夏みかん
火を取り囲んで、沢山の人の写真が飾られている。
その一角・・・イヨカンの写真の前で、ナツたち3人は静かに手をあわせた。
「・・・じゃあ、あたしはパパと一緒にママたちのところに行ってくる。2人はどうするの?」
「とりあえず・・・ナツが戻ってくるまで王宮にいるか?」
「そうね。じゃあ、明日ね。」
「うん♪」
ナツは、少し先で待つ父のもとへ駆けていった。
空には無数の星が瞬いている。
ずっと夕方だったこの世界にも、ようやく夜がやってきたのだ。
昔過ぎて誰も知らなかっただけで、実際戦争が始まる前までは普通に朝・昼・夜がきていたのだろう。
そしてなぜか、戦争のせいで星の時間が止まってしまった・・・だからどちらの星にも朝がやってこなかったのだろう。
「パパ!」
「お、終わったか。じゃあ、行くぞ!」
「うん!あれ、こちらは?」
父の隣に、おじいさんがいた。
「オウトウさん。ずっと俺たちの世話をしてもらっている。」
その時ナツは、いつかテレビで見た、自分の家族と一緒にいた老夫婦を思い出した。
「初めまして。君には感謝してるぞ♪死ぬ前に平和がみれてよかった。」
「初めまして・・・あたしはたいしたことはしてませんよ。礼を言うならこの国の王様にいってください♪」
「しかし、話を持ち込んでくれたのは君じゃ。」
「ふふ・・・ありがとうございます♪」
父は娘を見ながら、本当に成長したな、と改めて感じた。
「ここじゃ。」
ガチャッ
「ただいまー!」
「ほほ、帰ってきた帰ってきた♪」
「おかえりなさい♪」
「パパー!!」
家に入るなり3人が笑顔で出迎えてくれた。
「紗由!!!」
「久しぶり♪」
2人で抱き合う。
1ヶ月前は同じくらいだった身長も、今は紗由のほうが数センチ高かった。
「・・・あと、あたしはここではナツね♪」
「ナツ・・・なんでナツになったの?」
「最初に助けてくれたミカンって男の子がさ、2人あわせてナツミカンって♪」
「あはは、おもしろい子ね♪」
「うん♪」
1ヶ月ぶりに再会した家族4人は、今までのことを日が昇るまで語り合った。
「ナツは、これからどうするの?」
「とりあえず2人が王宮でまってるから、そこにいってから考える。」
「そうか・・・この先のことが決まったら知らせなさい。」
「わかってる。じゃあね!」
朝、ナツは家を出て王宮に向かった。
「やっ」
「ナツ!おかえり」
「どうだった?」
「たくさん話せて楽しかった♪」
「それはよかった♪・・・でさ、話しがあるんだけど。」
2人の顔が真剣になった。
「・・・何?」
その瞬間、ミカンは驚くべきことを言った。
「ナツたち、地球に帰れるかもよ。」
「・・・!」
「ただし、チャンスは一回。」
「・・・どういうこと?」
「あのね、似地の王が頼んで科学地区の人たちが調べてくれたことなんだけど・・・」
ユズが説明を始めた。
「ナツたちが移動したのは、あの木の木漏れ日のせいじゃない?」
「うん。」
「で、今まで太陽の光がさすことなんてそうそうなかったから、200年に1度太陽の光がさして地球とつながる・・・そんな考えだった。」
しかし、今回戦争が終わったことによって時間が進みはじめ、日がさすようになった。
つまり、昔も太陽がさしていた時期はあったことになり、するといつでも移動できていたことになってしまう。
「それはおかしいからって調べてみたら、こんな結果がでたの。」
そういって、隣にいたミカンがなにやら紙をとりだし、ナツにみせた。
「・・・これは?」
「風向き。ナツがワープしてきたあのときのものなんだけど・・・」
下から上に向かって矢印がかかれている。
「ぴったり南から風が吹いていたの。しかも、10秒間一切ぶれなかったし、風速もかわらなかった。」
「!」
「そして、丁度200年前にも、強さ・向きすべて全く同じ記録が残っている・・・つまり、200年に1度起きていた現象は、これのことだったんだ。」
ナツは確かに驚いたが、まだいくつか疑問はあった。
「でも、なぜ風で・・・?あと、それでなんで帰れるの?チャンスは1回って・・・」
「風はね・・・ほら、風が吹くと木は靡くじゃない?」
ナツはうなずいた。
「そして全く同じ風だと、木は同じような動きをする。・・・つまり、この10秒間、木はほぼ同じ角度で止まっていたことになる。しかも、止まるにはありえないような角度でね。」
「・・・その決まった角度で日にあたると、地球とつながる・・・とか?」
「そういうこと。」
