友達
「どうぞ、ご自由に」
それに対してチワンティーヌが言ったものがそれだった。
「とはいえ、そんな下位の者など、5分たたず飽きるでしょう」
「……。そうだな、ヤワガと言ったな、さがってよい」
「はい」
低いままの頭をさらに下げて一礼した。
チワンティーヌのさらりと言った言葉のお蔭で闇の王と2人っきりは避けられたのだから。
「タバース、タバース」
退室したチワンティーヌは知らない名前をあげると、前方に紫色の淡く光る球体が現れた。
「ハゼンバをすぐに呼び戻せ。それからガラン要塞にいる、オートゼセルに作戦B案実行と伝えろ」
「かしこまりました」
光から響くように声がすると、すうっと消えた。球体から聞こえる声主がタバースさんらしい。球体のモンスターなのか、タバースさんが通信の魔法をつかっているのかは、わからないが、すごい光景でしかない。
それにしても、すばやい指示を出すチワンティーヌの姿は、人間世界でみるのと全く違って見える。
「ヤワガ、詳しく話を聞きたい。着いてこい」
振り替えることなく、言うだけ言うと、チワンティーヌはつかつかと歩きだしたので、後を追い、再び黒い壁に足を入れる。
「……」
一寸先も見えない闇の通路に入ったら、手に触れる感じがした。暗色で見えないので、本当にそうなのか、わからなかったが、くいっと左に手の方向がいったので案内してくれているようだ。
「……」
俺は目を閉じて引っ張られるままに進んだ。左に曲がり、数メートルほど進んだら、パタンと扉の開閉音がした。どこかの部屋に入ったらしいが、そこも暗色の空間だった。
手の感触がなくなりチワンティーヌが手を離したが、その後、前身に温かくて柔らかい感触がした。
「良かった」
チワンティーヌの声が間近で聞こえる。それはチワに抱き締められている事になる。
「闇の王に人間が5分以上居続けたら、身を滅ぼしてたところだ。無事で本当に良かった」
「え……」
全身から汗が吹き出た。もしかしたら、俺、木っ端微塵? チワンティーヌのハグは友達として心配さたからのものらしい。すぐに離れてしまったし。
「驚いた。もう池に飛び込んで人間世界に戻ったと思っていた」
「ハナが緊急って言ってたからな、友達なら当たり前だろうが」
「そうか。ありがとうな」
暗色でわからないが、チワンティーヌは笑顔を向けてくれたのだろう。見えないのに心からほっとすることが出来のから。
1週間後。
俺はメニとホームセンター内にあるペットコーナーにいた。
「平和だな……」
闇の副将軍にやられて、闇の領域に連れていかれたが、無事に帰ってきたこともあってか、魔法少女は続けられるようだ。
「……」
新しく入荷した犬っ子に心も癒されつつも、何か引っ掛かったいた。
というより、寂しさだろう。ドタバタと生死の危機にあったりしたものの2人の存在がいなくなるのは、心に大きな空洞ができてしまう。
「………………」
ぼうっとしていたら、スマホが鳴った。
「メニだっているんだからね」
「はいはい。わかっているよ」
そっけなく返したが、俺の頬は緩んでいた。メニの言葉がにほっとしていた。
「と言うわけで、敵さんは駐車場にいるから、よろしく」
建物を出て、人目につかない場所についた俺はスマホ画面にある『PUSH変身』を押すと、光が生まれ、俺を包み込んだ。
赤いひらひらした衣装に黒くて長い髪。犬の耳としっぽを持つ魔法少女になった。
「魔法少女ココ。ただいま参上」
リザードマン戦(4話、参照)と同じ駐車場と歩道の間に灰色のゼリーがいた。登校中に出会ったのと同じ種類だろう。(8話、参照)
「今日も元気にホーリーハンド」
巨大化した肉球つきグローブを降り下ろし、今日の戦闘はあっという間に終了した。
「終了」
決めポーズをした後で、視界に同じ学校の制服に灰色髪の者がいた。
「ハナ」
「順調そうだな」
俺は(もちろん人気のない所で)変身をといてから。ハスキー犬系美人の友人に歩みよった。
「私はある者、まあ、チワだが。頼まれて情報収集にきた。魔法少女ココは相変わらずやっているのか。私が唯一出現できる、灰色モンスターを楽々排除できたから問題ないだろう」
「あれ、お前の仕業だったのか」
ちなみに魔法少女の一撃必殺は人間世界から追い出しているだけで、殺してはいない。
ただし、魔法少女に排除されると2度と人間世界に来られないらしいから、高い位を持つ者にはかなりのプライドダメージがある。
「ところで、どうして、人間世界にモンスターがやってくることになったのか知っているか?」
「さあ」
「闇の副将軍が軍事金でボールを買ったのが上司にばれて、機嫌をよくするために、軽く人間世界にちょっかいを出して、光側にあおっているようだ」
そのボールってクリスマスの時に人間界で探してたやつか……(7話、参照)
「……。仕方ない、友達だな」
「そのお陰で、繋がったんだ、文句いわない」
「そうだな」
俺は笑って夕闇を見上げた。




