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十一話 『車座集会』

この四人の中の誰かがメインヒロインです(登場遅すぎ←)



「私の名前はペルだよ。ペルリアーヌ・ワンバーン」


 犬耳少女がにっこりと手を差し出す。トウジはそれにドギマギといった調子で応え、その肉球のようにプニプニとした手を、恐る恐る握り返した。


「私はイナッキ。イナッキ・エッサーナです」


「アチキは、ロブリエ・ラバナンシ……付和雷同」


 続いて、ペルの両隣に座る二人の少女も自己紹介を簡潔にすませる。

 そして、その三人より少し前に座る茶髪の美女も「バズナ・クルテナだ」と、クールな声でシンプルに自身の名前を教えてくれた。


 最後に、


「俺はシガラミ・トウジ……いや、トウジ・シガラミって名乗った方がいいんすかね!? いやあよく分かりませぬなヌハハ……!!」


 多少マシにはなったがまだ浮かれ切っている。

 我らが最愚の異世界転移者、トウジがまったく締まらない百面相で自己紹介をぐだぐだに述べて、一通り、お互いの顔と名前の一致を完了させる。



 ――現在五人は、トウジががっつりと足の先から頭の上まで漬かっていた巨大熱湯風呂から場所を移し、数段スケールが小さめの、ぬるま湯の浴槽に向かい合って腰を下ろしていた。


 ぬるくて優しくて、極めてリラックスしやすい絶妙な温度設定。

 なるほどこれならば、体を冷やさずに、逆に体温が上がり過ぎずに、落ち着いて話をすることが可能だ。


 そしてトウジ一人に相対し、女性陣がその正面に並んでいる構図。


「いやあ、ははは……」


 このような状況でトウジの興奮が最高潮にまで達さず、むしろ先程よりトーンダウン出来ているのは、奇跡でもなんでもなく、ひとえに現在浸かっているお湯の透明度のおかげだろう。


 濁っている。

 牛乳のように白すぎるそのお湯は、女性陣の裸体を完全に覆い隠しており、はっきり言ってまったく何も肝心なところが見えない。


 正直申し上げて大変残念であると同時、かといって丸見えのままだとマトモに話なんて不可能だろうから、トウジにとって仕方ないといえば仕方ない上手な落としどころではあった。


 美女と美少女と風呂に入る。その素晴らしさだけでご飯一生分はいけるから、無問題。



「――さて、どこから話そうか。まず私たちの素性は、簡単に言えば色んな国から派遣されてきた傭兵の集まりみたいなものなのだが」


 と、そんなトウジのピンクの思考を打ち切るように、単刀直入に言ってきたのは茶髪美女のバズナだった。


「……傭兵?」


「そう、傭兵。……いや傭兵というか、『討伐隊』って言った方がより正しいかな……」


「…………?」


「まあ簡単に事情説明すると、本当は『天使』討伐の命を受けて出発した私たちだったけど、途中で状況が変わって、私たちは手持ち無沙汰になった。やる事がなくなった。で、各々の故郷に帰ろうとしたら、今度はここ、『レルタリア』の警察組織に依頼されて、非合法の奴隷商人どもを追っかける展開になって、あとはなし崩しで今の状況って話さ」


「? ……?」


 ひと息で説明しきる彼女。

 バズナの聞き慣れない単語の羅列に、トウジはそれを今いち理解できず、疑問符を顔に十三個ほど浮かべてみるしかない。

 その反応を受けてバズナの隣にいた幼女共闘少女、イナッキが「話が飛び過ぎですよ」と軽く口をはさんだ。


「こういうの慣れないです……。ええっと、そもそも、シガラミ……トウジさんは、どこの国の誰さん、なんでしょうか? まずはそこからですよね。よければ教えて頂けませんか?」


