入学式
三日後、俺は学院の前にいた。
王立レーリシア魔法学院、それが今日から俺が通う学校の名前らしい。
入学式までまだ時間があるが、すでに大勢の生徒が集まっている。
入学式は第一訓練場で行うらしく、俺もそこへ向かって歩いている人に混じって目的地に向かう。
訓練場に着くと、入り口で何かをやっているらしく、何本か列ができている。
『この列はリーンに渡されたパンフレットに書かれていた、入学式の前にあるクラス発表の列なのでは?』
「そうかもな」
何本かある列の一つに並び、自分の番を待つ。
結構な人数が並んでいたのに意外とすぐ順番が回ってきて、机に置かれている装置の上に手を置くと一枚のカードが出てくる。
カードにはただ一つ、【X】という文字と大鎌を持った死神のようなものが描かれている。
カードを持って訓練場の中に入ると、列が五本あり先頭に立っている教師と思われる人がそれぞれA、B、C、D、Xと書かれたプラカードを持っている。
Xの列に並んでいると後ろから肩を叩かれ、振り向くと少年が一人いて、こっちに向かって話しかけてくる。
「よっ、俺はルィンって言うんだ。適正は火と風、光が使えるが光魔法の強化系以外はほとんど使えないせいでXクラスになったってわけだ。お前は?」
「俺はクロ。適正は光と闇、それに空間だっけか?魔法は使ったことがないな。っていうか、Xクラスはもしかして落ちこぼれっていうことなのか?」
「まぁそういうことだよ。クロの場合だと主属性の適正が無いからここなんだろうな。それで、魔法を使ったことがないって言ってたけど、どうやって試験を突破したんだ?」
「魔術を使ったんだよ」
「?何だそれ、聞いたことがないな」
ルィンは本当に知らないのか首を斜めに傾けている。
「まぁ一般的じゃないらしいから知らなくても無理は無いと思うが」
そう言ってやると、ルィンは特に気にしてないのか、
「そっか。なら別にいいや。っと、式が始まるみたいだぜ」
と言ってきたので俺も前を向くと、ちょうど進行役の人が前に立って話し始めたのだった。
入学式が終わり、自分たちのクラスに移動すると並んでいるときから感じていたことをルィンに聞いてみる。
「なぁルィン。なんか人数が少なくないか?他のクラスはもっと多かった気がするんだが……」
「まぁな。元々このクラスは人数が少ないんだ。そもそもこの学校に来るやつで落ちこぼれなんてそうそういないしな」
教室を見渡すと自分たちを含めて五人しかいない。
「これでも多い方らしいぜ。といってもこのクラス自体二十年振りらしいけど」
「そうなのか。ていうか、お前よく知ってるんだな」
「まぁな。気になったらトコトン調べなきゃ気がすまないクチなんだ。ついでに言うと、二十年前三人だけだったらしいぞ」
「へぇ~で、その三人についてはなにか知ってるのか?」
「それは……」
そのとき、教室のドアがガラッと音を立てて開く。
入ってきたのは見覚えのある女性で……
「私がこのクラスを担当することになったリーンよ。このクラスは落ちこぼれなんて言われてるけど、そんなの気にせずこれから頑張っていきましょう」
「あの人がその三人の内の一人、リーン・フラグリアだ。数年前までは名前すら聞かなかったけど今じゃ凄腕のマジックアイテム研究者さ。ただ最近は黒魔法の研究ばっかりやってるみたいだけど」
「へぇ~リーンって凄かったんだな。知らなかったよ」
「おま、知らなかったって、どんだけ田舎に住んでたんだよ」
「田舎っていうか……なんていうか……」
「ハイそこー、静かにしないと窓から外に放り出すからね。わかってると思うけどここ、二階だから。打ち所悪いと下が石だらけだから結構痛いわよ」
リーンの顔が、人を殺せそうなくらい怖かったので必死に謝った。
その後はリーンの自己紹介があった後、お決まりの自己紹介タイムが始まると思ったのだが、訓練場に来ていた。
「自己紹介なんてじれったいし、手っ取り早くお互いのことを分かるように今から模擬戦でもしようかなって。もう知ってると思うけど、訓練場の中では怪我はしないから遠慮なく本気出していいから。じゃあ早速二人組になって、余った人は私とやることにするわ。まぁ今日は全員としてもらう予定だから」
そう言われたのでとりあえずルィンと組むことにした。
最初は別グループがやるらしく、邪魔にならないように端に移動しようとしてリーンに止められる。
「今日の模擬戦、前使ったあの魔術は使わないように。まだ誰にも言ってないけど、あの後見たら当たった部分の結界が壊れていたの。もしあれを人に撃ったらここでもただじゃ済まないわよ」
試験で使った【光竜の息吹】はやはり威力が高すぎたようだ。
「使えないかもしれないけれど……」そう言ってリーンは試験の時と同じ杖を手渡してくるので受け取っておく。
ルィンが何を喋っていたかしつこく聞いてくるのをはぐらかしていると、模擬戦が終わったのか戦っていた二人が戻ってくる。
「じゃあ次はクロとルィンね」
こっちの番が来たようだ。
訓練場の端から中央に向かって歩き出す。
中央まで来てある程度距離を取ると、ルィンは話しかけてくる。
「お前魔法使ったことないって言ってたけど大丈夫なのか?言っておくが手加減する気はないからな」
そう言って二本ある剣のうちの一本を抜き、構える。
見た感じマチェーテみたいだが……
「もう一本は抜かないのか?」
「基本は一本で戦うって決めてるんだ。まぁこっちは予備みたいなもんだよ。そっちこそ、その腰の剣。抜かないのか?飾りってわけじゃないんだろ?」
「いや、これはだな……、まぁいいか」
剣の柄を握り、抜こうとするが一向に抜けないので鞘に入ったままで構える。
「おいおい、鞘に入ったままじゃないか。ほんとにそれでやろうっていうのか?」
「仕方ないだろ、これ抜けないんだし」
「ちょ、いやまぁお前がいいならそれでいいけど。じゃ、開始の合図はこっちで決めていいらしいし銅貨を上に投げてそれが地面に落ちたら開始でいいか?」
「それでいいぞ。じゃあやってくれ」
ルィンはポケットから銅貨を取り出して投げる。
それが地面に落ちたとき、ずっと銅貨に注意がいっていたせいか、気付くとルィンが目の前にいた。
「一撃でやられてくれるなよ?」
ルィンのマチェーテを剣で受け止めた瞬間、体が飛ばされ壁に叩きつけられた。