木漏れ日・地球と似地
先に伝えておきますが、この物語は完全なるフィクションです。
ところどころ文章がおかしなところはありますが、ご了承ください。
あれは確か、5月の中ごろ。そう・・・中学生になってわずか1ヶ月。
・・・家族が突然、キエタ。
真新しいセーラー服を着た、大人びた外見の中学生・・・本元紗由は、家の前で呆然と立ち尽くしていた。
朝は普通にあった家が、消えていたのだ。
「・・・火事?」
それにしては、燃えた跡もなければ、物一つない。
・・・否、紗由が生まれた当初からあった大きな夏みかんの木だけは立派にそびえ立っていたが。
こんなに早く片付けが済むとは思えない。
夢じゃないか・・・そう思って頬をつねったが、じんじんと痛みを感じた。
「・・・パパ、ママ、菜穂?」
とりあえず、父と母と小3の妹、菜穂を呼んでみる。
耳をすましてみたが、返事は全くなかった。
「・・・パパは職場かな・・・?」
そう思い、すぐ近くにある父の職場の製鉄会社に走る。
「すいません!父はいませんか?!」
「父・・・?君は?」
「・・・へ?」
目の前にでてきた男の人は、紗由もよく知る父の同僚。
・・・ただ、なにかがおかしい。
「あの・・・」
「だから、君は?」
怪訝そうな顔で聞いてくる。
「えっと・・・本元ですけど・・・」
嫌な予感がした。
「・・・本元?そんな人、この会社にはいないけど・・・」
「・・・失礼しました!!!」
恐怖を感じて、思わず紗由はその場から逃げた。
「っなんで・・・?」
頭の中は完全にパニック状態。
「どうしたの?」
道端に座り込んでいると、声をかけられた。
「あ・・・」
振り向くと、近所のよく知るおばさんがいた。
・・・ただ、さっきの父の同僚と同じような表情。
また、嫌な予感がした。
「どこからきたの?」
「!」
「ちょ・・・!」
おばさんを突き飛ばし、また走る。
疲れも感じずにしばらく走っていると、学校が見えてきた。
見回りの先生・・・紗由の担任がいる。
「先生・・・」
紗由は恐る恐る声をかけた。
「・・・うちの制服?」
やっぱり・・・そう思い、またその場から逃げた。
隣にある菜穂の小学校の菜穂の教室に行き、祈るように名簿を覗く。
橋本龍、本田美優、宮本奈々・・・
「・・・ない。」
菜穂の名前が、綺麗にない。
そしてまた走り、母のバイト先のコンビニに行った。
・・・が、この時間働いているはずの母の姿もない。
それどころか、別の見たこともない人が立っていた。
「・・・あ」
「?何か探し物でも?」
「・・・いえ」
いつもここにくると話しかけてくれる店長も、この調子。
紗由はとりあえず家のあった場所へ戻った。
「・・・どうしよう」
と、紗由はここでやっと、お腹がすいていることに気づいた。
「・・・もう夜か・・・」
あせっていたためか、時間の流れを感じることがなかったのだ。
とりあえず木によじ登り、夏みかんを1つ食べて、そのまま木の下で眠りについた。
上を見上げる。
木漏れ日がまぶしい。
「・・・朝か・・・」
立ち上がると、目の前に家が・・・
・・・あるわけもなく。
「・・・現状変わりなし、かぁ・・・」
早朝なのか人はいなくて、5月のわりには少し肌寒い。
制服についた土を落として上を見ると、木漏れ日の逆光で何も見えなくなった。
・・・木漏れ日にしては、なんだが光が強い。
周りのものが見えなくなり、白い光に包まれる。
なにか、胸騒ぎがした・・・
―――と、急に光が途絶える。
「?」
目をあけると、そこには家があった。
「・・・あった」
紛れもない、自分の家が。
「パパ、ママ、菜穂!!!」
叫びながら家に入る。
・・・が、返事はない。
否、なにやら声はしたが・・・
「誰だ!!!」
明らかに、知っている声ではなかった。
家の物、配置は確かに自分の家。
「それはこっちの台詞よ・・・」
つかれきっていたのか、驚くほど弱々しい声しか出なかった。
「・・・女?」
目の前に現れたのは、同じ歳くらいの男の子。
紗由より背が高く、そこそこ整った顔立ちであった。
・・・しかし、手には銃があった。
「誰?ここはあたしの家なんだけど。」
「そんなはずはない、ここは俺の家だ。」
「はぁ~・・・もうどうなってるの・・・」
紗由は反論する気力もなくなり、その場に座り込んだ。
「お、おい!」
男の子はあわてだし、紗由の肩をつかむ。
「家族も家もきえちゃってやっと家あったと思ったらこれだし・・・」
呟くように話すと、男の子は目を丸くした。
「君・・・」
「・・・何?」
「・・・名前は?」
「聞いて何になるの?」
「いいから!」
「・・・本元紗由」
「!」
なにか心当たりがあったのか、納得したような表情になった。
「・・・あんたは?」
「え?あぁ・・・ミカン。」
「・・・ミカン?」
「ミカン。コードネームだけどな。」
「コードネームって・・・本名は?」
「知らん」
「・・・え?」
紗由の頭にはてなが浮かんだ。
・・・自分の本名を、知らない?
「この世界で本名は使わないからな・・・物心ついたときからミカンだった。」
「・・・この世界?」
・・・ここは、日本じゃないの?
