第五話 見透かす赤眼
ホスキンスさんに連れられて急ぎ屋敷へと戻ると先ほどと同じ面々が困り顔を並べて椅子に座っていた。やれやれこんな流浪の小娘にそんな顔をして一体何を頼もうというのか。
「戻りました」
部屋に入ると背中をポンと押されホスキンスさんよりも前に出る格好となる、どうやらもう隅っこで黙っていることは許されないらしい。
「本当にこんな小娘に頼めることなのか、聞けば国民ですらないそうじゃあないか」
当主殿はテーブルに置かれた紅茶を一口啜った後、私をさも信頼できないとばかりに流し目で一瞥だけして目線を切った。反対に座っている声の大きい息子殿もすっかり黙り込んでいかに発言すべきか言葉を選んでいるようだった。
「しかし他にめぼしい手段もありますまい」
「確かにそうだがこの秘密が公になることは非常にまずい、それは理解しているだろうホスキンス」
「それ故に早々の決着が必要かと考えます」
事態はどうやら私が思うより逼迫しているらしい。
当主は再び骨まで見透かさんばかりの眼力で私を睨みつけ品定めを行っている。そんなに警戒しなくたって一時の利益のために進んで恨みを買うようなことが出来るほど私の精神は太くできていない。
「探し物が得意と聞いたが本当か」
まあそれしかないだろうなとは正直思った。昨日の一軒からまさかいきなり貴族様の直々の案件に繋がってしまうとは運がいいのか悪いのか。
「苦手とは言いませんが」
「では証明してみよ、お前が留守にしている間ついでに用意させていたお前の分のカップをメイドに屋敷のどこかへ隠すよう指示した。さしあたって日が落ちる前に探し出してここに持ってくるのだ。そうすればお前の力については信頼しよう」
ついでとは何だついでとは。
ふむ、しかしまずは実力を証明して見せろという事か。
「情けで1つだけヒントをやろう、そのカップには取っ手がない。そしてその取っ手は今ここにある」
党首殿はポケットから陶器の取っ手を取り出してテーブルの上に置いた。白地に青色の装飾が美しい滑らかな取っ手の先は割れてしまった時の影響で岩盤の様な断面が剥き出しになっている、これの意味するところは明白だろう。
「この断面に合うカップは国中探せどただ一つのみ、小細工はできんぞ」
なるほど確かにこれではほかのカップでの代用は不可能、とはいえ闇雲に探したところで出てくるか来ないかははっきり言って運しだいだ。
これを確実に成すには常識を超えた頭脳や観察眼が必要だろうが勿論一介の女子高生であった私にそんな才能はない、しかし才能はなくとも結果に至ることが出来ないかと言われればそれもまた別問題だ。
なにせ(無茶振りと無責任を司る)神によって与えられたとっておきの小細工が私にはある。
「そうは申されましても探しに行く必要など無いのでは?そう思いませんかマクマーンの跡取り息子殿」
私の言葉を聞いた彼は驚いて目を丸くして固まっている。パチパチと何度もまばたきをしながらこちらを見る仕草がすでに何も語らずとも私の指摘が正しいことを顕著に表していた。
全く言葉だけでなく態度も表に出やすい人だ。
「さ、もったいぶらずにポケットにしまってあるカップを早く出してください」
そう催促すると彼は諦めたようにため息をついた。
「父上、これは・・・」
「むぅ・・・認めるしかあるまい。しかし何故カップが息子の手にあると分かったのか」
先ほどと打って変わって当主殿が私を見る目がすっかり別のものになった。私の力を疑い蔑む目から私自身が信頼に足る存在か見極める目になっている、ついさっきまでは詐欺師でも見るかのような目線をくれていたくせに。
今回の件に関して当主殿の言葉を真に受けるならばカップを見つけ出さなくともカップを隠したメイドとやらを買収すれば方はついていただろう。ただわざわざ小細工を嫌う様な策を練っておいてそんなあからさまな抜け道を用意するはずがないだろうと思った・・・などと言っておけばそれっぽさはあるが今後の事を考えて本当の事を言っておこうか。
「私の右目には異能があります、この目は欲するものを自在に映し出す魔眼。故にあなた方の弄した策は私からすればざるで受けた水を掬うように容易なことでした」
そう、これが私の授かった異能。あの神曰くその名をー見透かす赤眼ーというらしい。
結構厨二くさい名前だったので外ではあまり言わないようにしているが。
その能力は私や他人のイメージしたものが今どこにあるのかを瞬時に把握することが出来るというまあそれなりに便利なものだ。
つまるところ私がホスキンスさんのそろばんを探すことが出来たのもこの異能のおかげというわけで・・・。
ホスキンスさんが私に何か天才的な推理を期待していたのなら申し訳ないと思う、でも仕方ないじゃないか私のスペックは一般女子高生並みなんだから。
「なんと・・・」
この異能を行使している間私の右の眼は赤く変色しうっすらと光を放つ異様なものとなる。それがいい塩梅に異能の存在を証明してくれるのだが大概はしばらくの間当主殿同様に驚愕し言葉を失ってしまう。
「まさかそれは魔法か、よもやこの時代に魔女と出会う事となるとはな」
そして二言目には同じことを言う。
この世界にはかつて魔法とそれを扱う魔女が数多く存在していたらしい。
ただ今となってはその数を大きく減らし魔女というだけで驚かれるまでになってしまったようだ。
できうる限りで調べてみたところどうやら130年前に魔女戦争とそれに伴う魔女狩りのあったことが原因らしいが詳しい歴史が書かれた書物はどこにも存在しないし詳細を知っている者にも出会ったことがない。
1つ事実なのは魔女と魔法はこの世界の歴史から完全に抹消されようとしているものだという事だ。
「どんな失せ物でも私の目を逃れることはできません。問題がなければ話を先に進めていただきたい」
まあしかしこの目の異能に関しては神の権能なので魔法かどうかは怪しいのだが、やってることは原理もさっぱりわからず理解を超えているし魔法という事でいいだろう。
「わかった、君の力を信じよう。この機を逃せば魔法に頼るチャンスなど二度と訪れまい」
どうやら実力が認められるとお前とか小娘から君に呼び名が変わるらしい。こういう分かりやすいところは血筋なのかもしれない。
「ホスキンス、説明しろ」
「わ、わかりましたマクマーン様」
ホスキンスさんも想定がの事態に泡を食っていた様子だったがマクマーンに指示されると冷静さを取り戻し説明を始めてくれた。
「ではアルマ、君は宝剣の定めという取り決めを知っているか?」
なるほど、もちろん存じ上げない。
詳しく話を聞かせてもらおうじゃないか。
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