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ルキアの花園

「これなんておはなだろ」


 自然の溢れる辺境の村に育った二人は、幼くても野草、花々にはそれなりに詳しい。

 だけど目の前の花のことは、知らない。


「うーん、みたことないお花だけど、なんだろうね」


 広がる一面の花畑に近付き、二人は腰を下ろす。

 と、


「それはルキアの花といってね。花弁が光を反射する性質を持つ、輝く花だよ」


 後ろから声が聞こえた。

 二人は振り返る。

 そこにはウェーブ掛かった長い金髪に黒いドレスの、妙齢の美女が立っていた。

 

「あの……、おねえさんだぁれ?」


「ボク? んー、そうね。ボクは花の香りに誘われて、此方に迷い込んだ愚かな白蝶といったところかしら」


 言ってることの意味が分からず二人の幼女は首を傾げる。


「おねえさんはちょうちょなの?」


「ふふ、ただの喩えよ。それより君たちのような可憐な花たちが、何故ここに?」


「あのね、どうくつのたんけんをしてたの」


 ソニアは答える。と、その服の裾をちょこんとゆーちゃんが摘む。


「ソニアちゃん、知らないひととおしゃべりしちゃだめだよ。おこられるよ」


「あ、そうだった! ごめんね、おねーさん! わたしたち知らないひとと話しちゃだめなんだって」


 くすりと女性は笑う。


「言葉を交わしたでしょう。もうボクと君たちは知らない関係ではないわよ」


「あ、それもそっか! そうだよね!」


「ちょっ、ソニアちゃん!?」


「だいじょーぶだよ、ゆーちゃん。ほら、このおねえさんやさしそうだし」


「むぅ……、そういうことじゃないと思う」


 ちらちらとゆーちゃんは女性の方を伺う。


「あらら、ボクは結構警戒されてるみたいね」


「い、いえ、そんなこと、ないです……」


「まあいいわ。そう、洞窟の探検していたのね。成程」


 女性は、二人の元に近付く。

 顔見知り以外には人見知りを発動するゆーちゃんは怯えたように体を硬直させて、

 顔見知り以外にも人懐っこいソニアは、特に怯えた様子もなく彼女を迎え入れる。

 互いに反応は違う。が、共に可愛らしい、と女性は思う。


「……この場所、綺麗でしょう」


 すっと二人の隣に腰を下ろして、ルキアの花の花弁を指で撫でる。


「ルキアの花……、その花言葉は『希望の創造』」


 ソニアは首を傾げ、


「きぼうの創造? ゆーちゃん、なにかわかる?」


 勉強に関して自分よりも成績の良いゆーちゃんに訊く。が、ゆーちゃんも首を横に振る。


「わかんない」


「そっか、ゆーちゃんでも分からないんだ。おねえさん、それってどういう意味なの?」


 ちらりと女性は二人の顔を見て、


「ーー世界は箱舟。時空を渡り、絶望に満ちる海に無限を刻む箱舟」


 ぽつり一つの(うた)を紡ぐ。


「ーー箱舟に搭乗するのは絶望喰らう愚かな泥人形」


 彼女が何を謳っているのか、二人の幼い心には分からない。


「ーー楽園求めて箱舟は往く。その時が果てるまで、あるいはその身が朽ちるまで。ただ、絶望の中を往くーー」


 分からず、ただ綺麗な声によるその詩に、聞き入るだけ。


「これはルキアの花に付随する詩。その意味はきっと千差万別よ。ボクの解釈と、君たちの解釈では違ってくる」


 やはりソニアには彼女が何を言っているのかは分からなかった。

 が、何となく彼女の言い分を察したのかゆーちゃんは、


「なら、……おねえさんの考える意味をおしえてください」


 ここに来て初めてゆーちゃんが、彼女に問いかけた。


「……そうね。ボクが思うに、きっと楽園(きぼう)なんてものは時の果てまで探したところで、見付からない。永遠に」


 どこか寂しげに語る彼女の横顔に、


「ううん、きっとあるよ」

 

 ゆーちゃんは否定する。


「だって、この場所がそう言ってるよ」


 詩の意味も何も分かってはいない。でも、ゆーちゃんは彼女の考えを否定する。


「あの怖かった洞窟の先にはこんなにきれいなけしきがあるんだもん。きっときぼうだってどこかにあるよ」


 その強気に否定するゆーちゃんの姿に、彼女は微笑み、


「ええ、そうね。本当にそうだといいわね」


 ゆっくりと立ち上がる。


「でもね、この世の絶望は甘くない。きっと直ぐに知ることになるわ」


 どこか含蓄のある言葉を残して


「願わくばその答えが永遠のものであることを、私は祈っているわ」


 いつの間にか、彼女の姿は風に溶けるように消えていた。


「!?」


 二人は驚き、顔を見合わせる。と、


「おう、どうだこの景色いいだろ?」


 洞窟の入口前にいたおじさんが、洞窟の薄闇から姿を表した。

 心配になって来たのだろう。


「ねえ、おじさん! 今ここにいたおねえさんがどこに行ったか知らない?」

 

 おじさんの元まで走り、ソニアは訊く。が、


「ん? おねえさん?」


 おじさんは怪訝な顔をする。


「おかしいな。今日ここに入ったのは君たちだけだったはずだが」


「……え。でもさっきまでここにおねえさんいたよ。ねえ、ゆーちゃん」


「う、うん」


 おじさんは困った風に頬をかく。


「そうは言ってもなぁ。あ、もしかしたら精霊にでもあったんじゃねえか?」


「せいれいさんって?」


「ここら辺に伝わる言い伝えみたいなもんだ。お花のことに詳しいそれは美しい姿をした女性らしいが……」


 「おお!」とソニアの目が一気に煌めいた。


「凄いね、ゆーちゃん! 私たち精霊さんに会ったんだよ」


「う、うん、そうだね……」


 ソニアはゆーちゃんに抱き着き、

 ゆーちゃんはソニアに抱き着かれたことで照れて頬を赤く染める。



 


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