「でもさ、葉はかれたりまた生えたりする・・・そうしたらいろいろと変わっちゃうんじゃないかな・・・」
問われたユズは、う~ん、とうなった。
「それはよく分からないけどね・・・ただ、200年に1度くらい、同じ形をすることもあるんじゃない?」
「・・・偶然に偶然がかさなるわけか。」
「多分ね。あるいは地球と似地をつなげているような特別な木だし、葉は同じように生えるのかも。」
「たしかに、たいした変化が見られるかって言ったらそうでもないしね・・・」
「そして帰る方法・・・もう時間が進むようになったから、太陽の問題はないじゃない?あとは風。ナツたちが移動してきたときと同じ風が起こせるかもしれない・・・というか、起こせるようになったの。」
「え?!」
「送風機をつかうんだけど、ぴったり同じ風が吹く設定と距離がわかったんだ!」
「じゃあ・・・」
「いつでも帰れるんだよ♪」
ユズが笑って言った。
「・・・でも、チャンスは一度って・・・?」
ナツがたずねると、ミカンが目を伏せていった。
「この現象は本来自然に起こるものだろ?そして今回は無理やり現象を起こさせる。すると、あの木自体がなくなるかもしれないんだ・・・」
「!・・・どうして?」
「あの夏みかんの木の枝をとって風を当ててみたら、なぜか消えてしまったの。」
それはつまり、元の世界へ戻ったら・・・
二度と、ミカンたちと会えないことをさしていた。
ナツは、ベットに横たわって考えた。
・・・友達にはあいたいし、家族のことも考えると戻ったほうが良いのは確かだ。
ただ・・・この世界に来たばかりの時を思い出すと、またあの気持ちになるのが怖かった。
それに、平和になったいま、こちらの世界でも一生を過ごしていけると思ったのだ。
勿論、今回の話を聞くまではその気でいた。
「・・・どうしよう」
この星の行く末も見届けたいし・・・
と、この星に残るほうに気持ちがぐらつき始めたときだった。
コンコン
「ナツ、いる?」
「・・・ミカン?」
「うん。はいるよ」
ガチャッ
「どうしたの?」
「進路相談にのりに来た。」
「!」
考えがまとまってきたらミカンにも相談しようと思っていたので、丁度よかった。
「・・・どう?」
「・・・本当は戻ったほうがいいのかもしれない・・・せっかくここまで調べてくれたし、それにあたしたちはもともとここの人間じゃないし。向こうの世界の知り合いの記憶から抜けたままなのも嫌。だけど・・・」
「・・・けど?」
「前言ったでしょ?今帰ったら、最初こっちにきたばかりのときみたいな気持ちになると思うって。それとか、皆があたし達を覚えていないかもしれないのも怖いし・・・なにより、この世界の行く末を見たいし。」
「・・・残りたいのか?」
「そうかも・・・。」
ミカンはうつむいたまま話すナツの手をそっと握った。
「残ってくれるならそれはうれしいけど・・・でも、俺はさ、戻ったほうが良いと思うんだ。」
「?!」
ナツは驚いて、顔を上げた。
「こっちの世界がこれからどうなるかなんて分からない。もしかしたら平和じゃないかもしれないしね。でも、どちらにせよ・・・ナツたちがここにいたのはたった1ヶ月。地球の思いでのほうが大きいんじゃないか?」
「!」
「それに・・・お母さんはどうかわからないけど、お父さんなんかそろそろ仕事がしたいんじゃないかな?ナツとナツの妹だって、そろそろ友達にあいたいだろ?学校だって、本当は行きたいんじゃないのか?」
「・・・」
「ナツたちは地球人。きっと、地球の生活のほうがあってると思うんだ・・・」
ナツの目から、自然と涙がこぼれた。
友達、学校、先生、近所の人、父の職場の人・・・みんなの顔が頭に浮かぶ。
・・・ミカンに、気づかされた。
「・・・あたし、戻りたいのかも。」
「・・・だろ?」
ミカンは笑顔でそういった。
「・・・ありがとう」
ナツは笑って、立ち上がった。
「・・・パパたちのところに行ってくる。」
「おう!」
走り去っていくナツの後姿をみて、ミカンは静かに涙をこぼした。
似地行きのロケットの中には、ナツ達一家と老夫婦、ミカンとユズと2人の王が乗っていた。
そう・・・家族で話し合った結果、帰ることにしたのだ。
窓をみると、似地と異火がみえる。
「見たところ、ここの植物は皆光合成のいらない種でしたが・・・これからは普通の植物も生きていけますね。」
昔理科専門の大学に行っていたアンズが言った。
「そうですね・・・室内栽培していたレタスなどの野菜も、外で育てられる。」
「そういえば、あの夏みかんの木・・・太陽もなくてよく育ってたね。」
