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馬車のドアが開くと両親と隣国にいたはずの弟は驚いた。
それは王室の馬車が玄関前に停まり、さらには先に降りてきた人物がこんな所にいるはずのない人だった。
ハリーが降りてからドアに向かい手を差し伸べ、そして奥から降りてくる自分の娘を見てさらに驚愕する。
そのザクザクに切られたプラチナブロンドを見た。
伯爵の顔には、「どうして」とでも書いてあるようで、声も出ない。また伯爵夫人と弟は、顔は青ざめ、夫人は今にも悲鳴が出そうな顔をして口元を両手で隠した。
だが、伯爵家当主は、慌てず自分の心を落ち着かせて殿下に深々と頭を下げた。
「遅くなって申し訳ない。ちょっと事故があって僕が、シャーリー嬢を送りました」
すると固まっていた伯爵がいう。
「恐れ多いです。ありがとうございます。ハリー殿下」
「シャーリー嬢、今日は早く就寝するといい」
「はい、ハリー殿下、今日は本当にありがとうございました」
では、といってハリーは馬車に乗り込み、帰っていった。
シャーリーの肩を伯爵夫人が優しく抱き、4人が屋敷の中に入った。
シャーリーは両親と弟に心配かけないように、声の震えを隠しながらいった。
「遅くなってごめんなさい。いろいろあって・・・」
3人はそれだけでもわかった。何があったのかを。
伯爵は、シャーリーを自室に戻させ今日は早く休むように言い聞かせた。
応接室にもどると伯爵は手紙を書いた。
一通はハリー殿下にお礼の感謝の言葉を添えて。
もう一通は隣国にいる双子の妹宛に。
ちょうど書き終えるころに、コンコンとドアをノックする音がした。
夫人だった。今回のことで娘が不憫でならないと涙目で訴える。
だが、こちらから侯爵家に婚約破棄を伝えれば莫大な慰謝料が発生し、とても払うことができない。
そのため悩んだ挙句に隣国にいる双子の妹にこのことの顛末を伝えるため手紙をだした。
シャーリーの通っている学園は、この国で3本に入るくらいお金がかかる。
学園は12歳に入学し18歳で卒業する。その後は優秀であれば大学、王宮の騎士学校、途中で婚約者が決まれば結婚し、学園を中退することもある。
シャーリーには夢があった。16歳の彼女は大学に入り、図書館司書になりたかった。
大学はさらにお金がかかる。だが、特待生枠なら授業料が無料だった。
シャーリーは授業が終われば図書室で勉強し、家に帰れば自室で夜遅くまで勉強していた。
両親は伯爵家として彼女に満足のいく教育をするため高い授業料だがこの学園に通わせた。
それを知っているシャーリーは申し訳なく思いながら学園に通っていた。
実をいえば彼女はとても優秀だった。だが婚約者のヒューイが自分より秀でることが嫌なため、彼女は試験があれば欠席をして、いつもギリギリの成績だった。
シャーリーはこんな目に遭うならば婚約破棄をしたい。
だが伯爵家からは言い出せない。向こうから破棄をしてくれたらと常々思っていた。
それを両親に言えば悲しむと思い、彼女はいつも黙っていた。
そしてヒューイも同じだった。あんなのが自分の婚約者なのが許せなかった。
何度も彼は両親に破棄を頼んだ。だが彼の両親が婚約破棄を許さなかった。
それがなぜだかわからない。なんの魅力もなく、綺麗でもない、家も裕福でもないのに。
早く破棄をして、マリアと婚約したい。
その苛立ちからいつも彼は学園でシャーリーにあんな悪ふざけを繰り返していた。
次の日、シャーリーはベッドから起き上がれなかった。
病気でもないのに、なぜか体に力がはいらない。起き上がりたくても起き上がれない。
屋敷唯一の侍女であるライアがシャーリーの様子を見にきた。
「どこか体が辛いのですか?お医者様に診てもらいましょうか」
「大丈夫よ。今日だけ学園を休んでもいいかしら。お父様に伝えてくれる?
明日になれば大丈夫だから。食事はいらないわ」
わかりました。お昼にもう一度来ると言ってライアが部屋を出た。
だがシャーリーは次の日も、その次の日もベッドから起き上がれず学園を休み衰弱していく。
あれから心が空っぽになってしまい、何もかも考えられなくなってしまった。
誰もシャーリーのことなど気にもとめず、学園生活を過ごしていく。
そして1ヶ月後にシャーリーは学園から席を消された。
正確に言えば亡くなってしまった。
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