なんとか耐えています
初投稿、初めての作品でお見苦しい部分あると思いますが、読んでいただいた方に心より感謝申し上げます。
私はお嬢様を愛している。
それは、見目麗しい女神様が、美しいミルクティー色の御髪を耀かせ、毎日私達に分け隔てなく贈る笑顔と慈愛より生まれた、主従間での敬いや忠誠心を比喩したものではない。
そのまんま、「愛している」のだ。
そしてそれは、「美しい愛」や「純粋な愛」なんてものではない。
「今日の御髪はどのようにされますか?」
白い上品な猫足の鏡台の前に座るお嬢様は、毎日、昨日よりも美しい。大きな鏡の周りに施された銀色に輝く薔薇の飾りも、お嬢様の前では霞んで見える。
「そうね、編み込んで片側に流してもらおうかしら」
「お嬢様の白いお肌が際立ちますね」
鏡の中で微笑み合う。
そっと手で髪をすくい、優しくブラシをかける。
私の「欲」の一部分が、静かに満たされてゆく。
この奇跡でできた、絹のような、しっとりと艶めく髪に触れることができる権利は、私にしかない。
お嬢様は私の器用さをかっており、専属侍女にしてくださった。
私はこの座を死守するために、超メイドを目指している。
もちろんお嬢様以外にお仕えするつもりは永遠に、微塵も全く無いため、「お嬢様にとって」の超メイドだ。
常にお嬢様の行動、視線、お気持ちを汲み、その2歩も3歩も、いや、10歩くらい先を見据えて頭をフル回転させている。
たまに先に行きすぎてしまうこともあるが、そんな時お嬢様は決まって心底楽しそうに笑ってくださる。
このお方はいつまでたっても天使のままだ。
髪が結い終わると、私はその白い陶器のような首もとに、息が掛かる距離までわざと顔を近づける。
そのまま思いきり深呼吸をして、お嬢様の体臭を肺いっぱいに吸い込むのだ。
…かなりの変態行為だと自覚はしている。
だがなぜかお嬢様はその一部始終を咎めないのだ。さらに言えば芳しい香りを吸い込んだ後の残りカス(私の肺が香りを完全に私の細胞に取り込んだ為、全く別物になっている)をそのきめ細かい真っ白な首に吹き掛けても、耳を赤く染め少し身体を揺らすだけで、何もなかったかのように振る舞ってくれる。
「後れ毛を整えました」や、「首に何かついていました」なんて見え見えの言い訳にも、ただ一言、━━━そう、と静かに笑うだけだ。
私はこんな時、侍女という立場も侯爵家のお嬢様だということも忘れて、その肩を思い切り抱き締めたい衝動に駆られる。
そしてその甘い香りを放つ首に口づけたい、と。
誰よりも近くにいることを望みたどり着いたこの場所は、日に日に募る愛、別名「欲望」とのバトルフィールドだった。