リーン
外に出ると、辺りは一面木に覆われていた。
地図で確認するとここはノービスの近くの【迷いの森】と呼ばれる森で、この森に入るといつの間にか入り口に戻されると言われているらしい。
《識者の事典》にノービスの方角を確認してもらい、出口までただひたすら歩く。
歩いている時にモンスターや動物といった生き物は出てこず、平和なまま出口に辿り着く。
目の前にはおそらくノービスの外壁であろう壁がそびえ立っており、少し歩くと門があり門番と思われる二人の兵士らしき人が立っている。
「ここがノービスか?」
二人のうち近かった方にそう尋ねると、聞かれた方は軽く頷く。
「中に入りたいんだが……生憎と身分を証明出来るものがないんだ。どうすればいい?」
「一応仮の身分証は発行できます。手数料として銅貨が二枚ほどいりますが」
「ああそれと、犯罪歴がないかも見ないといけないからな。ついてきてくれ、案内する」
仮ではあるが身分証を発行できると聞いてクロはもし追い返されたらどうしようかと不安になっていたこともあり安堵する。
つれてこられた部屋には机とその上に水晶と繋がっている装置がある。
おそらくその装置が身分証を発行する装置なのだろう。
兵士の一人に促されて水晶の上に手を置く。
やがて繋がっている装置が動き、一枚のカードが出てくる。
「お、それが出たってことは問題無しだな。それがあれば門の出入りは出来るが、あくまでここだけのもので、他の街には入れない。正規の身分証が作りたいなら冒険者ギルドがおすすめだな。あそこは面倒な手続きが無くてすぐに作れるからな」
「いや、冒険者になるなら確かにそうかも知れないけど、商人になるなら商人ギルドに行かないと。手続きは試験とか受けないといけないから面倒だけどこれから商売をするならこっちにしないと」
冒険者か商人か。
それよりもまずはリーンという女性に会うことが先であり、会った後も商人という選択肢は無いのだが、今はそれを言わず、二人に案内されて部屋から出て街の中に入る。
街の中は道路が石で舗装されており、建物がレンガでできていたりとクロは歴史の教科書で以前見た中世の街並みを思い出す。
地図を確認するとどうやら街の中心近くにいるらしいので《識者の事典》にルートを表示してもらいながら進んでいく。
歩いている間に門番が言っていたギルドがあったが、中を少しだけ覗いてみると思ったよりも人がおらず賑やかなものをイメージしていただけに少しだけ驚いてしまう。
少し寄り道しながらも目的地に辿り着くとそこにあったのはとても大きな建物で、門番の男に声をかけられる。
「おい、そこで何をしている」
「リーンっていうやつに会いに来たんだが、無理か?無理ならこれだけでも渡してほしいんだが」
そう言ってラウルの手紙を取り出す。
「ふむ……貴様、名前は?」
「クロだ」
「クロ、だな。ちょっと待て今確認してくる」
門番の男が建物の中に入り、かわりに別の男がこちらに来る。
「よう、リーン先生に会いに来たんだって?あの変わり者に何の用なんだ?」
「用っていうか……知り合いに会いに行けって言われてな。ところで、変わり者ってどういうことだ?」
「知らないのか?リーン先生は教師としても研究者としても優秀だが、なぜか今は闇魔法の研究ばかりやっているらしい。あとはマジックアイテムの研究もやっているみたいだが」
「今はってことは前はどんな事をやっていたんだ?」
「前か。前は確か……」
男からリーンについて話を聞いていると、建物の中から門番の男が出てくる。
「リーン先生が会うそうだ。応接室まで案内する」
案内された部屋に入るとソファーに一人の女性が座っており、こちらに気付くと立ち上がる。
「あんたがリーンか?ラウルに会いに行けって言われてな。あと手紙を持ってきた」
女性……リーンはラウルと聞いた瞬間、目を見開きこちらに詰め寄ってきたので手紙を渡す。
リーンは手紙を読み終えた後、なぜか驚いたような表情をしながらこっちに尋ねる。
「あなた……ここに書かれていることは本当なの?」
「なんのことだ?すまないが、俺はあんたに会いに行けって言われただけなんだ。それで、何が書かれていたんだ?」
クロがそう答えるとリーンは黙って下を向くが、少ししてクロの顔を見ながら告げる。
「あなたを……ドラゴンを倒せるくらいにしろって書いてあるわ。しかも……あなたラウルの息子って本当なの!?」