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落ちた先は異世界

こちらは前作短編の「聖女が二人召喚されたようなので私は聖女→ニートでお願いします」の連載版となります。

前作とはいくつか変更点もあります。

皆様の予想とは違うかもしれませんが連載版も読んで頂けると嬉しく思います。

床に穴が開いた。

ありのままを話すとそういうことになる。


帰宅後、疲れた体をソファに沈ませようと飛び込んだ先には真っ暗な穴がいつの間にか開いていて、私はそこに真っ逆さまに落っこちた。

なんというか……間抜けである。非情に間抜けである。大事なことなので二回言った。

しかしそれが事実であり、私はマンション会社に慰謝料&治療費請求と修繕費全額負担を願い出ようと落ちながら決心した。


が、落ちても落ちても地面とはぶつからなかった。すぐさま下の階に落ちて全身しこたま打ち付けて痛い目にあうことを想像してた私からしてみれば妙というか、わけがわからなかった。真っ暗な中に落ちているのはわかるのだがそれ以外がさっぱりわからない。

まさかとは思うが私………死んだ?と自らに問いかける。しかし間違いなく今日やった仕事内容も家に帰ってきた記憶も頭の中に残っていたのでそれは否定できる。……多分。

夢じゃないよね…?と頬を抓ってみれば痛かったので大丈夫だと頷く。


「ん?」


そこで私は下に小さく光が浮かび上がっていることに気が付いた。どんどんと大きくなっていく光の先は、出口に違いない。だが結構長い間落下し続けていた私からしてみればどこかに落ちたとしても「いった~い!」ですむとは到底思えなかった。

高いビルから落ちて生き残れる可能性は低いだろう。飛び降り自殺という言葉もあることだしここまで落下するのに時間がたったということはそれだけ高いところから私は落ちると考えたほうがいいだろう。

イコールで導き出せる言葉は、死、待ったなし。であった。


「うそやだちょっと待ってぇえええええええええ!!!!!」


叫んでみるが、それで重力が変わるわけもなく、私は文字通り光に向かって落ちていった。

しかし、


「ぐっ」


という押し殺したような声と、


「きゃっ」

「っと」


可愛らしい声と何かを受け止めたような声が聞こえただけでぐしゃっともべちゃっとも擬音つけがたい悲惨な音も聞こえてくることはなかった。ついでに私は誰かを下敷きにしただけで全くもって異常なし。健康体だった。


きょろりと見渡せば、そこは教会のような場所で、周りにはたくさんの白のローブを来た人間と、ステンドグラスから溢れる光が降り注ぐ中央に魔法陣のようなもの、そして何より目を引いたのは金髪碧眼のまるで王子様みたいな煌びやかな美青年にお姫様抱っこされた十代中ばくらいの茶髪茶目の美少女だった。

正に絵本の中から飛び出してきたかのような光景と言えるだろう。正直見惚れた。

そして一瞬の間ののちに上がる歓声。よくよく聞けば「聖女様~!」とか「王子様万歳~」みたいな感じだった。


ちなみに二人が魔法陣のど真ん中でステンドグラスから溢れる光を浴びているのに対して、私と私が尻に敷いた誰かさんは端っこの方にいたので近くの人以外からは全くと言っていいほど気が付かれていないようだった。

しかも近くの人も最初こそ「なんだ?こいつ」と不審そうに見られたがすぐに『聖女様』に目を向けて叫んでいる。どう考えても私は突然現れた不審者だがそんなこと今はどうでもいいと思われたらしい。


「誰…」

「あっ、ご、ごめんなさい!」


それらをぼんやりとみていると私の下敷きになった誰かさんが抗議の声を上げた。どう考えても一番最初に言うべきだった遅すぎる詫びを口にして誰かさんからどくと、彼は背中を摩りつつ起き上がった。

立ち上がってみれば私が潰していたからわからなかったが、かなり身長が高い。190センチ近いんじゃないかという高身長の男だった。ただ、その身長も猫背になっているせいかそれほど圧迫感を感じない。

髪色は明るい茶色に染めた美少女ちゃんとは違って全く染めていない私の黒髪とは正反対な、見方によって白にも見える灰色。瞳はこれまた日本から出たことない私が見たことのないような綺麗な黄金色で思わずマジマジと見つめてしまった。

少しだけ襟足よりも長い髪は男相手になんとなく色気を感じた。そんな彼も周りの人間と同じように白いローブをすっぽりとかぶった姿で、それがまた似合っている。装飾は最低限なので人によれば、というか私が着ればテルテル坊主と笑われかねないそれを着こなせているのは美形ゆえだろう。


わーわーと歓声を上げている周りの人間はもはやこちらなど見向きもしていないようだし、私も私でまるで物語のような出会いを果たしているあっちの二人も気になっていたが流石に自分が潰した人間でかつ、落ちてきた私が傷一つないのは彼が下敷きになってくれた(不本意だろうが)おかげなのでとりあえずあっちは後回しにして彼にもう一度謝った。


「大丈夫ですか?」

「…大丈夫」


男は呟くように返事をすると、何か呪文のような言葉を唱えた。同時に小さな光が彼の唇から零れ落ちて彼の身体にまとわりつく。

私の日常にはまずなかった驚きの光景に思わず声をあげたが周りの歓声にかき消されて自分の耳にもほとんど届かなかった。


「っ、と」


そして男は何故か私を片手で抱え上げた。お姫様抱っこなんて上等なものじゃなく、まるで荷物を持つかのような胴に手を回して持ち上げたのち、肩に乗せられたのである。

190センチはあろう男の肩に乗せられた私からしてみればすべてが一瞬で、何が起きたのか全く判断が付かなかった。しかしそのまま移動し始める彼に流石に抗議の声を上げた。


「え?ええっ?ちょっ、私をどこにつれてくつもりなんですか?!あ、ていうかそもそもここどこ…?皆が言ってる聖女って?王子様って?あの魔法陣みたいのは?」


いや、抗議の声というか、ただひたすらに疑問だった。ちなみに男は私のそんな質問に一切答えなかった。

そしてすたすたと器用に人を避けながら出口らしき扉へと向かう。

勿論周りの人間が全く気にしなかったわけではないが、一瞥の後美少女ちゃんと王子様に叫ぶ作業に戻っていた。


スルーしまくられた後、そう離れていない恐らく外に出るための扉の前にたどり着く。

そこには扉を守るように左右に二人の男がいた。


「ファイ団長?どこに行くんだ?つーかその子なんだ?」

「用事がある。扉を開けろ」


そのうちの一人、よくよく見ると白いローブの下に軍服のようなものを着ている髭面の40代くらいのガタイのいい手足にしっかり筋肉のついたまさに戦う男!といった風体の男が不思議そうに私とファイと呼ばれた彼に問いかけたが、彼は何を答えるわけもなくそのまま足を進める。

どう考えても彼より年上の人間にその態度はないだろうと思ったがそれはどうやらいつもの事らしく、髭面の男は疑問符を浮かばせながらも彼を止めようとはしなかった。


ちなみに私はといえばいまだに混乱しっぱなしで、その軍服の男に助けを求めることすら頭に浮かばなかった。結構いい人そうだったので思いっきり助けを求めれば助けてくれたのかもしれないのに。



でも、もしかしたら……無意識のうちに彼が最も安全だとわかっていたのかもしれない。



そうして私たちは教会のような場所から太陽の光も眩しい外へと出たのだが、まだまだ聖女様とやらと王子様とやらに対する歓声は続いていた。

あの分だと彼らの二人に対する熱は上がるばかりで当分収まることはないだろう。




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