ファイについて(1)
「じゃあ、ファイのことを」
少しだけ悩んだ後に私が聞いたのはファイについてだった。
この世界のことを~なんて聞いたら変人だし、聖女について聞いたとしてもファイの言葉以上の事がわかるとも限らない。少し前に来たばかりの聖女についてはそもそもまだ情報が回っていないだろう。
王子様のことについては知ったところで意味が無い。
要するに消去法だった。ファイ自身に聞くという手もあるが当人に聞いても私はこの世界のことに無知すぎて何を聞けばいいかわからないし、彼は何を話せばいいかわからないだろう。
「ファイ団長?元々の知り合いならキミの方が詳しそうだけど…」
「色々とあるんですよ」
「ふぅん?」
なんだか探るような目を向けられたが笑顔で無視することにした。
私を主だと言う従者(自称)。そんな見知らぬ人には警戒心を持つべきだ。しかし私はファイを信じられると思った。
もちろん見知らぬ土地で頼るものが他にないということや養ってくれると言ったからでもあるが私自身が彼を絶対に裏切らないと思うからというのが大きい。
だからとても『従者』と言う言葉は都合の良いものだった。
しかし信じられると思う割に私は彼のことを何も知らない。
だから知りたいと思う。ファイ・エルドラドのことを。
ファイ・エルドラド。
第四騎士団団長。
実力派で頭一つ抜き出ている。使用武器は大抵何でも一通り使えるが長剣を最もよく使っているところから長剣と思われる。
魔術と剣術を上手く組み合わせて戦っているので相当頭がよいと思われる。
女関係はまっさら。
貴族の女達にモーションかけられること数あれど全てはね除けている。かといって男に興味があるわけではないようでそういった噂もない。
薬の耐性が凄いらしく睡眠薬や痺れ薬から始まり毒薬や怪しげなあれこれに対しても全く通じない。
感情があまり表情に出ていなくて考えてることがわからない。冗談を言ってるのか本気なのかわからなくて判断が難しい、というのは日和が現れてわかったこと。
「これが基本情報かな。あとは魔物討伐に関してになるけど、大抵の魔物ならば一人で、大きいものでも第四騎士団を率いていればほぼ倒してるね。流石にドラゴン相手の時は追い返す、が限界だったみたいだけど」
「ドラゴン…いるんですか……マジか」
不審に思われつつもミロはファイのことを教えてくれた。
しかしそれにしても予想以上にファンタジーだった。敵として普通にドラゴン出て来ちゃうんだ…。
私としてはいくらファンタジーでも、それこそ森の奥に住んでいて手を出さなければ~とか伝説の~とかだと思ってたよ。
「いるよ。ドラゴンは魔物ともまた違うんだけど、第四騎士団が魔物退治してるときにうっかりテリトリーに入っちゃったみたいでねー。本当に怪我人はいても全員命が助かってるのは奇跡だと思うよ」
「あ、よかった。普通にはいないんですね」
「そうだね、人に紛れてならよくいるよ」
「ぅえっ?!」
「あははっ、冗談冗談。ドラゴンが城下によくいたら大問題だよ………………でも、極々稀に、ね」
小さすぎて最後の言葉は聞こえなかったが不穏な気配は察知したので私は口を閉じておくことにした。
「ええい!毎度のことだがしっかり戦わんか!ファイ・エルドラド!!」
そうこうしているうちにグレンの方がしびれを切らしたらしく二人の戦いが始まっていた。といってもグレンの猛攻をファイが一方的に受けて、受け流すばかりだったが。
「お前も打ち込んでこい!!」
苛立つように叫ぶグレン。言葉を返さないファイ。
戦っている途中でもなお二人は正反対である。
「そしてファイ団長のことを話すのに切っても切れないのが『聖女様』だよ」
二人が戦ってるのを見つつもミロは会話を続けるようだ。
私は戦いに集中しすぎないようにミロの言葉に耳を傾けた。
◇
ファイ・エルドラドが城の門を叩いたのはまだ彼が12歳の時だった。
国の決まりで騎士見習いになれるのが14歳からだったのでてっきり14歳を待ちきれずに騎士見習いになりに来たのかと思いきや、彼は騎士見習いをすっ飛ばして騎士になりに来たという。
本来ならば騎士になるには騎士見習いになった後、年単位での時間が必要だ。身体を作ることもあるし、騎士としてのマナーも学ばなければならない。
しかしファイは国のための騎士ではなく『聖女の騎士』になりたいというのだ。そのために騎士見習いではなく騎士になりたいと。
ちなみに『聖女様の騎士』とは従者の別名である。
実は聖女様といっても初代のように五人の従者を毎回見付けられるわけではなく、『聖女の騎士』、『聖女の魔術師』の二人は初代以降は大体の世代で見つかる従者と言われている(それ故に別名がついていると思われる)。
特に、『聖女の騎士』についてはまず間違いなく見つかると言ってもいい。何故ならば、この『聖女の騎士』は城にいるからだ。
単純な力、そして能力をもつ最も強い騎士、それが『聖女の騎士』なのである。そんな強い人間を国が放って置くわけがない。
それ故に『聖女の魔術師』も城にて見つかることが多いのだが、『聖女の魔術師』は気紛れで森の奥などの秘境に住んでいるときもある。そのため見つからぬままでいることがあるのだ。
ファイ・エルドラドは城で『聖女の騎士』が選ばれると知ったのだろうと対応した騎士は思った。
それ故にまだ騎士見習いにもなれぬ身で乗り込んできたと。実際彼の住む場所から城は遠く、騎士になれぬことも騎士見習いのことも彼は知らなかったのだ、と。
「騎士にはなれない」
「騎士見習いにも、まだなれない」
「14歳になったら騎士見習いとして、また来なさい」
そう言われた彼はそれではせめて戦って欲しいと言った。
自分の力が通じないとわかれば騎士見習いになれる年まで待つと彼は言った。
騎士達は最初、頷かなかった。
しかし毎日毎日朝から晩まで雨の日も風の日も関係なく待ち続ける彼の執念に結局根負けしたのだった。
そして彼は騎士のうちの一人と戦うこととなり、
なーんて、ね。
そんな素敵で良い話では残念ながら終われないのが、ファイ・エルドラドという人間だった。
『対応した騎士』の言葉の下からはよくある素敵で良いお話です。
わかりにくくてすみません。