紗由の頭のはてなが更に増えた。
「あ、そうか・・・外を冷静にみてみな。」
「・・・?」
そういえば、家に夢中で周りの景色など見向きもしなかった。
いったん、外にでる。
辺りを見回すと・・・
「・・・!!!!」
辺りは焼けた家ばかり。
まるで、映画の中のようだった。
「・・・なんで?」
「こういう所なんだ、昔から。」
「・・・でも」
ミカンは日本語。
・・・日本に、こんなところなんか・・・あるわけがない。
「君はきっと、違う世界からきたんだよ。あの夏みかんの木に誘われてね。」
「?!」
ミカンの言葉に、紗由は目を丸くした。
「今日から君の名前はナツ。2人あわせて夏蜜柑だ!」
そういってミカンは二カッと笑った。
家に入り、お茶をだされる。
紗由・・・ナツは、今だに現状が理解できずにいた。
「・・・こういう所ってさっき言ってたけど、なんであんなひどく・・・?」
「いわゆる戦争ってやつ?っていっても、他星とだけど。」
「・・・他星・・・?って、違う星ってこと・・・?!」
「うん、隣の異火とね。」
・・・更に分からなくなってきた。
「異火・・・?」
「ちなみにここは似地ていうんだけど・・・。詳しく言えば、似地アジア地区。」
似地には5つの地区がある。
一つはここ、地球の日本に一番近く、人口も多いアジア地区。日本人が多く住んでいる。
あとは、白人の住む白地区・黒人の住む黒地区・科学研究所で占める科学地区・国王が住んでいて政治を行う場でもある中心地区。
「ナツは地球からきたんだよね?」
「ま、まぁ・・・」
・・・本当にこれは現実なのだろうか?
紗由は先ほどから何度も自分の体をつねっていたが、すべて痛みを感じていた。
「ここは地球に似ているから似地。っていっても似地は地球よりはるかに小さいけどね。似地と地球はここの夏みかんの木でつながっているんだ。」
そして何千年も前、なんらかの拍子に集落ごとこの星に飛ばされた。
最初は周りの景色が変わり戸惑う彼らだったが、景色や動物をよくみると地球とどことなく似ていた。
そこで似るの『似』に地球の『地』で《似地》と名づけたそうだ。
「元の世界に戻れなかった彼らは、ここで今まで通りの生活をはじめたんだ。」
それからは200年に1度その木の特別な木漏れ日を浴びた集落・家・人々が移動するようになり、また、最初に来た人たちも沢山の子孫を残し、人口はどんどん増えた。
そして地球がこの何千年間で発達したように、似地も急成長をとげたのだ。
「ちょっとまって。200年に1度って・・・じゃあ、あたしの家族はどこに?あたしがここに来る前から、この家と家族がいなくなってたんだけど・・・」
「それは俺にもよくわからないけど・・・多分、移動する人間は事前に選ばれてるんじゃないかなぁ?」
「そっか、皆の記憶から消えてたし、ありえるかも・・・。」
そういいながらも、紗由は完全に納得したわけではなかった。
ミカンも、根拠があって言ったわけではなかった。
「・・・それで何でこんな風に?」
「今から丁度200年前のことなんだけど、ある家族が誤ってここじゃなくて隣の異火に移動してしまったんだ。」
その家族は一家そろって科学者だった。
そして4人は再会を果たすために沢山の研究を積み重ね、5年しないうちに夢はかなった。
無論、一緒に住もうという話にもなる。
・・・が、4人はそれぞれの国で欠かせない優良な科学者となっていたため、両国の国王は4人を巡って国中を巻き込んだ大喧嘩・・・すなわち戦争を開始した。
当の4人はこの戦争に大反対で、結局1年後に一家心中をしてしまう。
「でも、もはやそのときには理由など関係なく、ただどちらの国が強いかという、力比べになってしまったんだ・・・。」
「酷い・・・」
なんでそんな風に?
聞いても無駄だとおもいつつ、紗由はミカンに問おうとした。
だが、その前に、ミカンが口を開いた。
「なぁ、ナツ。」
「・・・?」
ミカンは一瞬目を閉じると、まっすぐ紗由を見て言った。
「俺と一緒に、この戦争をとめないか?」
「・・・え?!」
あまりに急だったので、紗由は頭が真っ白になった。
「巻き込むのは悪いと思うけど・・・ここにきてしまった以上、いつもとの世界に戻れるか分からない。だから・・・俺と一緒に、この世界を変えてくれないか?!」
あまりの剣幕に、紗由は一瞬たじろいた。
「・・・で、でも・・・酷いとは思うけど・・・」
そんなこと、できるのか?ミカンはともかく、よそ者のなんの知識のない子供の自分に、なにが・・・?
そんな疑問がナツの脳内を巡る。
「すぐにとは言わないから・・・一週間俺と過ごしながら、考えてみてくれ。」
ミカンの目は、まっすぐにナツを向いていた。
「・・・」
「とりあえず考えるだけで良いから・・・」
「・・・分かった」
まだ納得しきったわけではなかったが、ミカンの目を見てしまった限り、そう答えるを得なかった。
「ありがとう・・・あ、部屋はナツが前の世界で使ってた部屋でいいからさ。」
「うん・・・」
「・・・腹減ったな、飯にしようぜ?昨日のカレー残ってんだ♪」
食欲こそはなかったが、この日食べたカレーはとてつもなくおいしく感じた。