「やっぱり、不思議な木なんだな・・・」
話したいことは山ほどあるはずなのに、モモさえもうつむいてなにも話さず、会話はたったこれだけだった。
外は晴天。
「・・・家だ。」
「わ~、家!!!」
オリーブとアンズとモモは、まっしぐらに家のなかに入っていった。
一足先に準備をしていた科学者たちが、王に何かを告げる。
「家の中にいれば、もうこのまま帰れるようじゃ。」
「そう、ですか・・・」
まだ準備が出来ていないことを心のどこかで祈っていたナツは、思わず暗い声がでた。
「うれしくないのか?」
「うれしいですけど・・・ね。」
「ナツ、俺の荷物まとめるの手伝ってくれ。」
「わかった♪」
2人で中に入り、ミカンの使っていた部屋に入る。
「あ、カメラなんかもってたんだ・・・」
「あはは、懐かしいな・・・いつかごみ置き場で拾ってさ、まだ使えると思うぜ?」
「・・・とりたいけど、残さないほうがいいかな・・・」
「・・・そうだな。」
写真なんかのこしてしまうと、寂しさが倍増する気がした。
「・・・ね、ミカン」
「ん?」
「お父さんとお母さん・・・見つかると良いね。」
「・・・あぁ。家族ってさ、いいもんだな。」
「でしょ?」
ミカンが鞄のチャックをしめる。
「よし、まとまった」
「・・・」
「・・・そんな寂しげな顔で見るなよ。」
そう言って笑いつつも、ミカンも少し涙目だった。
「・・・その笑顔にいつも安心させられた。」
「・・・え?」
「ミカン、ほんとに明るく笑うよね。」
「・・・そうか?」
「だけど・・・昔のほうがもっと明るい。」
ナツはミカンのポケットにある写真をさした。
「・・・あたしが行くとき、この写真と同じくらい明るく笑ってね!」
「・・・あぁ!ナツもな!」
「うん♪」
「俺たちは永遠にナツミカンだ!!」
「そうだね!・・・じゃあね」
「じゃあな。」
2人は近づき、どちらからともなくキスをした。
ミカンが部屋をでていくなり、家族が入ってくる。
「もういいか?」
「うん!」
「じゃあ、いくか。」
4人は窓から顔をだし、下を見下ろした。
「いいですよ!」
科学者たちが、機械を動かし始める。
まもなく、木漏れ日の光が強くなり、視界が白くなってきた。
「1ヶ月間ありがとう!!!!」
皆が叫んでいる。
ほとんどのものが見えなくなってきた中、ナツはミカンの姿をみた。
ミカンは、飛び切り明るい笑顔でこちらを見ていた。
ナツも、飛び切り明るい笑顔を見せた。
~そして~
あれから数ヶ月がたった。
「おはよう♪」
「紗由おはよう!」
もう、普通の生活を送っている。
この世界に戻ってきた直後、近所のおばさんにあったら、普通にあいさつをしてくれた。
きちんと記憶が戻ってきたのだ。
そして驚くことに、似地の世界にいる1ヶ月間、こっちの時間は全く進んでいなかった。
「ただいま」
家に帰る。
あの夏みかんの木は、消えていた。
でも、それでよかったんだと思う。
木が消えていなかったら・・・きっと、また会いたいと思って、あの木漏れ日をまってしまうだろう。
悲しかったが、気持ちはすっきりしていた。
「・・・♪」
1つだけ、残ったものがある。
・・・夏みかん。
木は消えていたが、木のあった場所に1つ夏みかんが落ちていたのだ。
生えてくるかはわからない・・・むしろ生えてこないと思うが、その種を植え、育てている。
水やりは紗由の仕事だった。
じょうろを持って、庭にでる。
『俺たちは永遠に夏みかんだ!』
「・・・あれ?」
何もなかったはずの土の上に、なにやら緑色のものがあった。
「・・・出た」
・・・芽が、出た。
「でたぁ!!!!!」
今すぐにでも誰かに伝えたいところだったが、あいにく家族は皆出かけている。
『久しぶり』
紗由の顔から自然と笑顔がこぼれた。
「久しぶり♪」
ミカンもずっと遠くで、笑っている気がした―――。
今までいくつかの別サイトで小説を書いたこともありましたが、あとがきはいつも懺悔室になってしまいます、さえ吉です。
沢山の作品があるなか、この本を手にとっていただき、本当に感謝です!
ありがとうございました。
特に何かをテーマにしたわけではありませんが・・・爽やかに仕上げたつもりです。
気持ちが落ち込んだときにこの本を読み、少しでも元気になってくださればなによりです♪
今回は懺悔というか・・・お願いで締めたいと思います。
このごたごたの文章と話の構成、会話文・・・所詮中1が考えた物語、書いた文章です。大目に見てください;