第30話 3回目のキス(最終話)
「えっと…この後の依頼者にはバラードの曲を弾いて、その次の依頼者にはワルツに、あとは…」
フリージアはテーブルの上に置いてある紙に、ペンでメモをしていく。
フリージアのいる部屋には高そうな置物や絵がたくさん飾ってあり、生花が至る所にある、とても華やかな部屋で、王城の中でも特別な部屋だった。
今日の演奏だが、この後から夜までぎっしりと予定が詰まっている。
「う〜ん…身がもつかなぁ〜…」
フリージアは、ペンを顎につけ考え込む。
「大丈夫なのか、そんなに予定が詰まっていて。週末には大事なイベントが控えているし、体調には気をつけないと」
ファビウスが、いつの間にかフリージアの背後に立っていた。
「あら、ファビウス…って、あなた、何をそんなにたくさん持ってるの!?」
「何って、週末にフリージアがつけるアクセサリーだ。この中でどれがいいか選んでもらおうと、たくさん買ってきた」
ファビウスは嬉しそうにフリージアを見ると、テーブルの上にいくつもの宝石の箱を乗せる。
「そんなにたくさん…もったいないわ、私は今王城内にあるものでいいのよ」
「だめだ。初めて私と一緒に王族の行事に出るんだ。私がどんなにフリージアに夢中か分かってもらうために、豪華に着飾ってもらう」
ファビウスの、じとーっと見つめる澄んだ瞳に押されて、フリージアは困ったように笑う。
「はいはい、わかりました。国王様だけでなく、ファビウス王子の仰せの通りにも」
「なっ…私を子ども扱いしたな」
ファビウスは拗ねたように笑い、フリージアに顔を近づけると、フリージアの唇に優しくキスをする。
フリージアはそっと唇を離そうとすると、ファビウスがフリージアの体を引き寄せ、更に深く唇に吸い付く。
「…っ…今…は…だ…め!」
フリージアは、力いっぱいファビウスを押す。
「私はこれから夜まで演奏依頼が入っていて、次の時間にも遅れられないの!」
フリージアは、ふぅ〜とため息をつく。
「城に来てから、そうやって1日中演奏ばかりで、2人の時間が少なくて私は不満気味だよ」
「だめなの。これは私に与えられた罰なんだから。やり切らないと」
フリージアは、国王へ自分の能力も含む全てのことの顛末を話した。国王は少し考えたのち、この1ヶ月は朝から夜まで、依頼者のために城内で演奏をするよう、フリージアに命じた。
朝から夜までではあるが、1回の依頼につき演奏は5分までと決められ、次の依頼までには結構な時間の空きがあり、きちんと体を休め回復に努められるよう配慮はされていた。
そして、フリージアの能力については、国王の一存により、今のところ他の王族含め開示しないと決まった。
フリージアの能力を開示することで、シード家のように悪用する者が出て、国を危険に晒すと国王を説得したファビウスの尽力があってこそだった。
「フリージアの気持ちは分かっているが、無理はしないで欲しい。シード家やウィン家と同じようなことを、君にしたくない」
ファビウスは優しくフリージアの顔に触れると、フリージアをそっと抱きしめる。
フリージアは、国王の前で弁明したシード公爵とウィン公爵の話を思い出し、心配してくれるファビウスに感謝しながら、彼の体に顔を埋める。
◆◆◆
国王の前に、まずはシード公爵、その次にウィン公爵が呼び出された。
シード公爵は身に覚えがあるからか、すんなりと呼び出しに応じたが、ウィン公爵はなぜ自分が呼ばれなければならないのか、とゴネていた。
だが、息子のクラウスに説得され、最終的には息子同伴ならと国王の前に、やっと出てきた。
2人の話をまとめると、こうだった。
シード公爵、ウィン公爵、フリージアの母親の3人は友人で、フリージア母の能力を2人は知っていた。その能力は、フリージアと同じだったそうだ。
そして、シード公爵とウィン公爵はフリージアの母親のことが好きで、友人ながら互いに恋敵だった。
だが、フリージアの母は、シード公爵の兄であるフリージアの実の父と恋に落ち、結婚したことで2人はの恋は散った。
2人は悔しがったが、諦めて他の女性、シード公爵はイザベラとそれぞれ結婚をした。
だが、結婚後も交流は続いていたらしく、ある日フリージアの父と母とシード公爵で馬車に乗っていた際、崖から滑落し事故にあった。
フリージアの母は即死だった。
しかし、フリージアの父親は息があり助けられそうだったが、シード公爵は実の兄に何もせず見殺しにした。フリージアの母をとられた、という兄への恨みから。
シード公爵は、死亡した2人の娘、フリージアに会いに行き、能力も受け継いでいる可能性と、それから母親に似ていたため引き取った。
ウィン公爵は、馬車の事故のことも、娘フリージアがシード公爵に引き取られていたことも、しばらく知らなかったが、願いを叶える演奏の噂が出回り始めて、初めてフリージアの居場所を知り、彼女に会ったことで、彼女の母に抱いていた恋心が再燃し行動に出たという。
話を全て聞いた国王は、爵位は取り上げはしなかったものの、シード公爵家、ウィン公爵家は、共に現在の住処を追われ僻地へきちへと飛ばされた。
そこは王城まで馬車を使っても、半年はかかるほどの距離だった。
◇◇◇
「国王様はお優しいわ、演奏をすることで、ファビウスに無断でかけた効果の罰を償うことにするだなんて…ファビウスも、国王様のそういう優しい性格を継いだのね」
「誰にでも優しいわけではないよ。フリージア、君にだから、君といると気持ちが絆される」
「ふふっ、嬉しい」
フリージアが、はにかんだ笑顔を見せると、ファビウスは優しく笑い、フリージアの頭の上にキスをする。
「ファビウス…!?これって…!頭へのキスって、確か3回目って……!」
フリージアが驚いて見上げると、ファビウスがフリージアをじっと見つめ、目の前に跪ひざまずき手を握る。
「フリージア、君への与えられた罰が終わったら、私と結婚してくれませんか」
「ありがとう…もちろん、喜んでお受けいたします」
2人は笑顔で抱き合い、見つめ合った後に互いに深く唇を重ね、幸せそうに笑った。




