死神Ⅰ~鎮魂歌を唄う少女~
初短編
side:少年
突然だが、オレは死ぬらしい。
視界の端に移るトラックが次第に大きくなりつつある。
全てがスローモーションに見える光景。
脳が危機から脱しようとして処理速度を上げている。
いわゆる超感覚状態にオレはなっているみたいだ。
だがもう遅い。
現実においてあと2秒もしないうちにオレは轢かれる。
トラックはスピードを緩めることなく突っ込んでくる。
運転手は居眠りをしているみたいだし。
今更どうあがいてもどうにもならないな、運命だと思って諦めるか……
※
唄が聞こえる、耳に心地いいきれいな鎮魂歌だ。
今さっきまで居なかった少女が前にいる。
彼女が歌っているみたいだ。
彼女の唄は美しく、哀しく、それでいて力強い。
遠目で見るかぎり、身長はおそらく俺より小さいだろう。
髪は短く不揃いに切られて、オレンジの様な茶色の様な不思議な色をしている。
そして、何よりも目を引くのが、
身に纏っている墨の如く黒い、
人の心の闇を映したような色をしたローブと、
禍々しく、それでいて美しい大きな鎌。
それの柄の部分には穴があいていて、横笛のように見え、
鎌を回すたびにきれいな音色が出ている。
死神らしき少女はオレに近づいてくる。
真正面から見た顔は幼さが残っていて、愛おしく、
保護欲を駆り立てるような、
そんな顔をしている。
そして、瞳は明るい茶色だ。
場違いだが、可愛いなぁ、そう思ったと瞬間。
トラックがオレの右半身に追突した。
視界が回る、身体がアスファルトに擦れる。
※
・・・。
・・・・・・。
少し意識が飛んでいたようだ。
オレは仰向けに倒れ、空を見上げている。
どこかで狂気の混じった悲鳴と叫び声が聞こえる気がする。
少女はいつの間にかオレの左側で鎌を振り上げた状態で立っていた。
「何か言い残したいことは?」
金糸雀のような透き通った声で言った。
その顔には少し涙が浮かんでいる。
オレは微笑みを浮かべ、
「我が人生一片の悔い無しってか?」
別に嘘じゃない、最後にこんなに可愛い少女に会えたのだから。
「ごめんなさい、これが私の仕事ですから」
少女は鎌を振り下ろした。
side:少年 Fin
※
side:死神の少女
私は道を歩いています。
けど、ほとんどの人には私の姿は見えないのです。
見えるのは死に直面している人と―――
「また泣きながら狩って来たのか?」
―――私と同じ仕事をしている人だけです。
「……悪いですか?」私は振り向きながら片思いの彼に言ったのです。
彼は170cmぐらいの身長、私と同じ黒いローブに鎌の代わりの大剣を背負っているのです。
彼は言ったのです。
「別に俺はお前の行為をとがめるつもりもなければ戒めるつもりもないさ、
死を運ぶ俺達だからこそ、忘れてはいけない事があるんだろう?」
「……そうです、生命は一つ。
死神だからこそ……生命の重さを知らなければいけないのですよ」
私はそう同僚兼後輩に教えます。数少ない死神が心に刻むべきことの一つを。
そうしたら、彼は微笑し、言いました。
「さてと、仕事も終わったんだし帰ろうぜ」
そう言うと彼は歩き出す。その後ろを私は何も言わずについていくのです。
何度も繰り返してきた私の日常。
私のこの日常は続くのです。
彼が新たな能力を手に入れるまで……。
彼がいなくなったら……私は……。
人に死を与える、それが死神。
side:死神の少女改めココロ Fin
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これは「魔聖界創世記」の続編のSSです。