歯車
ガヤガヤと騒がしかった生徒達も担任が教室に入ってきたことで自分達の席へと戻っていく。
離れることを渋りながらも幸は隣の教室へと戻り、愛兎はそのまま私の前の席へと座った。
ちなみに入学式の日のクラス発表の際、幸の私達とクラスが離れたと知った瞬間の絶望顔の凄さは記憶に新しい。
「んじゃ、早速本題に入るぞ。もう既に知られているようだが今日からこのクラスに転校生が来る」
「おー!やっぱマジだったんだ転校生!女子?男子?俺は女子に一票!!」
「アホかお前は。そんな小さい夢を語ってんじゃねぇ…だが俺もそんな夢を大切にする一人の男だ。」
アホはお前だ。
担任の意味不明な発言に痛む頭を押さえる。
この教師らしからぬ男は出雲 繋、私と血の繋がった実兄だ。
短く切られた黒髪に切れ長の黒目、長い手足と程良くついた筋肉。頭は残念だが整った容姿をしている兄を見て女子達が盛り上がってるのを度々目にする。
「取り敢えず紹介すっから落ち着けよ。…おい、入ってきて良いぞ」
繋の発言に呆れながらも扉へと視線を移せば静かな教室に扉を開ける音だけが響き渡る。
そして入ってきた人物を見た瞬間、私は目を大きく見開いた。
「今日からこのクラスでお世話になります暁 焔です。宜しくお願いします」
自己紹介に対する生徒達の拍手の音がやけに遠く感じる。
性別も纏っている雰囲気も違うのに。
(何故…どうしてこんなにも泣きたくなる…っ。)
艶やかで柔らかな赤い髪。
炎を埋め込んだルビーの輝きを放つ瞳。
陶器のような白く滑らかな肌。
記憶の中のあのお方と目の前にいる彼の姿が何故か重なり合ってしまう。
「縁、どうしたの…?何だか辛そうだよ…?」
「…大丈夫だ。何も問題ない。」
「でも…」
私の異変を感じたのだろう愛兎に小さく微笑む。
その間にも繋が転校生の席を指差し、座るように促していた。
(今だけは自分の優秀でない表情筋に心からの感謝だな…。)
転校生が促された席が私の隣というのは些か心臓に悪い。
「これから宜しくお願いします。えっと…?」
「出雲 縁だ。こちらこそ宜しく頼む。」
カチリ。
何処かで運命の歯車が動き出す音がした。