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2.ほな!

「やぁ~っと目を覚ましました~!」


「なんだよ。キサイチの(せがれ)っていうから楽しみにしてたのに、ただの軟弱男じゃねーか」


「しっ! 聞こえてますよ!」


 ぼんやり仰向けになっているワシを覗き込む女が笑う。小麦みたいな金色の髪を揺らす治癒者みたいな服装をしとる女や。


「お前、ナンバだね?」


「そう、やけど。……って、さっきキサイチって()うた!?」


 ガバッと急に起き上がったワシに驚き、女が後ずさった。


「言った。親父だろ」


 女を押しのけてワシの視界に入ったのは大柄の男やった。戦士、っちゅうんかな。鎧を身に着けとる中年一歩手前のひげヅラしたおっさんや。


「親父のこと、知っとるんか!?」


「キサイチとは戦友だった」


「は?」


 ワシが知ってる限り、先月死んだ親父が戦だ何だに出ていた覚えはないし、聞いたこともない。そもそも、戦いが必要になったのは魔王が復活してから、ここ数年の話や。ワシが知らんはずがない。

 おっさん、何ちょっと悲し気な表情しとんねや。親父の何を知っとるんや。


 っちゅうか、ワシは自分の家におったはずや。何でこんな知らんやつらと、知らん場所におんねん。オカンは、ナニワは、イズリハは。ワシの家族と家はどこ行ったんや。


「あ、あの~」


 おずおずと大男の後ろから出てきたのは魔法使いらしい女やった。ざっくりとした三つ編みのおさげに丸眼鏡、分厚い魔導書がお気に入りって感じの恰好や。


「状況が呑み込めないと思いますけど、私たちは魔王討伐隊です。ナンバさんのお父さん、キサイチさんは私たちの仲間でした」


「はぁ?」


 魔法使いの女はそれぞれを紹介してくれた。

 最初に話しかけてきた治癒者の女はハイミ、おっさんはアークハルトで、今目の前で話しとる魔法使いがフイ。もう一年以上魔王討伐のために旅しとるらしいんやけど、なぜかそこに親父も一緒に行動しとったんやと。

 どういうことや?


「あの、異世界転生って言うんですかね。この世界ではたまにあるんですけど、他の世界や時代からこの世界にやって来るんです」


「ほな、ワシの世界とはちゃうっちゅうことか?」


「うーん……」


 フイは顎に手を当てて首をかしげた。そんな典型的な考える仕草、異世界でも共通なんや。


「わ、わたしたちも詳しいことはわからないんですよ。神様が適当に連れて来るとか、選ばれし勇者だとか、色々言われています」


「まぁ、来たものは仕方がないだろ」


 ハイミがワシの手を引き、立ち上がらせた。


「ナンバはあたしたちの仲間だ。一緒に魔王を討伐しよう」


「そんなご無体な」



 * * *



「で、ワシは何をしたらえぇんや。っちゅうか、どうしたら元の世界に戻れるんや」


 ワシが目を覚ましたんは小さい田舎の町の宿屋やった。昨日ここに着いた三人の目の前に、突然光が現れてそこからワシが落ちてきたらしい。よく死なんかったな。


 宿屋の食堂に移動して、親父も飲んでたっちゅうお茶みたいな飲み物を飲みながら話すことになった。とりあえずワシは戻りたい。そのためなら何でもしたる。


「推測なんだが」


 アークハルトが整ってんひげを撫でながら話し始めた。剃れや。


「こっちで死んだら戻れると俺は思っている。キサイチは死に際に『倅を送る』と言い残し、実際にお前が来た」


「まぁ、多分それが合っているとあたしも思う」


「ほな! いっちょ死んできますわ!」


 腰を上げたワシをアークハルト、いや、おっさんでえぇわ。おっさんが力づくで座らせた。何やねんその勢いで死ぬわ。


「キサイチの遺志を継げ」


「知らん知らん。親父かて来たくて来たわけちゃうんやろ。ていうか親父は何で死んでん」


 いやいやいやいや、急にシンとすなや。うつむくな。お通夜状態やめろ。こっちもホンマに先月親父の葬式やっとんねん。


 しばらくしてからフイがうつむいたまま「ま、魔王と……」と呟いた。察した。


 魔王にやられたんか、親父。

 ワシは天井を仰いだ。

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