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イケメン

 登校のバスを20分早くした。

 それでやっと、ユルミを捕まえる事ができた。

 電話番号が、小学校の時から変わってたからだ。

 

 「こないだゴメンね! こっちが頼んだのにドタキャンで」

 まず謝ったら、ユルミはにっこり、

 「いいよお、風邪じゃあしょうがないよねえ」

 と、ほんわかろんと答えて来る。

 うーん。 この顔で、この口調でミントを誘惑したのか?

 どうしても現場が想像できない。


 言いにくいけど、言わずにおくのも不自然だし。

 「え〜! 根岸くんって、あやちゃんのカレシの方なの?

  知らなかったよ、ごめえん」

 屈託ない返事に、頭がズキズキする。

 知ってても同じことやっただろ、アンタ。 確認する気もなかったくせに。


 「ミントびっくりしてたよ?

  ゆみちゃん、誰にでもそうなわけ?」

 「うーふふふ。 アタシね〜、ガマンしないんだあ。

  欲しいからサア、ガマンしないの。 待つよりねだった方が確実だしい」


 わ。 いきなりついて行けなくなった。

 わからんぞ。

 まず、ガマンしなきゃいけないくらい、欲しいモンですか?

 それから、ねだると確実にオッケー取れるモンですか?

 ダメだ。 あたしじゃ会話にならない。


 「でもゆみちゃん、カレシ作んないの?」と、あたし。

 「う〜ん。 セフレのほうがいいよお。

  みんな、エッチのときが一番優しいもん。

  だからそこだけでいいんだあ〜」

 

 「あ、相手選ばないの? 好みとかもあるでしょ?」

 「アレの好みはあるよう。

  っでも見てから決めるわけにいかない、あはははははあ」

 「あははははあってね、あんたねえ」

 「だからあ。 ヤってみて良かったら、その子を好きになるように頑張ってみるんだあ」

 

 バスの中でする会話じゃなかった。 周りの人がジロジロ見てるよ。

 ギブアップだ。 理解不能!!

 ユルミは宇宙人だった。




 その日の放課後の音楽室。

 部活に一番乗りしたと思ったら、先客がいた。

 北欧系の、外国人みたいな顔立ちの、背の高い男の子。

 おお、イケメンじゃん。

 男の子はドライバーで、キーボードのふたを外していた。

 うちの部員じゃない。 電気屋さんにも見えないし。

 

 あたしの顔を見ると、ぺこりと目礼だけした。

 「あ、あの‥‥?」

 どなたですかと聞きかけて、戸惑う。

 日本語、通じるんだろうか?


 彼は顔を上げて、あたしのネームプレートを見た。

 日本語出来ても、この名札は読めないぞ、絶対。

 あたしの名札は、みっともない。

 学年カラーの赤のプレートに、「金魚」って打ってある。

 何かのギャグみたいで嫌いだ。


 「かなをさん?」彼が言った。

 「えっあっはい!!」

 声が裏返ってしまった。

 イッパツで正しく呼んでもらったのは、生まれて初めてかも。

 「やっぱり。 お兄さんがいるでしょ?

  かなを あつきさんって。 ね?

  剣道の国体強化選手になられたよね」

 お兄ちゃんの知り合いか。 なるほど。


「よくご存知ですね」

 「Y高の剣道部にいたんで。 一応、後輩なんですよ。

  この春、卒業したけどね」

 「ああ、そういうことだったんですね」

 ‥‥で、その後輩くんが、どうしてキーボードを解体してるんだ?

 質問しようとしたら、合唱部顧問の大林先生が入ってきた。

 

 「こら、れん。 うちの一年坊をナンパするな」

 「してねーって」

 「で、どうだ? 直りそうか」

 「たぶん。ここが甘くなってるんだ。 で、代わりにこれを付けたらいいかなって」

 会話の様子を見て、あたしはぶっ飛んだ。

 「まさか、先生の息子さんですか?」

 「甥っ子だよ。 なんでそう驚くんだ!」

 「だって」

 大林先生のあだ名は「寝起きトド」だ。

 

 「れんは女房の兄貴の息子なんだ。

  電工大の一年なんだが、家が電気屋のせいか、昔からこういうのが得意でね。

  大学入って暇そうだから、修理させてみようと思ったのさ」

 先生はちょっと得意そうだ。



 わが南高校の合唱部は、県下じゃちょっと有名だ。

 全国区の大会でも、何度か優勝している。

 混声四部。 男女合わせて48人いる。

 あたしはまだ一年で、入部して一ヶ月だからたいして声が出ないけど。


 問題のキーボードは、普段の練習用のものじゃない。

 年数回、ボランティアで老人ホームなどに慰問に行く時に使うものだ。

 学校の備品ではないらしい。 亡くなった先輩の置き土産だという噂がある。

 そのせいか、怪談のネタにされている。

 コンセントを差し込まないのに鳴る事があるとか。

 好みの男の子が来ると、勝手に音を出すとか。


 そんなことで騒いでいるうち、まるで音が出なくなってしまった。

 これも呪いだと騒がれた。

 イワクつきのキーボードだ。



 「お願いしまあす」

 ドアが開いて、3年女子の先輩集団が入って来た。

 大声で雑談をしていたくせに、急におとなしくなる。

 キーボードにかがみこんだ、れんさんが気になるようだ。

 ひそひそ話がおかしなリズムで広がる。

 みんな、目がハートになってるよ!


 「ちょ、ちょっと、キンギョちゃん」

 ソワソワしながら聞いて来たのは、ソプラノのパートリーダーの間壁先輩。

 「あの男の子だれ?」

 「大林先生の甥っ子さんだそうです」

 「ウソお。 ねえ、名前はッ」

 「知らないです、先生はレンさんて呼んでました」

 「レンさん」

 そのあと、またまたひそひそ話が始まる。

 語尾にいちいちハートマークがついてる。

 しょーがないなー、女の集団は。


 結局、あたし達の練習が終わるまで、れんさんは音楽室にいた。

 おかげで練習はガタガタだった。

 女声パート、後ろを気にして集中力ゼロ。 先生にさんざん叱られた。

 イケメンの威力って、すごい。


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