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外道魔法使いの人造人間  作者: 落合 章
一章 ―学院編 学年魔法祭―
8/16

模擬戦

 ルィンのマチェーテを剣で受け止めた瞬間、体が飛ばされ壁に叩きつけられた。


「がはっ!」


 体を叩きつけられた衝撃で肺の中の空気が体の外へ出ていく。

 その場で蹲り咳き込んでいると、ルィンが心配そうに声をかけてくる。


「おい、大丈夫かよ?」

「げほっげほっ、うぅ……大丈夫。それにリーンも本気でやれって言ってたし、気にしないでいい」


 口から垂れた涎を拭って再度剣を構える。

 ルィンはその様子を見てニヤッと片方だけ口角を上げると、こちらに向かって走ってくる。

 先程と同じように目の前まで来ようとしてきたので今度はこちらもそれに合わせて剣を横に振る。

 ルィンはそれを体勢を低くしてかわすと、マチェーテで斬りかかってきたので後ろに跳んでそれをかわしたが、かわし切れなかったのか服が斬られている。

 それからも何回か斬りかかってきたので剣で受け止めてみたが、最初と同じように吹き飛ばされたので以降はずっとかわし続けている。

 が、そろそろ焦れてきたのかルィンのマチェーテを振るスピードがどんどん上がっていく。


(このままじゃジリ貧だな。でもこっちの剣は当たるどころかかすりもしないし、どうすれば……)


「考えている余裕は与えないぜ」


 ルィンの猛攻は激しさを増し、ついには壁際に追い込まれる。


「さ、そろそろ終わりにしようか」


 ルィンがマチェーテを構える。

 どうしようかと考えていると、不意に腰に差した杖が目に入る。


(魔法が使えたら……って爆発するんだよなぁ……。あ)


 杖を左手に持つとルィンは訳が分からないといった表情で訊ねてくる。


「クロ、お前魔法使えないんじゃなかったか?」

「ま、これには使い方があるんだよ」


 そう言いつつルィンに剣を向ける。

 

「覚悟は決まったか?いくぜ、クロ!」


 ルィンが突っ込んでくるので迎撃するために剣を横に振る。

 最初と同じようにルィンは体勢を低くしてかわし、そのまま斜め上に斬り上げようとするが、


「それを、待っていた!」


 少し横に跳びながらルィンの顔の前で杖に魔力を込める。

 魔力が込められた杖は光り輝き、予定通りに――爆発した。




 予定通り杖は爆発したが、魔力を込めすぎたのかこっちまで吹き飛ばされる。

 ルィンは急に目の前で起こった爆発に反応しきれなかったのか遠くの方で気絶している。


(なんとかなった、か……)


 ボロボロになった杖を投げ捨てて剣を腰に差すと、リーンはこちらに声をかけてくる。


「クロ、結構大きい爆発だったけど大丈夫ー?」

「ああ、俺は大丈夫だ。でもルィンがもろに食らったみたいでな」

「っぐぅあったたた……ん、あぁ、俺は大丈夫だよ。っていうか、魔法は使えないんじゃなかったのかよ」

「使えないのは本当だよ。言ってなかったけど、俺は魔法を使おうとするとああやって発動体が爆発するんだよ」

「なんだそれ、難儀な体質だな。っとクロ、手を貸してくれ。まだ爆発の衝撃が残ってるみたいだ」


 ルィンがこちらに手を伸ばしてくるのでその手を掴んで起こしてやる。

 

「そういえば、凄い力だったけどあれも魔法か?」

「そうだよ。強化系の光魔法、身体強化の【ブースト】っつう魔法さ。ぶっちゃけ基本的に戦闘で使うのはそれくらいだな」

「でも見た感じ杖とか持ってないし、どうやって――」

「ああ、それはこれだよ」

 

 ルィンの右手人差し指には指輪がはまっている。

 

「これは指輪型の魔法発動体なんだよ。まだ一般的じゃないし、値段も高いからそんなに普及してないんだよね。ちなみに作ったのはリーン先生だよ」

「でもそれ失敗作なのよね。指輪ってことで小さい魔石しか使えないから必然的に簡単な魔法しか使えないの。ってそろそろ次をやりたいから端っこの方に移動してほしいのだけれど」


