兄
「そろそろ俺に注目してくれお前ら…特に女子諸君。つか、俺がいなくなった後に暁を囲んで怒涛の質問責めなんかすんなよ」
「ツナ先生それめっちゃフラグ発言ー!」
「回収すんな」
また後でなー、と教室を出ていく繋と一瞬だけしっかりと目が合った。
十中八九あの動揺していた姿を見られたのだろう。兄は観察眼がとても鋭いのだ。
(仕方ない…か。流石に身内には隠せん。)
隣の席にいる暁 焔を続々と囲み始める生徒達に紛れ、後ろの扉から廊下へと出る。
そこには壁に乗り掛かって私を待つ繋が眉間にシワを寄せながら立っていた。
「ここじゃ目立つからな。屋上に移動して話そうぜ」
一つ頷いて繋の後についていく。
学校では私達が兄妹だということは周知の事実な為、廊下の真ん中で話していれば注目の的になってしまうのは間違いない。
屋上に着けば繋は他に人がいないのを良いことに煙草を吸い始めた。
「…で。暁と何かあるのか?鉄仮面のお前があんなに動揺を表すなんて相当だろ。」
「彼とは初対面だ。だが…非常に似ているんだ。私の、その…昔の、知り合いに…。」
「?!ま、まさかお前…元彼とか言い出さねぇよな?!」
「どうしてそうなる。」
「ははっ!だよなー!マジ焦った!」
この兄に彼氏などと言った日には辺り一面が血の海になることだろう。
自意識過剰とかではなく私に対して過保護な兄ならばやりかねないからだ。
(まぁ…自分が恋だの愛だのをしている姿なんて天地がひっくり返ってもないな。)
前世では二十五歳で人生に幕を閉じ、今世では十五歳。精神年齢で言ったら四十歳である。
私にとって同い年の生徒達なんぞ可愛らしい子どもにしか見えない。
「取り敢えず何かあったらすぐに言えよ。お前は自分の中に溜め込んじまうタイプなんだからよ」
「すまない…心配を掛けて。」
「こういう時はありがとうって言って欲しいんだがな俺は。」
やはり私はこの優しい兄には一生敵わない。
ありがとうと言い直せば繋は白い歯を見せて嬉そうに笑った。
授業が始まる時間が近付き、繋と別れ一人で教室へと戻る。
少し話せたからか気持ちも楽になり、今なら落ち着いて話せそうだ。
「あの、出雲さん。申し訳ないんだけど今週だけ教科書を見せて貰っても良いかな?まだ家に届いてなくて…。」
暁 焔を真正面から見ても先程のような動揺はなくなっていた。
彼にロマ様を重ね合わせ、勝手に彼を避けるのは失礼なことだと反省する。
「その…暁、と呼んでも良いだろうか?後は敬語もいらん。」
「!う、うん!勿論だよ!!」
タイミング良く授業開始のチャイムが鳴り響き、私達はお互いの机を近付ける。
嬉しそうな暁を見て私も表情を緩めた。