表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/29

復讐者

(ーーやはりそういうことだったのね)


 骸鳩の小柄な男から情報を得たエルリスは、完全に全てを理解した。

 エルリス・アイ・ディアボロスへの暗殺は成功している。

 いや、正確には一度成功の報告があり、直ぐに失敗の報告が上がったというべきか。

 とにかく一度エルリスへの暗殺は成功していた。脈拍等は完全に消え、心臓も止まっていたのだという。

 にも関わらず何故か直ぐに息を吹き返した。

 それが今朝の出来事だった。


 その内容にエルリスは驚き、さらに話を聞き、分かったことが他にもあった。

 エルリスに一度目の暗殺を仕掛け、その報告を挙げた者の名前はーーソニア。



 そう、つまり一度目に放たれた暗殺者は、隻眼隻腕の男ではなく、エルリスの侍女のあのメイドだったのである。

 だが、ここら辺までは大方予想通りだった。

 あの時、小柄な男が持っていた二枚目の嘘発見紙。

 それによってエルリスは、後もう一人は暗殺者が潜んでるのではないかと疑っていた。

 そして、その目星も付けていた。

 雇用一週間のあのメイド。

 それを除いて他には思い付かなかった。


 だからその事にはさほど驚くことはなかった。

 ほぼ推察の通り。ただ、暗殺の依頼者の特定まではできてはいない。細心の注意を払って幾つものフェイクの組織を使っているのだろう。だから特定には難しい。が、これはもうどうでもいい。

 どの道、『彼ら』は自分が好きに動くのに邪魔になる。

 早々に始末するつもりなので、暗殺の依頼者だろうがそうでなかろうが関係はない。

 そこまで考えたエルリスは、ふっと息を吐く。



(さあ、点と点は線で繋がったわ。後はあなたが動くのを待つだけね、ソニア)


 そうして夜は深くなっていった。



 







 ーー許さない。

 何度そう思ったことか。

 許さない。

 深く深い、果てのない憎悪の念を抱き、彼女は長い通路を歩いていた。


 その顔に万人受けするような笑顔を張り付けて、『同僚』たちとすれ違うたびに会釈する。


(死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね)


 こいつらも同罪だ。

 あいつの権力の下にいるものは全て憎い。

 無茶苦茶に殺して、殺して、殺し尽くしてしまいたい。

 全てが憎く、ただ悪意だけが心の中で増長してゆく。が、そんなことは現実的に無理なのは分かっている。

 だからまず殺すのは、あいつらの子供から。


 そう思い、彼女は行動に移した。

 夕餉に毒を盛り、食わせて、殺した。

 苦痛の果てに死んでいった。今度(・・)こそ、確実に殺した。

 脳裏に幼い子供の死に様が過ぎる。

 その最期が幼い自分の姿と重なった。だが、直ぐに振り払う。


 こんな感情は復讐の邪魔だ。

 大切だった両親が、仲の良かった親友が、尊敬していた先生が、良くしてくれたおじさんやおばさんが。

 皆、殺された。


(やっとだよ、ママ……パパ……、やっとここまで来たよ)


 コツコツコツコツと長い廊下を歩き、その先にある『憎い者』がいる寝室へと向かう。


(仇を打つ為に、それだけのために生きてきた)

 

 そして、『仇』のいる部屋の前で止まる。


(そういえばあの惨劇の日も、こんな虫も鳴かない静寂に満ちた夜だったね)


 自身の復讐心を奮い立たせる為に彼女ーーソニア・ブレイドニールは過去の記憶を掘り起こす。






 その日はソニアの七歳の誕生日だった。


「んん、ソニアー、誕生日おめでとう」


 父の大きな手がソニアの頭を豪快に撫でて、くしゃりと人懐っこく笑う。その横では、ケーキを食卓まで運ぶ優しい母の姿。


「うん、パパ! ありがと! そにあね、これでななさいだよ」


 ふんすと胸を張り、


「もうこれで、そにあもりっぱなオトナのれでぃーだよね!」


 くすりと母は笑い、


「ふふ、そうね。もうこんなにおっきくなって……」


 父も豪放磊落(ごうほうらいらく)


「ガハハハハ、確かにおっきくなったなあ! こりゃ将来は母さんみたいに美人になるな!」


 言った。


「まあ……あなたったら」


 いきなり褒められたからか母は照れて頬をほんのり赤く染める。

 

「ママ、かおまっかだよ! パパとらぶらぶなんだね」


「らっ……、まったくこの子はもう」


 困ったように頬に触れて、


「親をからかって」


「まあまあいいじゃないか! ラブラブなのは事実なんだしよ」


 がしっと母の細い体を自分の方に寄せて、


「なあ、ソニア」


 にっと父は曇りなく笑う。それに幼いソニアは「うん!」と元気いっぱいに頷いた。


「でもいいな! そにあもらぶらぶしたい!」


「おう! いいぞ! こい」


 ソニアは父と母の間に入り込むように抱き着き、


「えへへ、そにあのとくとーせき!」


 無邪気に笑った。

 幸せな家族の形がそこにはあった。

 





 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