Xクラスとクラスメイト
リンドは二カッと笑う。
その顔が見た目相応だなぁとか思いつつ、周りのこの状況をどうしようか考えるのだった。
というのも、制限の腕輪を外した時に漏れ出た魔力とリンドの存在に全員が驚いている。
リーンと戦っていた少女に至っては気絶していてリーンが倒れないように抱えている。
どうしようかと考えていると、少女を抱えながらリーンが、
「とりあえず全員教室に戻って。私は医務室にこの子を運ぶから、戻ってくるまで待機ね。後、クロはあとでさっきの魔力とその子について説明してもらうから」
リーンの顔は真剣そのもので、どう説明しようかと考えながら教室に戻るのだった。
教室に戻ると、金髪少女が真っ先に詰め寄ってくる。
「あなた、さっきのあれなに!?漏れ出るってレベルじゃないわよ!?」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。その前にまずは――」
「なによっ!」
グイグイ詰め寄ってくる金髪少女を引きはがしながら、
「まず自己紹介をしないか?お互いまだ名前も知らないだろ?」
そう言うと、金髪少女は「それもそうね」と言ってから
「私はサリアで、こっちの子はアリシアよ。それで、早く説明しなさいよ」
「それだけかよ。まぁいいけど……俺はクロ。腕輪のことだが、元々魔力の制御ができなくて、あれがないと勝手にマジックアイテムに魔力が流れるから無理矢理魔力を抑え込んでいたんだ」
「そうなの。確かに物凄い量の魔力だったものね。で、その子は?」
「我はリンド・ウル・ドラグリア。竜帝、エヴァン・ユル・ドラグリアの娘にしてマスター、クロの剣である!」
「だ、そうだが」
サリアはまだ疑っているようだが俺自身初対面といってもいいくらいなんだから、そんな目で見ないでほしい。
「アリシアだっけか?お前のスキルで何かわからないのか?」
ルィンがアリシアに尋ねるが、アリシアは首を横に振り、
「無理。発動しない」
「発動しない?どういうことだ?」
「私のスキルは物にのみ発動する。しないということはつまり、その剣は生きている」
どうやらアリシアのスキル、鑑定眼は生物相手には発動しないらしい。
「生きてるって……すごい魔剣だな、クロ!」
ルィンがそう言って俺の肩を叩くが、
「魔剣ではない!誇り高き竜帝の剣である!」
と少し頬を膨らませたリンドに脇腹を小突かれる。
そんなことをしていると、医務室から帰ってきたリーンに空き教室に連れていかれる。
「クロ、あなたが隠していることについて話して欲しいのだけど」
リーンの顔は真剣そのもので、それまではどうやって誤魔化そうか考えていたが、ラウルとのことや体のことについて正直に話すと、リーンは目に涙を浮かべながら俯いている。
この体を造ったのがラウルで、それにドラゴンの魔石が使われていると聞いたときは驚いていたようだが、そのラウルがこの世にはいないと聞いたとき、リーンの表情は暗くなっていった。
「そう……あの人はあなたにその体を託したのね。膨大な魔力はドラゴンの魔石を使ったからで、魔法適正もそこからきてるのね。それで、あのリンドって子のことはよく知らないと」
「そうだな。正直俺も初対面だからな。むしろこっちが聞きたいくらいだ」
リーンは俺の話を聞き終わると、ふぅ……と小さく息を吐き、
「じゃ、私もクラスのことについて話そうかしら」
そう言ったのだった。
「クロはXクラスについて、何か知ってる?」
「落ちこぼればっかを集めたクラスなんだろ?それくらいしか知らないが」
「それなんだけど、正確には違うの。クラス決めの時のカードの絵柄を覚えてる?」
「確か大鎌を持った死神だろ?なんか不吉そうな」
「そうね。その絵柄、元々はとある部隊のものなの。グリムリーパーっていう名前のね」
「絵柄そのままなんだな」
「最初は名前なんてなかったらしいわ。なんでも初代隊長の格好が死神に見えるからとか、使っていた武器が大鎌だったからとかでいつからかそう呼ばれるようになったらしいわ」
「それで、そのグリムリーパーっていうのとXクラスはどんな関係があるんだ?」
もう大体わかっていたが、一応リーンに聞く。
「Xクラスはグリムリーパーの隊員候補の優秀な人材が集まるクラスだったのよ。もっとも、今は違うんだけどね」
「違うって言っても別に悪い意味じゃないから」と、リーンは付け足す。
だが、そんな経歴のクラスがどうして落ちこぼれの集まるクラスと呼ばれるようになったのか。
疑問に思って聞いてみると、
「それはね、さっきも言ったけど今は条件が違うの。今年は実力のある訳ありの生徒がこのクラスに所属することになっているの」
「訳ありって……五人全員がか?」
「そうよ」
リーンは近くにあった机に腰掛けると、こっちにも椅子に座るように合図してきたので俺は近くにあった椅子に座り、リーンの話を聞く。
「ルィンは近接戦闘だと学院上位に入る実力の持ち主なんだけど、そもそもここは魔法学院で、光魔法以外はまともに使えないってところが理由ね。サリアは火魔法以外の適性がないの。その火魔法は学院一なんだけどね。アリシアは鑑定眼っていうスキルを持っているけど、それ以外は言っちゃ悪いけど微妙なのよね……。適正も水と土の二つだけどそこまで上手く使えるわけじゃないみたいだし」
ルィンのことは聞いていたが、サリアやアリシアのことを聞いてもしかしてと思ったことを聞いてみる。
「全員なにかに特化しているんだな」
「そうね。でもクロとリンシア――私が医務室に連れて行った子は違うの」
