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新たなる依頼

 俺たちはハンターギルドの訓練場にいた。

 休息もそこそこに、俺とネカは、カーターの指導のもと、自らの特異な因子能力についての研究と訓練をしていた。


「――そこまでだ」


 カーターの静止の声が響く。

 俺は、右手のガントレットから放っていた『鋼鉄の礫-《スチール・ショット》』を止め、息をついた。試しに『再構築』を試みるが、あの館で使った『酸性』の因子ファクトはもう出ない。


「…なるほどな。一度『分解』してストックした因子は、『再構築』で一度使うと消えるらしい」


「そのようだね。君自身の能力は、いわば外部の因子を『弾薬』として一度だけ撃ち出す、特異な銃のようなものか。…一方で、そのガントレットに宿る『鋼鉄』の因子は、それ自体が銃本体のようなものだ。弾切れの心配はない」


 カーターは、手元のメモ帳に何事か書き込みながら、感心したように言う。


 (…前代未聞、か)


 俺のこの力は、大したもんじゃないと、ずっと思っていた。裏路地でチンピラをいなす程度の、セコい護身術。それが、俺自身の自己評価だった。だが、あの館で、この手は宇宙からの侵略者を退けた。


 この力は、一体なんなんだ?


 訓練場の反対側では、ネカが『吸収』した因子を、小さな光のむちとして具現化させる練習をしていた。彼女の力も、ただ消すだけでなく、吸収したものを別の形に変換できることが分かってきた。


 (…そして、ネカのあの力は…?)


 分からないことだらけだ。だから、知る必要がある。

 もっと強い敵と戦い、この力の底を、そして俺たちが巻き込まれた世界の真実を、見極めなければならない。



 そんな日々が続いた昼下がりのことだった。

 訓練を終えた俺たちに、カーターが告げた。


「…さて、私もそろそろ行かなければならない」


「え、どこかに行くんですか?」


「ああ。本部から別の任務が下ってね。別の街で、小規模な因子汚染が確認されたらしい。その調査に向かうことになった」


 カーターは荷物をまとめると、俺たちに向き直った。


「君たちも、そろそろ次の仕事を探すといい。ギルドのランクを上げておけば、いざという時に動ける範囲も広がる」


「…ああ、そうだな」


「では、また会おう。2人とも、無事を祈ってるよ」


 そう言って、カーターは街を去っていった。

 俺は、彼の頼もしい背中を見送りながら、隣のネカに言う。


「さて、と。俺たちも仕事を探しに行くか」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 ハンターギルドの依頼掲示板クエストボードを眺めていると、一枚の「遠征依頼」と書かれた羊皮紙が目に留まった。

『遠征依頼:衛星都市ミノア、迷宮調査』

『内容:アポロニアから西へ馬車で3日の距離にある衛星都市ミノアにて、付近の迷宮から地響きと咆哮ほうこうが確認された。原因の調査と、可能であれば解決を求む』

『報酬:金貨50枚+遠征手当』

『備考:現地のパーティから調査中止の報告あり』


「衛星都市ミノアってどこ?」


「アポロニアの衛星都市の一つだ。ここまで依頼を出張させてくるあたり、よほど人手が足りていないんだろうな」


「ねえ、マナ。カーターさんみたいな、手伝ってくれる人を探せないかな?」

 その純粋な提案に、俺は心の中でため息をついた。誰もがカーターのように、話が通じるわけじゃない。


「…まあ、聞いてみるだけ聞いてみるか」


 俺たちは、近くの酒場で談笑していた屈強くっきょうなハンターたちに声をかけてみたが、結果は同じだった。「『因子なし』のGランクコンビのお守りをしてやるほど暇じゃねえんだ」と、誰もが鼻で笑うだけ。

 ネカは、しょんぼりしてしまった。


「んも~、なんなのあいつら!ムカつく!」


「…仕方ない。二人で行くぞ」


 俺たちは受付カウンターへ向かう。例の態度の悪い受付の男が、面倒くさそうにこちらを見た。


「この依頼、受ける」


「…あんたら、正気か? 遠征だぜ? これは、現地のEランクの連中でも尻尾を巻いて逃げ出した厄介な案件だ。お前らみたいなGランクが…」


「だから、やるんだ。これを達成したら、Eの上のDランクぐらいへの昇格を推薦してくれるんだろうな?」


 俺が挑発的に言うと、男は面白そうに口の端を吊り上げた。


「ハッ、おもしれぇじゃねえか。いいぜ。もしお前らがこれを解決できたら、俺が直々にFランクへの昇格を推薦してやるよ。ただし…生きて帰れよ」


 請負状を受け取った後、俺たちは遠征の準備を始めた。数日分の食料、野営道具、そして回復薬。全ての準備を整え、俺たちは乗り合い馬車に乗り込み、アポロニアの西門を後にした。


「わー!すごい!遠征ってワクワクするね!」


 馬車の窓から、広大な平原に目を輝かせるネカ。


「ねえ、マナ。ミノアって、どんな街なの?」


「俺も詳しくは知らんが、昔は古代文明の交易路として栄えてたらしい。今じゃその遺跡目当ての物好きな観光客が、たまに訪れるだけの寂れた田舎町だ」


「へえー、遺跡があるんだ!」


「ああ。今回の迷宮も、その一つだろうな。…観光地化できないほど、厄介な代物しろものが眠ってる、というわけだ」


「良いものもあればいいね!」


これから向かう街で、一体何が待ち受けているのか。


 俺は、懐で沈黙を続ける『楔』の感触を確かめながら、馬車に揺られていた。


(第13話 終わり)

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