「え、俺?」



 ――唐突かつ必然かつ予想された質問。


 これに、それまで完全に心が弛緩して油断しきっていたトウジは言葉に詰まる。


「確かに。黒髪黒目ってすごく珍しいし、出自が謎だよね。救出した他の人たちは簡単に身元を割り出せたけど、トウジはずっと意識を失ってたし、調べもつかなかったし……」


「……実のところどちら様なの? 曖昧模糊……」


 犬耳子と緑髪子こと、ペルとロブリエもイナッキに同調した。

 更にはバズナも頷いて、トウジの言葉の先を促す。


「――――」


 これは困ったことになった、とトウジは内心冷や汗を浮かべる。

 自分は異世界から落っこちてきました、なんて軽々しく答えるのはこの場合絶対に避けるべきだろう。


 なにしろ、これまでの道程が道程だ。童貞で童貞だ。

 軽々しく『自分はまったく別の世界から来たチーレム志望者の馬鹿です』なんて言ったところで、異常者扱いされるのがオチ。


 そうなって彼女たちの態度が今と別のものに変わったら、本当に目も当てられないことになるのは、トウジが元の世界で散々に学んできた一つの経験則だった。


 せっかく――辛うじて、と言うべきか。こうして地獄に地獄を重ねてぎりぎりでたどり着いた今の状況に、自ら終止符を打つほどにはトウジは愚かではない。



 ――ただし、元の世界でトウジを虐げてきた類の人間と、彼女ら異世界人を同じ物差しで測って見くびってしまうくらいには、彼はまだまだ愚か者だったが。


「…………」


 トウジは次に出す言葉が結局見当たらず、沈黙を続けるしかない。

 それは外側から見れば、自身の素性を答えることを躊躇う、怪しげで訳アリの人物に見える事だろう。

 普通なら、そんな相手に肩を入れたがる人物は、そうそういるものではない。


 そんな彼を見て、四人は互いの顔を見合わせる。

 そして――。



「――ま、別に答えたくなきゃ、答えなくてもいいさ。身寄りとかツテとかはなさそうだ、という事だけは分かってる。それで十分だ」


「じゃあ、アレですね。今後あなたはどうしたいですか……? それが一番大事です」


「………え?」


 バズナとイナッキが、あっけらかんと話題の方向性を変えた。

 その意外過ぎる対応に、トウジは目を丸くする。


「事情は人それぞれだよね。すっごいわかる」


「つまり……閑話休題」


 ペルとロブリエもあっさりとそれに首肯する。

 

「え……なん……そんなんでいいの? 俺って自分で言うのもなんだけど、けっこうな素性不明だぞ!? 普通はもっと色々とあれこれ根掘り葉掘り聞き出そうとするのが――」


 テンパって自分で墓穴を掘っていくスタイルのトウジに、バズナは片眉を上げ、またもや乱暴にトウジの頭をゴシゴシと撫でつける。

 下らんことを喋るな、と言わんばかりに。


「なにを言ってる。お前が危険な人間じゃないことくらい雰囲気でわかるぞ。少々抜けてはいそうだが」


「それにエフエナ先輩――あ、トウジさんとずっと一緒にいた戦う幼女の人。あの人も言ってましたよ。トウジさんは『ちょっと変だが見どころがあるかもしれない謎の奴だ』って」


 フォローなのか、そうでないのか。どちらとも取れない台詞をイナッキが吐く。

 そういえば、あの幼女どこいった。

 エフエナって名前なのか。

 結局あの子は何者だったのか。

 なんだったんだあの鬼神みたいな戦闘力は。



「――ともかくだな」


 そうして脱線しかけた会話をバズナは修正し、いよいよ掛け値なく、お話の本題に突入する準備が整ったばかりに“これから”を切り出し始める。


 



「…………は、生きててよかったかも」


 どうやらこの場に、少なくともこの場所には、元の世界で味わい続けたつまらない|しがらみ≪・・・・≫は一切存在していないらしいという事実。


 それが今のやり取りで何となく、トウジには察せてしまった。


 それは、今彼が浸かっているぬるま湯よりも、ずっとずっと心地がよくて柔らかで優しいもので。




 トウジは束の間の休息を、あとほんの少しだけ堪能することにしたのだった。


しかし話の進行も遅いですね……。

いらない描写が多いのか……

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