暗色の先にいる者
「ここだ」
ハナが立ち止まった先には黒い壁があった。
「壁?」
壁を叩こうとしたら、すり抜けた。
「闇属性専用の通路だ。健斗が着ているローブを装備しても、光の属性を少しでも持つ者が通れば焼き付くされて灰になる。機密情報を守るため、灰色の民が入れないようになっている」
「灰……人間は大丈夫なんだよな」
念のため聞いた。
「大丈夫だ」
しかし、ハナは不安げな表情をしていた。
「残念ながら、この先について、私は何も知らない。チワがどこにいるのかも」
「……」
「手は打ってある。お前はドルガルサルに使える新人ヤワガと名乗れ。
ドルガルサルは強烈な腹痛で動けないからメモを預かっていると言えば、場所を教えてくれるだろう。ドルガルサルと鉢合わせすることはない。安心しろ」
「それって……」
「別件で強力な下剤を盛ったから、今も動けないだろう」
ドルガルサルさん、ごめんなさい。
「フードを絶対にとるな。あまりにも低い位だから見せれるものではないと言い張れ」
俺はスマホをハナに渡した。
「念のため預かっててくれないか」
「もちろん。メニは私の大切な友達だ」
ハナは両手で受け取り、胸の前に持っていった。
「行ってくる」
「頼む。そして気をつけて」
「ああ」
格好良く、闇の通路を歩き始めたものの……早々に戻りたくなった。
無属性なので体に異変はないが、通路の中は暗色そのもので目を閉じているのか開けているのかわからなくなるほど。
その状態で足音が前後、左右から近づき、遠ざかっていくのだ。怖い。
闇属性の者にとって、普通に見えるようだ。
「…………」
俺は、左側により壁に手をあてて前に進んむ。一度、右肩が闇属性の者に当たり、小心者のように『スミマセンスミマセン』と連発してしまったが、何とか闇属性者専用通路をクリアできた。5メートルぐらいの距離があったと思う。突然、暗色世界が止み、ハナといた変わらない空間があった。
「何だ、お前?」
闇通路の先に両開きの扉があり、左右に鎧装備と牛の頭を持つ獣人が警備をしてた。ミノタウルス……初めて見た。
「えと、腹痛で動けないからドルガルサル様の代理でチワンティーヌ様に大至急、報告しなければならなくて、探しているのですが……」
ミノタウルスに圧倒されて、おどおどしてしまった……位の低い奴設定だから、この方が良いのかもしれない。
「副将軍なら、この先にいる。重要そうだな」
「それと気の毒にな」
「はい……」
ミノタウルス達に一礼して、扉をおそるおそる開ける。
「失礼します」
入室してすぐに、俺は片膝をついた。礼儀作法ではなく、とてつもない圧力に耐えられなくなったから。
暗闇の広い空間に青い炎の照明とかがチラリと見えたがそれよりも何かが見えた。それが何だったか気になるが、それよりも圧迫する力で黒い床と自分の足を見つめるのが精一杯だった。
「見なれない奴だな」
チワンティーヌの声で我に返った。
「わ、わたくし、ドルガルサル様の代理でヤワガと申します。チワンティーヌ様に大至急な、メモを預かってきました」
ドラマや映画でみた感じに演じてみたかったが、圧迫する力のせいで変になってしまった。
片膝をつき下を向いたまま、十数センチ先にしか見えないが、チワンティーヌの声と彼女らしき足が見える。
俺は顔をあげないまま、メモを差し出した。もし、そこにいるのがチワンティーヌではなく、彼女を脅かす者だとしたら……
「ご苦労」
チワンティーヌの声と指先からメモの感触が消える。とりあえず安心して良いようだ。
「何か事件か?」
低い腹の底から響く声が、前方より聞こえた。圧迫を感じた方向から。という事は、闇の王? 魔王?
「コバエがたかっているだけです。ですが新鮮な肉を狙っているので、早急の対処が必要です」
「行くのか、ならば、そこの者、ワシの話し相手にならないか? 暇でのう」
響く声からでた言葉に耳を疑った。
闇の王と2人っきりになるのだから。




