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尋問

 隻眼に隻腕の男から情報を引き出した。が、そこに大した情報はなかった。

 この暗殺者はただ命じられるがままにエルリスの命を狙っただけで、それを依頼した者のことの一切を知らない。 

 ただ、エルリスを暗殺する依頼を出した者がいる。分かったのはそれだけだった。 


「ふーん」


 考えてみれば当然ではある。暗殺の依頼なんて危険な仕事を頼むのに全情報を開示して堂々とするような愚か者はいない。

 普通は暗殺の依頼者を特定できるような情報は隠匿するべきものだ。

 しかもエルリスみたいな貴族の子供への暗殺依頼など、そんなことが明らかになれば末代まで極刑ものの大罪だ。

 なので、最低限の情報のみが与えられていたというのは当たり前だろう。

 だが、その限られた情報の中でひとつだけ気になることをエルリスは見つけた。

 

「成程ね。ただ、私を暗殺する理由は何かしら。この幼い身が復讐されるほどの悪だとは思えないのだけれど」


 何故、自分だけが暗殺の標的になっているのだろうか。

 貴族への暗殺の理由など、権威の剥脱の為か、復讐の為だと相場が決まっている。

 だけど、そのどちらにせよ標的となるべきなのはディアボロス家の当主である父だろう。

 過去にディアボロス家に子供を奪われたが故に同じ苦しみを味合わせる為に子供の命を狙ったのではないかとも考えたが、恐らくそれはない。

 この依頼者は匿名を希望している。

 つまり自身の身に危害が及ぶことを避けたいと思っている。

 そんな保身的な輩が復讐など考えがたい。

 そもそも復讐とは相手に因果応報、自業自得を認識させることで初めて心理的に達成されるものだ。

 

 匿名での復讐など、そこに爽快感は生まれないのだから。


「何か心あたりはない?」


「そんなの、あるわけないだろ。俺はただお前を殺すように依頼されただけだ」


「そう、使えないわね」

 

 エルリスは考える。

 自分を殺すことで得られるメリットは何か。

 だが、考えたところで一向に答えはでない。

 まだ圧倒的に情報が不足している。

 

「こんな美少女、殺すよりも別の使い道があるはずなのに何故わざわざ暗殺を依頼したのかしら」


「美少女って……自分でいうか」

 

「だって事実だもの。それで、あなたはどう思う。私を殺すよりも有効な使い道があるとは思わない?」


 今の自分の手持ちの情報(カード)では思考に限界がある。

 だから自分以上にこの世界について把握しているはずの目の前の暗殺者に問を投げる。が、


「……」


 男は答えられない。男もまたそれに対する答えを導き出すのに足る情報を持たないからだ。


「まあいいわ。それはそうとあなたに暗殺の内容を伝えた者のことは分かる?」


「それは……」


 彼は言い淀み、息を呑む。


「すまん、それだけは勘弁してくれ。俺が連中に殺されてしまう」


 暗殺依頼を伝達する者のことは分かっている。

 だが、それを教えるわけにはいかない。

 

「成程、ということは今ここで死ぬ?」


「っ、本当に頼む! 許してくれ! 連中の情報を外部に漏らしたことがばれたら本当にまずいんだ」


「ばれなければいいじゃない」


「それができないんだよ。奴らは嘘を見抜く『法具』を持っているんだ、だから」


 法具というのはどこかの狂った研究者が、奇跡の力を宿す『神具』を模して造ったレプリカのことをいう。

 

「法具、か」


 元の世界にはなかった道具で、エルリスも法具そのものは見たことがない。

 原典となる神具の写真は、本に載ってはいたが、そのレプリカがどんなものかは知らない。

 ただ、オリジナルに比べると性能は月と鼈のようだ。


「そういうことね……、でも残念ながら私の問に答えてくれないのならここで死ぬことになるけど」 


「、っ、」


「今ここで死ぬか、情報を話してからその者たちから全力で逃げるか。二つに一つだけど、あなたはどうする?」


「……」


 そんなの最初から選択肢はないではないか、と彼は顔を引きつらせた。

 

「っ、くそ、分かった、話す、話せばいいんだろ……、ただ一つだけ頼みがある。情報を吐く代わりにお前の家の力で、俺の逃走を幇助してくれ」


 家の力といってもまだこの世界に来て一日も経っていない彼女は、自分がどれだけ家の力を使えるのかも分からない。

 だが、


「ええ、分かったわ。あなたのことは私が責任もって逃がしてあげる。だから教えなさい」


 彼女は男の頼みを快諾した。

 

 


   




 夢を。彼女は夢を見ていた。


 凄惨で悲惨な血の海を、弱く幼く泣きじゃくるしかない子供だった自分がただ闇雲に歩き続ける夢。

  



「ママ……パパ……」



 血の海を、珊瑚のように散らばる屍の中を歩き、彼女は自身の両親の影を追い求める。


 だが、歩いても、どこまで歩いても母も、父も、見つからない。


 どこにもいない。


 泣いて求めても、どこにも見当たらない。



「ぐすっ……ひくっ」



 だが、本当は分かっていた。


 幼い心ながらに彼女は理解していた。


 両親はもういない。


 周りに転がる膨大な亡骸の中に混じっている。


 そう、殺された。


 敬愛する母が、尊敬する父が、あの者たちに殺された。



(どうして、どうして)


 幼い子供は心に果てのない悲しみを抱き、また徐々に憎悪が湧き上がってくる。

 

(……許さない)


 沸々と湧いてきた憎悪に身を委ねて、


「絶対に許さない」


 その者は闇夜の空を睨みつけ、


「殺してやる」


 その言葉を吐き捨てたところでその夢は途切れた。



 


 




 

 

 


 


 

 

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