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旧 パラレル・ロマンス  作者: いち。
第1章 『最悪な愛のカタチ』
11/16

【第10話】 いつかはさ、私を好きでいてよ

 死を覚悟し、死を与えることを覚悟し、銃弾は放たれた。


「殺してやるって……言っただろ?」


「っが、ごふっ、な、何を考えているっ…!」


 名もない男は、刹那に背後へ振り向き――拳銃の引き金を引いた。


「俺はワタルって奴ではない、お前も言ってくれてたじゃねぇか」


 名もない男は、下衆のような顔つきで拳銃を構える。


「そう、そうだ! だから、美奈を殺し――」


「なら! 盟友か何だかがこいつに殺されてたって、俺からすればどうでもいい。違うか?」


「君は何を言って、ごほっ、がふっ」


 銃弾は放たれた。


「この極悪非道人が! ふざけるな! この化け物は数えきれない程の人を殺めてきたんだぞ! 分かっているのか!」


「分かってる――だからなんだよ」


 名もない男は、嘲笑を浮かべながら拳銃を構える。


「そ、総員撃てっ!」


「が、ごふっ、ぐっ、だぁっ――」


 無数の銃弾は名もなき男に放たれる。

 銃弾は脚を貫き、眼を失わせ、胴を崩壊させていく――、


「さ、流石だよ。これだけの攻撃を喰らっておきながら尚、その魂を燃やすとは」


 名もない男は、顔を赤く染め、醜体を前へ進め――拳銃を構える。


「化け物はやはり、ここにも居たか――」


「早く死んじまえよ。俺もすぐに死んでやるからよ」


 銃弾は魁人の額を貫き、名のない男はその場へ倒れこむ。


「ワ……ワタルっ!」


 美奈が顔も目も真っ赤にしながら、ワタルの顔を覗き込んでくる。

 名がない男はそれを愛おしく想い、最期の力を振り切り、指の足りない手を美奈の頬へ添えていった。


「――オトメゴコロはどうした? やけに距離がちけぇじゃねぇか」


「う、うるさい! ねぇ、どうして――」


 記憶の残らない男の口は――世界で唯一残したい、そう願った口と重なる。


「っん……なにこれ」


「う、うるせぇ。聞くんじゃねえよ」


 世界に残るその顔は満面の笑みを浮かべ、満更でもない涙を流す。


「ワタル……」


「すまんな、ワタルじゃなくて」


 嫉妬が吐き出ていくのを、死力を尽くして抑える。

 と同時に、愛おしい人の一番の笑顔を引き出せてやれない、自分の不甲斐なさに名さえない男は憤激した。


「ご、ごめんそんなつもりじゃ――」


「悔しいが、お前を幸せにしてやれるのはきっと……ワタルって奴なんだろうな」


「そんなこと、ない!」


「じゃ、ごほっ、今俺が記憶取り戻せるってなった時――お前は俺とワタル、どっち選ぶんだよ」

 

 妬みに塗れた最期の言葉は情けなく、それでも世界で一番美しい女は必至に男を想って、言葉を選ぶ。


「どっちも、じゃダメ?」



 ――厳選した結果の台詞がこれなのだから、本当に可愛い奴だ



「欲張りな奴だな――いいんじゃねぇか。俺に異論はねぇよ」


「う、うん。ワタルもきっとそう言ってくれると思う」


「そうかもな」


 名を亡くし、記憶を亡くした男は、最期の時が刻々と迫ってくるのを肌身で感じ取る。


「すまん、もう話せそうにない」


「ま……あ……え」


「なんてな、まだぎり話せる」


「も、もう! 君はいつもそうやって………」


 強がりをみせ、瘦せ我慢を言う男の瞳は、死期の接近と共に光を失いつつあった。

 

「ねぇ、君は生きたい?」


「死に際の人間に言うことか?お前と道を歩める未来があるのなら、迷わず取る」


「そう。叶えられなくてごめん」


「俺が望んで選んだ道だ、謝る事じゃねぇだろ」


「それって矛盾してない?」


「かもな」


 最期の最後の言葉の逢瀬が二者の隔絶を縮め、それはやがて完全になくなっていく。


 一生の一部始終は女で始まり、美奈で終わる。死が押しかけてきて尚、愛の止まない男は未だ正直になれずにいた。

 

「私のこと、好き?」


「嫌いだ――」


「ひどいなぁ………ありがと」


 死が完成する。瞳は影を落とし、呼吸は止み、意識が途切れていく。



 ――好きだ



 その言葉だけが男を取り巻き、最期まで離れることはなかった――



~=~=~=~=~=~=~=~=~=~


 