 そう言われたので端に移動する。

 移動したとき、金髪の少女が話しかけてくる。


「ねぇ、ちょっといいかしら?この子が話があるって」


 少女の後ろにもう一人、銀髪の少女が隠れるように立っている。


「えっと話って何かな?」

「それ。その腕輪。なんでそんなことしてるの?」

「はぁ……えぇっと、どういうことかな?」

「制限の腕輪。効果は装備者の魔力量を約三割にする。なんでそんなものつけてるの?」


 正直驚いている。

 見ただけで腕輪の正体を見破ったのもそうだが、《識者の事典》が言っていた内容と少し違っていたことに、だ。


「どういうことだよ」

『いえ、私もなにがなんだか……もしかしたら引き出す情報に誤りがあるのかもしれません』

「使えない事典だな」

『これが完全な状態ならラウルの知識ではなく神界樹から知識を引き出せるのですが。どうやらラウルは正確に効果を覚えているわけではないようです』

「まぁそこは巻物(スクロール)で覚えたのだから仕方ないか」

「ねぇ、ちょっとさっきから何一人でブツブツ言ってるのよ」


 金髪少女に睨みつけられる。


「ご、ごめん。それで、なんでこれが制限の腕輪だってわかったんだ?」

「鑑定眼。私のスキル。どんなものでも見ただけで名前と効果を知ることができる」


 鑑定眼。

 確か《識者の事典》の元になったスキルのはずだ。


「で、なんでつけているの?」

「これはだな……、その、漏れ出る魔力を抑えてるんだよ」

『そのことですが。もうコントロールできるんじゃないんですか?』

「かもな。よし、やってみるか!」


 腕輪を外してみると前は気付かなかったが、確かに膨大な魔力を感じる。

 体から漏れ出ないように意識してみると体がキュッと引き締まるような感覚に襲われる。


『成功ですね。これで勝手にマジックアイテムが爆発する、なんてことにはなりませんね』

「凄いな。さっきまでよりも体が軽い。ってどうしたんだよみんな、そんな顔して」


 気付くと驚く、というよりも恐怖といったような表情でこちらを全員が見ている。


「あ、あんた何者よ。その魔力は一体……」

「クロ、お前……」

『他の人には少々刺激が強すぎたみたいですね。おっと剣になにか反応があるみたいですよ?』


 剣の方を見てみると、特に何も変わっていないようだが、柄を握ると今までよりも軽く感じる。

 もしかしてと思って剣を抜こうとすると、今まではビクともしなかった剣をいとも容易く鞘から引き抜いた。

 刀身は漆黒で、切っ先がなく文字か模様か、よくわからないものが彫られている。

 鞘に入っていた時からわかっていたことだが、鍔がないエクセキューショナーズソードのような見た目をしている。

 刀身を見つめて、何となく地面に剣を突き刺してみる。

 瞬間、黒い煙が剣を覆ったかと思えば徐々に大きくなり、子どもくらいの大きさになる。

 数秒間そのままだったが、やがて煙が消えていく。

 そこに剣はなく、代わりに漆黒のドレスを着たツインテールの少女がそこに立っていた。




「ふむ。よくぞ我を引き抜いた。我は竜帝剣。名をリンド・ウル・ドラグリアという。これからよろしく頼むぞ、マスター」


 目の前の少女、リンドはスカートの裾を摘まみ、上品に礼をする。

 

「お、おう……えぇと」

「リンド、でよいぞ」

「じゃあリンド。これからよろしく」


 リンドと握手をした後ふと周りを見ると、皆ぽかんとした表情で突っ立っている。

 あのリーンも模擬戦を中止してこちらを見ている。

 ルィンがみんなを代表してかどうだか知らないが、引き攣った顔で尋ねてくる。


「なぁクロ。その美少女……ていうか美幼女?誰、知り合い?」

「いやそれが俺もよくわからないんだが……」

「我は竜帝剣。別名、竜を殺す剣――竜殺剣(ドラゴンスレイヤー)であるぞ」

「って言ってるから多分さっき地面に刺した剣じゃないのか?」

「嘘、だろ……。マジか……」

「ホントだぞっほら!」


 リンドはそう言うと、煙が体を覆い次の瞬間には剣の姿に戻っていた。


『ちなみにこの姿だとマスターとしか喋れないが、マスターはどっちの姿の方が好きなのだ?私としては人の姿の方が好きなのだ。人型の方が魔力の消費量は多いのだが、どうだろうか……?』

「別に魔力の方は気にしないでいいぞ。そもそも使ってもすぐに回復するしな。ジャンジャン使えよ」


 そう言うとリンドはさっきの少女の姿に戻り、


「ありがとうなのだっ!それと、いつでもどこでも呼び出すがよい。どこにいてもすぐに応じるからな!」


 リンドは二カッと笑う。

 その顔が見た目相応だなぁとか思いつつ、周りのこの状況をどうしようか考えるのだった。


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