愛兎SIDE
アタシの家の隣にはどこのお屋敷だよってレベルの日本家屋がある。
大きな木製の門を開けば、最初に目に入ってくるのは大きな庭。
そこには松の木から始まりたくさんの植物が綺麗に植えられ、大きな池には鱗を輝かせ自由気ままに泳ぐ何匹もの鯉。
さらには鹿威しが風流な音を出して存在感を大分主張していたり。
いや本当にどこのお屋敷だよ。(二度目)
庭も広ければ勿論家も広い。
長い長い廊下を進み、一番奥へと進めばそこには百人くらい余裕で入れるような道場。
で。アタシが目的とするのはその道場のさらに奥にある温泉のような大浴場。
…の水風呂。
「縁!遅刻するよ…って、またお風呂で寝てるー?!」
「はぁ…朝から騒がしいやつだな。」
「水風呂で寝るの本当にやめて?!溺死してるんじゃないかって毎日ヒヤヒヤしてるんだからねアタシ!!」
「、」
「無視しないで?!」
そんな不満そうな流し目したって許さ…あ、その角度めっちゃ好き。格好良い。
(朝から色気駄々漏れ!愛兎困っちゃう!)
なんておふざけはこのくらいにして、彼女の美を保つ為の支度を始める。
この同じ十五歳とは思えない程の色気を放つのは私の幼馴染み。烏の濡れ羽色のような長い黒髪と黄金色の瞳を持つ超絶美少女。
始めて会った時はその美しさに雷ような衝撃を受けた。
昔っから私は可愛いものや美しいものが大好きで、それを得る為だったら労力を惜しまない性格なのだ。
だからあの日から今日まで、徹底的に縁の髪や爪、肌のお手入れをしている。
「よしっ、今日の髪のお手入れも完璧!さっすがアタシ!」
「おぉ…サラサラだな」
「縁の髪を何年お手入れしていると思ってんのさ。幼馴染みを舐めないでよね!」
目をキラキラさせて、ドライヤーで乾かした髪を見詰めている縁を見るとこっちまで笑顔になってくる。
(普段は格好良いのにこういう時は可愛いんだもんなぁ…本当にズルいや。)
容姿もだけど何より縁は内面がとても綺麗な人間だ。
剣道をしている姿は神聖なものに見え、縁がそこにいるだけでまわりの空気がガラリと変わってしまう。
居心地の良い縁の隣。
そこは幼馴染みであるアタシだけの特等席。
「あーあ。また今日も出雲 縁の親衛隊達が増えるだろうなぁ…何か複雑。」
「何が複雑なんだ?」
「何でもない!気にしなーい気にしなーい!ほらっ、早く朝ご飯食べに行こ!!」
「おっと、分かったからそう急かすな。」
学校には縁の親衛隊まで存在する。
縁の可愛さと美しさを理解してくれるのは嬉しいけれど人気があり過ぎるのも悩みものだよね。
(…こんな気持ち、縁は全く知らないでしょ?)