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1.ふざけんなや

「何やねんこれ、アカンアカン。出直してぃ」


 換金屋で働くワシ、名をナンバっちゅう。よろしゅう。親父がぽっくり逝ったのをきっかけに、ふらふらしていた次男坊のワシをオカンがとっ捕まえて店主にしたのが先月。そっからオレは自由を奪われ、店頭に立って客を相手にする日々や。


 ここは東元国とうげんこくの西に位置する多阪たはん領、林業と農業だけが頼りの小さい町や。魔王復活だの勇者募集だの、なんやら世界は騒がしいらしいんやが、こんな片田舎は週に一回の新聞読みが伝える一週間遅れの情報だけが頼りや。平和も平和。

 けど、世間は不景気真っただ中らしい。古書やなんやっつって「如何にも」なものを偽造して持ってくるわっぱの懲りんこと。それだけこの町は困窮してるってことやな。


 今日も適当に客をあしらい、それらしい金額を渡して店じまいをする。引き受けた物品を足で店の端に寄せる。次の交易商が来るまではただのガラクタやな。


「オカン、飯や飯。一家の大黒柱様に飯食わせぇ」


 草履を荒っぽく脱ぎ捨て、店からそのままつながる居間に上がる。ワシの下品な言動に鉄拳が飛んでくるのは毎度のことや。


「デカい顔しな!!」


「それが一日働いた愛息子に対する仕打ちか!?」


「うるさいわ。あんた飯抜いたってもえぇんやで」


「ホンマすまんかったわオカン。ワシが悪かった」


 最早何の尊厳も持ち合わせてん土下座をして飯にありつく。下の兄弟たちも集まって一家団欒の時間や。


 長兄は町に出て何か知らんがえぇとこで働いてるらしい。ワシらが生活できるのはこんなチンケな換金屋やなくて長兄からの仕送りのおかげや。「一家の大黒柱」っちゅう言葉でデカい顔したワシが殴られるのも一理ある。わかる。けど殴らんでも良くない?


 下の妹や弟を寝かしつかせ、ランプ片手に店に出る。深夜、多分空には月と星が輝いとるんやろうが、そんなもんで金は増えんし、腹も膨れん。雅や風流やっちゅうんは上流階級に任せとけばえぇんや。


 ワシがわざわざ好きでもない店に、わざわざ、眠い目をこすって降りたのには訳があった。今日換金したガラクタの中に気になるもんがあった。二束三文で交換したカラクリ人形や。昔親父に見せてもらったんによう似とった。ゼンマイ巻いたら筆で漢字を書くっちゅう高度なカラクリや。こんな田舎にあったところで何の価値もないのに、何であったんやろうな。

 持ってきたやつもただの人形や思たらしい。はした金で満足して帰って行きよった。


 ワシは親父を思い出した。オカン曰く、気付いたら店先で倒れとったらしい。ちょうどここらへんや。何か、何もしてやれんですまんかったな、親父。放蕩息子っちゅう立派な二つ名ぐらいしか「親父にもらった」って誇れるもんはないわ。


 カラクリを床に置いてそこらへんにあった墨汁を垂らし、ゼンマイを巻く。記憶が正しかったら「寿」の字を書くはずや。いや、書くはず「やった」。


 そうや、そのはずや。


 こんな、光るはずないんや。


 どうなっとんねん。


 ふざけんなや。


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