狂った悪意
「どう……いう……、あの子は……あなたたちの……」
「ああ、娘だ」
アラスは何でもないかのように言う。
「だが、我らディアボロス家の未来に暗雲を翳らせる不安要素だ。だから殺す。その為に貴様のことを利用させてもらっただけ」
狂っている。
あまりにも狂っている。
まだ確定した事実でもない、ただの不安要素の為に実の娘の始末を画策するなど。
あまりにも狂っている。
不意にソニアは自分の両親の事を思い出し、目の前の二人と照合する。
まるで違う。
これは本当に人の親か?
(違う。こんなのは親ではない)
ソニアの目尻に熱い何かが込み上げてきた。
「この、外道……」
そんなソニアの言葉を、アラスは笑い飛ばす。
「ふふ、だが、あの子を殺したのは、お前だろう。この外道」
「っ!」
そうだ。
確かにその通りだった。
自分は、ここに来る前にエルリスを殺してきた。
夕餉に毒を盛り、殺した。
(あ、ああ……)
ソニアは自覚する。
(私もこいつらと同じか)
罪もない人間を、自分の欲のために殺した。
この十年間ずっと。
ただ、この時の為だけに。
殺し続けてきた。
(後悔は、ない。私はこいつらを殺す為だけに沢山の命を奪ってきた。そのことに一片の後悔も、ない)
ソニアは奥歯を噛み締めて、
(私がその道を選んだのだから、そのことに後悔はあってはならない)
全身を沸々と滾るような血の流れを感じ、
(だから私は一片の後悔も、微塵の躊躇いもなく、必ずここでこいつらをーー)
ドンッと自身の頭を踏み付ける足を腕の一閃で払い除けて、
「殺す!!!」
暴風支配を全開に発動する。
だが、
「ふん、何だ。実力で遥かに劣るくせに想いで勝つ。そんなことがあると思うか」
全ての黒い風の気流を潜り抜けて、アラスはソニアの全身に拳を叩き付けた。
「ぁ、」
ぴしっと何本か、骨が折れた。
「それではご苦労だったな、ソニア」
アラスはトドメの一撃の為に拳を大きく振り上げて、
「本当にご苦労だった。では、死ね」
一気に拳を振り下ろす。とーー、それは現れた。
「……なんだ?」
黒闇の中に多い隠された、白い何か。
それに拳が阻まれて、アラスの行動が止まる。
と、その闇の中より声が聞こえてくる。
「こんばんわ、パパ、ママ。随分と面白いことをしているようね」
少し舌っ足らずな幼い女の子の声だ。
「この遊びに、私のことも混ぜてくださる。賭ける物は互いの命」
暴風支配の狂風によって弾けた窓枠から月光が差し込み、その白い姿を隠す闇を消し飛ばす。
「もっと、もっともっと、面白くなるとは思わない?」
現れたそれは、ソニアが殺したはずの女児。
エルリス・アイ・ディアボロス。
その姿を見た瞬間に、ソニアは驚いた。
確かに殺したはず。
その、最期を看取ったからこそ分かる。
確かにエルリスは死んでいた。
「う、そ……でしょ」
一度目に殺した時は、失敗した。
だから二度目は今度こそと思い、念入りに毒を調合した。
だが、それでも生きている。
その事にソニアの脳裏に一つの言葉が過ぎり、それをそのまま口に出していた。
「……不死の魔女ーー」
と。