 銃弾は放たれた。


「よくやってくれた、助かったよ。っておい、聞こえているのか」


「はぁ、はぁ、はぁあぁ――」


 名もない男は、刹那に背後を撃ち抜き――その場へ倒れこむ。


「み、美奈……?」


 男の倒れこんだ目先には、自分の手で護ったはずの女が血に染まっていて――、


「は、は? は、ははっ? どういう事なんだよ」


 その怪奇的な出来事を男は理解できず、ひたすら苦虫を嚙み潰したような苦笑を浮かべていた。


 代わりに己の体の障害は全て取り払われている、まるで時が遡ったかのように。


「み、美奈、おい、おいい。起きろって、なぁ、なあ! どうしてなんだ、なぁ? 聞いてんのかよ!」


「――君が殺したんだろ? その銃で」


「は」


 下衆の口から恐ろしく、有り得ない妄言が発される。


 自分が美奈を殺しただと、何を言っている。お前を憎み、恨み、撃ったまでだ。有り得ない、美奈を殺すなど――、


「ふ、ふざけんな! お前を殺したんだよ! この銃で。お前の頭をぶち抜いて!」


「はぁ……なるほど。私は勘違いをしていたよう――」


「勘違いどころじゃねぇ! いい加減にしろ! なんで、美奈が、美奈がぁ――」


「だから君が殺して――というよりかは、彼女が私を守ってくれた。さしずめ、そういったところなのだろう」


「な、は、有り得ねぇ」


 美奈はこの下衆を忌み嫌っていた――そんなことはこの短時間でも容易に理解できたことだ。


 その美奈が下衆を護るなど、到底有り得ない。


「あ、あぁ。あああああ!」


 男はありのままの現実が信じられず、頭を地に打ち付け、額をよどんだ血に染めていく。


 何故だ、何故だ。何故、美奈はこんな下衆を庇う真似を――、


「気が狂ったか? まぁ、いい。これで目的は果たされた。総員撤退だ!」


 下衆は下衆らしく、利用し終えた男など見捨て、早急に足を引いていった。


「ま、ま、待て! く、クソ野郎が! お、お前が殺したんだぁ! お前が……お前がぁあ!!」


 血に塗れた男はどす黒く染まった唾を、逃走していく下衆に吐きつけていく。


「き、きみ。げほっ」


「み、美奈?」



 ――その時だった、美奈がまだ息をしていることに気付いたのは



 助かる可能性がある。そんな単純明快なことに気付けないほどの下衆への執念が、男にはあった。

 絶対に許さない。何があってもあの男への復讐を果たす覚悟が、男には芽生えていた。


「だ、大丈夫か。すぐに手当てを――」


「いいよ、私は。こうしたくてこうしたんだから」


 救おうと伸ばした手は、美奈の言葉によって振りほどかれる。


「は、何言ってんだよ。だ、だってよ、お前あの男が嫌いなんだろ」


「まぁね、君を不幸にした人だもん。でもね、それはあの人だけじゃないし、本当は私が悪いのに八つ当たり的なところもあるんだ」


「何言って――」


「君は私を撃っちゃったことを後悔してるんでしょ? でも、私が君を一番不幸にしたんだから、君は正しいことをしたんだよ」


 美奈は男の動機を正当なものだと、真正直に主張してくる。

 が、男にはそれが戯言でしかなかった。


「ふざけんな」


「え」


「ワタルって奴はお前に不幸にされたのかもしんねぇ、けどな。お、俺は俺が幸せと思えたのは、全部お前なんだよ!」


「――!」


 男の必死の想いが、言葉足らずに美奈へぶつけられていく。

 その想いは美奈に涙を流させ、男の愛への欲求を生む。


「あ、ありがと――じゃ、じゃあさ、私のこと好き?」


 期待と愛を孕んだ言葉は、切望に満ち溢れていた。



 ――好きだ



 たったその一言だけを求めて。


「す、すっ、嫌いに決まってんだろ」


「やっぱ?」


「なんだそれ、分かり切ったこと聞くんじゃねぇよ」


 本音を打ち明けられない男の口からは、当然そんな愛の言葉は出ていかない。

 なのに、美奈の口はどこか満足気に、笑みを浮かべているようにみえた。



 ――そして、もう一度開口の時が訪れる



「分かった。じゃあ約束ね」


「なんだよ急に――」


「いつかはさ、私を好きでいてよ」


第1章終幕!

無事にここまで書ききることができて良かったです。

実はこの第10話更新の日が、過去最多のアクセス数を誇っていました。なぜなんですかね?続きが気になるようにかけていたのかな?なんて思ってたりしてます。

次回からは第2章の開幕になる訳ですが、さっそくヒロイン死んじゃったよ……どうなるのでしょうか。乞うご期待!


最近、この作品を読んでくださる人が増えていてとても嬉しいです。誠に有難うございます。

もし、この作品を気に入っていただけましたら、大変恐縮ではございますが、ブックマーク登録や作品の評価等をしていただけると幸いです。

登録や評価は、この作品自体の人気や成長へ繋がりますので、是非ご協力の方をお願い致します。


また、読みに来てください!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 「す、すっ、嫌いに決まってんだろ」 あぁーっ、「好き」って言ってあげなよー!っと声に出てしまいました(´・ω・) この最後の美奈さんの一言が、作品のタイトル回収にもなっていて、本当に色んな…
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