ブラコンえっち
その日、家に帰ると、あたしは台所に立った。 食事当番の日だったからだ。
うちの母は働いている。 だいたい帰りは7時半くらいになる。
あたしとお兄ちゃんは、母が帰るまでに交代でご飯を炊いてお汁ものを作る。
暇があったら、サラダや煮物も作る。
母が魚や簡単な惣菜なんかを買って帰って、夕食が始まる。
小さい頃からそうやって来た。
だから、あたしは料理は得意だ。 大学3年生のお兄ちゃんも、ちゃんと料理ができる。
実用的に育てたのよ、と母は自慢する。
手を抜いてる、とも言うと思うけどね。
そろそろ料理ができるという頃、お風呂場で物音がした。
あたし一人のはずなのに。
(まさか、泥棒?)
包丁を持ったまま、そうっと見に行く。
風呂場のドアがいきなり開いた。
あたしは思いっきり悲鳴を上げた。
相手もびっくりして固まっていた。
「お兄ちゃん!おどかさないでよ!」
雨でぬれた服を着替えていたらしい。
「そっちこそ、包丁!包丁どけろ!」
「あ」
あたしはあわてて、包丁をしまいにキッチンへ戻った。
心臓がばくばくわめいてる。
お兄ちゃんの裸をもろに見てしまった。 顔が真っ赤になってる。
この反応、異常だよね。
だって兄妹なのに。
いや、赤面程度はしょうがない。 心臓バクバクも、まあギリギリ許すとしてだ。
‥‥下半身が熱くなっちゃうのは!?
おかしいよ。 絶対、誰にも言えないよ。
あたしは、お兄ちゃんにだけ欲情する。
ミントにも、他の男子にも感じない、エロスってやつを、5歳上の兄貴にだけは感じてしまう。
だからって、好きなのとは違うと思う。
だって兄妹だもん。 オトコと思って接しているわけじゃないもん。
なのに何故、体が反応しちゃうのかな。
ハダカとか、至近距離とか。
呼吸とか、体温とか。
お兄ちゃんは、無口な性格で、話す時も低い声でボソボソとしゃべる。
あたしはその声にも、ズキンと来る。
何が来るんだろう。わかんない。
背骨と子宮のへんに、ハリガネ突っ込まれたみたいに、ズンと来る。
ミントにキスされたって、なんにも来なかったのに。
そうは言いながらも原因については、思い当たることがある。
あたしとお兄ちゃん、一度だけエッチしたことがあるんだ。
めちゃめちゃ小さい頃だけどね。
あたしが小学校1年生の時。 ということは、お兄ちゃんは6年生だ。
今考えたら、微妙な年齢かもしれない。
お兄ちゃんの方には、エッチの意味がわかってたと思う。
今と同じに、家には誰もいなかった。
あたしとお兄ちゃんは、テレビを見ていた。
昼間だったのに、メロドラマのワンシーンで、ヤバい場面をやってた。
ベッドシーンがあったのだ。 ハダカの男女が、ベッドでキスをしていた。
そのうち、あえぎながら全身を舌で愛撫するのが結構はっきり映った。
「どうしてこんなことするの?」
あたしは無邪気に聞いた。
「キモチいいからだろ」
マンガを読みながら、お兄ちゃんが答えた。
「こんなのでキモチよくなるの?」
「やったことないから、わかんね」
「あたし、チューはしたことあるよ」
「だれとお?」
「隣のケイスケくん。保育園の時ぃ」
「あのハナタレ」
お兄ちゃんは、気に入らなかったようだ。
「でも、チューしてもキモチよくなんないよ。
なんかさ、ビチョッとして気色悪いんだよお」
「やってみる?」
お兄ちゃんが言って、あたしの肩をつかんだ。
「んーっ」
なんか今思い出したら、おかしな恰好でチューをした。
「キモチいいか?」
「よくないぜんぜん。 あ、でも気色悪くはないか」
お兄ちゃんの唇はビチョビチョではなかったので、あたしはホッとした。
「‥‥で? ‥‥こんどはそこに寝て。
で、オレが上に乗っかる」
「ぐえー。 お兄ちゃんめっちゃ重い! 苦しい苦しい」
「あ。 わかった。 こっちに手をつけばいいのか。こうだ」
「うん。 これなら苦しくな‥‥ん、ん、ん」
お兄ちゃんはもう一回、今度は上からあたしにチューした。
それはなんだか‥‥前よりマジな感じだった。
そのあと、テレビの中でやってたように、あたしの体を触った。
あたしはくすぐったくて、大笑いした。
舌でなめられても、死ぬほどくすぐったかった。
やってるお兄ちゃんも、笑い転げていた。
でも、あたしたちはそのあと、それ以上のことをやってしまったのだ。
さすがにそれは、笑えなかった。
ドラマの男女がしていたように、下着を脱いで。
お兄ちゃんの舌が、あたしのおへそのへんから、するりと下へスライドして。
笑い転げていたあたしの声が、泣き声みたいになった。
テレビの中の声と似ていた。
くすぐったいのを、突き抜けたのだ。
自分の声に驚いて、あたしは泣き出した。
お兄ちゃんも、びっくりして震え始めた。 顔が真っ赤になっていた。
お兄ちゃんの下半身にも、何か異常なことが起こっていたようだ。
ふたりとも、半泣きの顔で離れた。
あたしはお風呂場に、お兄ちゃんはトイレに飛び込んだ。
お互いの立てる水音だけが、ざあざあ響いた。
それを皮切りに、お兄ちゃんは思春期に突入した。
家でめったにしゃべらなくなった。
あたしも、兄ちゃん兄ちゃんとくっつかなくなった。
大人たちから見ると、年齢相応の自然な変化だったかもしれない。
でも実は、全然フツーじゃないことなのだった。
それが証拠に、あたしは今でも、あの時の感覚をひきずっている。
あたしのおバカな脳みそは、お兄ちゃんを、エッチの相手としてインプットしちまってるみたいなのだ。
性的な欲求とか言われると、あの時の舌の感覚が思い出される。
エライことだ。 めちゃくちゃだ!
6年生の時の兄貴のテクが、エッチの基準になってるなんて、こんなこと人に知られたら、恥ずかしくて死ぬぞ。
ユルミのことをえらそうには言えない。
あたしこそ、ビョーキだ。