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ゴースト令嬢の願いを叶えるピアノ〜プライベートで能力を使ったら王子にかかっちゃいました〜  作者: めんだCoda


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第20話 効果のかかってない彼の気持ち

 フリージアは、ふっと目を覚まし、天井を見つめる。


(あれ…私…自分の部屋…ベッド…?なんで…)


 誰かがいる気配を感じ、寝たまま顔をゆっくりと横に向けると、執事のセバスチャンが心配した顔でフリージアを見ていた。


「セバスチャン…」


「フリージア様…やっとお目覚めになられた…!本当に、私は…心配しておりました…ご気分はいかがですか?吐き気など、どこか痛むなど、ありませんか?」


 よく見ると、セバスチャンの目には涙が滲んでいる。


「大丈夫よ…」


 フリージアは小さく微笑むと、弱々しく答える。


 セバスチャンはそんなフリージアの様子を見て、ハンカチで目を抑え涙をふいた。


「…目覚めたばかりのところ、忙せわしなくて申し訳ないのですが、私は今急いで医者を呼んで参ります。医者が来るまで、このまま寝た状態でお待ちください」


 セバスチャンが、慌てて部屋を出で行く。

 いつもは落ち着いていて冷静なのに、あんなセバスチャンを見たのは初めてだ。


 フリージアは横にむけた顔を元に戻すと、天井に目をやり、ぼーっとする。


(私、なんでベッドにいるんだっけ…)


 セバスチャンが去った後の自分の部屋はとても静かで、フリージアはその静寂の中、静かに呼吸をする。


 静けさのおかげで頭が冴え、徐々に嫌な記憶がよみがえってくる。


(そうだわ…私、シード公爵にピアノを弾くよう強要されたんだわ…)


 フリージアは、記憶が鮮明になってくると、ウィン公爵と義父のシード公爵の顔が頭に浮かび、それだけで気分が悪くなり吐きそうになる。


 フリージアは、水でも飲もうと体を起こそうとするが、体に全く力が入らず、体がベッドから10cm離れたかどうかのところで、すぐにヘナヘナと倒れ込みベッドの上にうつ伏せになる。

 それに、体中が痛む気もする。


「全然力が入らないわ…」


 フリージアは、はぁ、と短くため息をつくと、窓の外に目をやる。

 窓から見える木の枝には小鳥が止まっていて、木々が朝日を浴び眩しく光っている。


(綺麗な朝ね…)


 ぼんやりと眺めていたフリージアは、突然ハッと青ざめる。


「朝…?えっ、いつの…?」


 セバスチャンが言っていた、やっと目覚めた、という言葉を思い出し、フリージアは血の気が引くと共に、胸の鼓動が激しくなる。


 フリージアは両手を握りしめ、ベッドに力強く両手を押し付けると、腕を突っ張ってベッドから体を起こす。

 腕がプルプルと震えたが、なんとか上半身を起こすことができ、ベッドの枠にしがみ付きながら体制を整え、ベッドに座るフリージア。


「誰か…!誰かいるかしら!?」


 フリージアが扉に向かって声をあげると、1人の使用人がゆっくりと入ってきた。

 その使用人はおどおどしながら、フリージアの方を上目遣いで見る。


「はい、お嬢様…何用でございますでしょうか…」


「教えて欲しいの。私は倒れてから今日まで、どのくらいの時間がたったの?」


「お嬢様は3日間、寝ておられました」


「3日も!?」


 フリージアは愕然とする。

 ファビウスに会う予定だった日は、倒れた日の翌日だった。もう過ぎてしまっている。


(嘘でしょ……)


 フリージアは涙ぐみ、両手で布団をぎゅっとつかむ。


「…もう、よろしいでしょうか。ご主人様からは、あまりお嬢様とお話しなさらないよう、言われておりますので」


「……そう…なの…えぇ、もう下がっていいわ…」


 気まずそうにしていた使用人は、フリージアの言葉を聞くなり、素早く部屋から出て行った。


「私と話さないで、って…私は体も動かないし…部屋には誰もいないし…これじゃあ私、自分の部屋に軟禁されてるようなものじゃない…」


 フリージアはベッドに座っているのに疲れ、ドサっとベッドに横たわる。


 はぁ…とため息をついたとき、ふとある考えが頭をよぎる。


(もしかして、父は私が倒れるのを分かってて、無理してピアノを弾かせた——?)


 フリージアは、その可能性に顔が青ざめる。

 義理の父シード公爵が、フリージアを屋敷に閉じ込めておきたいがために、フリージアの体調が悪化するようわざと演奏させたとしたら——。


「ファビウス……」


 フリージアは下を向くと、涙がぽろぽろと布団に自分の手の甲に落ちる。


「助けてファビウス…会いたい……」


 フリージアは、体を震わせ声を押し殺し1人泣く。


 店ファビアスで会うはずだった約束の日に、なかなか現れない私を、ファビウスはどんな気持ちで待っていただろう。

 私が来ないことに、ガッカリして幻滅しただろうか。約束を守らない私のことを、嫌いになっただろうか。


 ——いや、そもそも、店に来たのだろうか?


 ファビウスにかけてあった、店ファビアスに来たくなる、という願いの効果が切れてしまっていれば、店に来ていない可能性だってある。


(今までファビウスにお店で会えたのは、彼がお店に再度来るよう、私がかけた願いの効果のおかげなんだから…彼がお店に来るついでに私に会っているうちに私へ好意をもって…でもその気持ちだって、効果と混同してしまってる可能性だってあるんだから…勘違いしちゃだめなんだか……ら…)


 フリージアは思い出した。


 ウィン公爵邸で、ファビウスに会ったことを。


 効果発動中であれば、ファビウスは約束の日を待って店ファビアスに行くはずである。

 でも、ファビウスはその前日に、フリージアを気にかけてウィン公爵邸に来ていた。

 それは、ファビウスのフリージアへの気持ちが効果に惑わされたものではなく、本物であることの証明だった。


(ファビウス…!今すぐあなたに会いたい…!)


 ベッドに横たわったフリージアは、止まることなく流れ落ちる涙を拭うことなく、動かない体でじっと窓の外を眺めていた。

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