「俺はまぁ魔法が使えないからだろ。そのリンシアって奴はなんでなんだ?」
「リンシアはね――土属性ともう一つ、副属性の召喚魔法の使い手なの」
召喚魔法とは、魔物を呼び出しそれを使役する魔法らしい。
色々制約があるみたいだが、基本的には自分より弱い魔物しか呼べないらしい。
「召喚魔法は数百年前に一人だけいたとされるとても希少な魔法よ。希少さでいったらスキルと同じくらいね。後、クロがこのクラスになったのは魔術を使ったっていうのもあるわよ。魔術ははるか昔の魔法で、今は使われていない魔法体系だから」
そして、リーンは立ち上がってドアの方に行く。
「さ、クラスに戻るわよ。私はリンシアの様子を見てから戻るからクロは先に戻ってて」
そう言うとリーンはドアを開けて出て行ったので俺も立ち上がって教室に戻ることにした。
教室に戻ると、リンドがこちらに駆け寄って来て抱きついてくる。
「マスター!」
「どうした、リンド」
「大丈夫だったか?あのリーンとかいう女になにかされなかったか?」
リンドが心配そうにこちらの顔を見上げる。
「なにもされてないよ。ただ話しをしただけだし」
「そうなのか?ならよかったのだ。心配したのだ」
「心配してくれてありがとう。でも、そろそろ離れてくれないか?サリアがすごく怖い顔でこっちを睨んでくるんだ……」
リンドはポカンとしながらも離れてくれる。
「それで、どんな話だったんだよクロ。話せる範囲でいいからさ」
ルィンが俺にそう聞いてきたので、自分のことは伏せてこのクラスのことだけを話した。
「そうだったんだ。そのグリムリーパーっていう部隊のことは俺も知っていたが、Xクラスとの関係は全然知らなかったな」
「そのグリム……なんだっけ?まぁいいわ。ルィンは知ってるの?」
サリアはグリムリーパーについて何も知らないらしい。
サリアの隣にいるアリシアも興味があるのか持っていた本から顔を上げる。
「まぁ普通に暮らしてたら知らないのも無理はないな。グリムリーパーは王直属の特務部隊なんだ。任務成功率百パーセント、その部隊に所属している人は一人で軍隊に匹敵する強さを持ってるって言われてるぜ」
「ふぅん、ルィンは物知りなのね。どこでそれを知ったの?普通に暮らしてたらまず知らないんじゃなかったの?」
サリアがそう聞くと、
「そこは聞かないでくれるとありがたいかな。ほら、みんなにも聞かれたくないことぐらいあるだろ?クロが言った通り、ここには色々訳ありの奴が揃ってるみたいだし」
ルィンがそう言うと、サリアは申し訳なさそうに、
「そうね……、みんな色々あるみたいだし。ごめんなさい、ちょっと踏み込みすぎたわ」
サリアが謝ると、ルィンは「まぁそのうちわかると思うよ」と笑う。
その時、教室のドアがガラッと音を立てて開く。
入ってきたのはリーンと――隣に白狼を従えたリンシアだった。
リーンは教卓に立ち、リンシアは教室の隅にある机に座るとリーンが話し出す。
「もうクロから聞いているみたいだからこのクラスのことは話さないわね。もちろん、他言無用でお願いするわね。と言っても誰も信じないだろうけどね。で、みんな自己紹介とかはもうやった?まぁ模擬戦は中途半端なところで終わっちゃったけど、まぁ大体どれくらいの実力か分かったと思うわ」
「確かに大体わかったわ。でもクロとその子はまだ本気を出していないんじゃない?クロはそのリンドって剣を抜いてなかったし、そっちの子は戦い方がぎこちなかったわ。いつもはそこのワンちゃんと一緒に戦っているんじゃない?」
サリアは俺とリンシアが全力を出していないことに気付いているようだ。
リンシアの隣にいる白狼がサリアに向かって唸るのをリンシアが必死に止めようとしている。
「貴様!我が主を侮辱するとは、いい度胸だな!噛み殺してくれるっ!」
「ちょっとやめてよリエル!あの人の言う通りなんだから!」
「だが……!」
リエルと呼ばれた白狼はまだ不満があるようで、今度はリーンの方を睨んでいる。
「サリアの言う通りよ。二人はまだ全力を出していないわ。でも、それはあえて出さないように私が言ったの。戦う前にね」
リーンがそう言うと、サリアが「それ、どういうこと?」とリーンに聞くと、
「まず、模擬戦ではお互いに個人の力を見てほしかったの。リンシアは下手したらそこのリエルって言ったっけ?だけが戦う可能性があったからね。クロの場合はこれを見てほしいわ」
リーンは一つの水晶を取り出す。
それを教卓に置くと水晶が光り、黒板に映像が映し出される。
映っているのはリーンと、俺だった。
映像では試験で訓練場の真ん中の的に向かって俺が【光竜の息吹】を撃っているところが映っており、一旦映像が途切れた後、次に結界の破損具合を映していく。
サリアやアリシア、ルィンは映像に映っている結界の状況を理解したらしく、開いた口が塞がっていない。
「みんな分かったと思うけど、もしこれが当たったら訓練場の結界でも防げないの。だから今回は使わないようにしてもらったの」
さっきまでずっと唸っていたリエルですら驚きで声が出せない中、ルィンが恐る恐るといった様子で口を開く。
「クロ、あれが言ってた魔術ってやつか……?」
「そうだ。まだ二割しか威力が出てないらしいが」
「嘘でしょ……?あれで二割っていうの!?馬っ鹿じゃないの!?」
サリアが叫びルィンがまた元の驚いた表情に戻っている中、リーンが小さく笑いながら、
「これでいいかしら?さ、次は毎年恒例の学年魔法祭の話をするわね」
パンっと手を叩いた後、そう言ったのだった。
今回は長くなってしまいました。
読み辛かったらすみません。