員さんが渡した書類には『更新契約書』と書かれていた。文書は、さらに半年のスマホのタダ機能と魔法少女として活動すると書かれている。


「半年更新なんですね」

「はい。闇の動きがどうなるのかわからないので」

「需要と供給というやつだね」

「……」


 事務員さんが出したお茶をメニはすすっていた。スマホなのに液体も関係ないのだ。


「名前、それから今日の日付……」


 改めて今日は何年何月何日かと聞かれると、わからなくなるもので、俺はカウンター横になる卓上カレンダーに目を向けた。


「……見えない」


 卓上カレンダーは、俺が視線を向けた途端、淡い光を放ち、中央に文字を浮かび上がらせた。マジックアイテムというやつか? 残念ながら、浮かぶ文字は人間にはわからないものだった。


「そちらは光暦用です」

「光暦じゃないと駄目なんですか?」

「人間界用で大丈夫ですよ」

「光暦は・年・月・日 (読み取れない) で人間用は2013年3月15日だよ」


 電子機能を持つメニは俺に出してくれたお茶をすすりながら、教えてくれた。


「これで、いいですか?」

「はい……、はい。大丈夫です。これでココ様の契約更新が完了しました」

「次はメニのバージョンアップだね」


 メニはぴょこっと椅子から降りた。茶色の髪とスカートが彼女の動きに合わせて揺れる。


「ではメニさん。こちらのドアにお入りください」

「わかった。じゃあ、健斗行ってくるね」

「ああ」


 メニが部屋奥にあるドアに進むと、カウンターは俺と事務員さんだけになった。


「あのう、聞いてもいいですか?」


 俺は気になっている事を聞いてみた。


「魔法少女って、他にもいるんですよね?」

「はい。雑誌に無料スマホ兼魔法少女の募集を30名にして、書類審査に合格した18人にメニさんと同じ機能を持つ、スマホを送りました」

「書類審査? 懸賞のためにハガキに名前と住所しか書いていないけど」

「それが書類審査になります。名前と住所だけでも魔法少女に適正しているか判断できるアイテムがあるので」

「便利だな……そっか18人もいるんだ

「いえ……スマホを送ったものの、本当に魔法少女になれたのは8人。そこから実戦して、戦う機能を持てたのは5人。棄権や犯罪目的に悪用しようとして利用停止処分になったりして、最終的に残ったのは3人なんです」

「3人……ずいぶん減ったなぁ」

「いえいえ。私達側としては1人残るかどうかの賭けだったので、3人もいるのは良い結果ですよ」


 事務員さんはにっこり笑った。その笑みに清純さを感じ、制服を着た事務員さんでも光の属性を感じとることができた。


「健斗、お待たせ」


 会話を終了したところで、メニが戻ってきた。一見、変化したところは見当たらない。


「これにて更新とバージョンアップの手続きは全て終了しました。

 魔法少女ココ様、ますますのご活躍を願っております」

「はい。もちろんです」


 俺たちは光属性を持つ事務員さんに見送られながら部屋をあとにした。



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