president-X
コツコツと響き渡る黒のハイヒールは、裏側の赤をこれでもかと見せびらかしているようだった。フランスのデザイナーと同名のクリスチャン・ルブタンをこよなく愛するマリアは、長い金髪を掻き上げる。
「日本にあるって言うのは本当の話なの?探偵はちゃんと仕事したのかしら」
ロナウドは慌ててタブレット端末を眺めた。我が儘が多いマリアは父の他界から、会社を引き継いでいるため、社長の立場であり、何一つ小言すら言えない関係性だ。マリアと同じ30代で薄い髪の毛は、心労の表れである。
「確かに限定品は、日本の女性が所有しております。日本では一点だけ販売され、購入したと見られます」
「で、それはどこの……」
答えようと、ロナウドが口を開こうとした時、マリアは勢い良く駆け出していた。視線の先に女性がいることが分かり、履いている靴は紛れもなくチェック柄の限定品である。颯爽と歩く女性はマリアと同様、背が高くスタイル抜群だった。
「そこの貴女っ!日本人の貴女っ!」
「なによ」
「その靴、私に譲りなさい!いくらでも出すわ。譲りなさい!」
「……致しません」
これは、とある一匹狼の女社長の話である。