表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そのダンジョン、無敵にして(旧)  作者: 槙村まき
第1章 それでも俺らはダンジョンに挑む
7/32

(1)始まりを告げる鐘が鳴る。

 今から数百年前。

 『ダンジョン』と呼ばれる道の地下迷宮が、世界中の至るところに現れた。

 『ダンジョン』には未知の生物が住んでおり、未知の生物は『モンスター』として恐れられていた。

 そして『ダンジョン』が出現したと同時期に、人々の体に未知なる能力が宿った。

 『それ』は、人に力を与えると共に、人の心を蝕み、体に身に余る能力は人の心を容易く破壊した。たとえば、幼い子供。子供に『それ』は強大すぎて、『それ』に取り込まれて心を失くして気が狂ってしまう子供や、『それ』により身を滅ぼし死んでしまう子供が増えてしまった。大人も例外ではない。ただ、子供の犠牲が多かったというだけのこと。

 いつしか『それ』は、悪魔の力だと云われ恐れられるようになった。

 ある時、『それ』により『天使の羽』を生やした人物が『世界』で宣言する。


「その力を恐れることなかれ。『それ』は、私たちの希望の光なのです」


 彼女は、『それ』を『天使の魔法の力』だと謳った。

 人々は光輝く四枚に羽を持つ彼女を天使(、、)と信仰し、神の使者である彼女の言葉の赴くままに、子供の持つ『天使の魔法の力』、曰く『魔力』を封印することに決定した。封印する『魔力』を持つ者は『封魔師(ふうまし)』と呼ばれた。


 『ダンジョン』がどういうところか、探求心を駆られた研究者や冒険家、闘争心に駆られた『ハンター』が『ダンジョン』に挑んだ。

 『モンスター』を解剖し、未知の生物の謎を解明しようとする者。

 『モンスター』を倒し、迷宮を攻略して謎を解明しようとする者。

 『モンスター』を殺し、ただただ人よりも優れた力を求める者。

 幾多の思いから、人々は『ダンジョン』に潜り、命を散らすものも後を絶たなかった。


 曰く、『ダンジョン』は最高五層からなっている。

 曰く、『ダンジョン』に巣くう『モンスター』はダンジョンの周りに自然に発生している結界により、外界に出てくることができない。

 曰く、『ダンジョン』、そこはこことは違う異世界にある。

 曰く、『ダンジョン』に巣くう『モンスター』をいくら倒したところで、一日もすれば再生して復活する。そしてそれをまた倒すことにより、我々は力を得るのだ。

 曰く、『ダンジョン』の最下層には、『天使』からの授かりモノがある。それを持ち帰り、私たちは富を築くのだ。


 「哀れだ」といったのは誰だったのか。

 人は、自分の都合の良い言葉しか受け取れない生き物だ。だから彼らにその言葉は届かなかった。


 いつしか『ダンジョン』は、そこに巣くう『モンスター』の力によりレベル付けがされた。

 最高レベルは無限大。

 最低レベルは、ゼロ。

 日本に、そのレベルゼロのダンジョンは存在する。

 否、存在した。

 『はじまりのダンジョン』と呼ばれていたそこは、ある日を境にレベルが逆転したのだ。


 曰く、『無敵のダンジョン』――――と。


 『天魔力学園』。

 『魔力』に打ち勝ったもののみ通うことが許された学校であるそこで。

 入学後、初の実習でモンスターがいないとされる『はじまりのダンジョン』に、その年の『一年三組』が挑んだ時のこと

 バケモノ(、、、、)が現れた。

 バケモノは『一年三組』の生徒、四十人中三十六人を食べ、教師を食べ、生き残った生徒の心に恐怖と怒りを刻みつけた。


 生き残った生徒四人と、病欠で欠席していた一人の生徒は、それでも『ダンジョン』に挑む。

 それぞれの思いを抱え、バラバラの気持ちを一つにして、彼らが望むモノに向かい。

 ――――たとえ、――を失ったとしても。



● ● ●



 遠くで予鈴が鳴る。

 冬田郁兎は、目を力いっぱい閉じて現実逃避していた。

(逃げたい。今すぐここから逃げ出したい。こんな惨めな思いなんてしたくない)

 けれど、目を逸らすことはできない。これは現実なのだから。

 だから彼は、薄っすらと瞼を開き現実に目を向けてみた。

 郁兎は電子『カード』を持っている。

 一学期期末試験により、ランク付けされた自分の成績。またはレベル。

 郁兎はとりあえず自分の『カード』を極力見ないようにして、他の四人の『カード』に目をやった。


 伊納夏樹(いのうなつき)――『レベル4』

 秋村奈央(あきむらなお)――『レベル6』

 神橋静春(かんばししずはる)――『レベル10』

 白鳥悠菜(しらとりゆうな)――『レベル8』

 そして、冬田郁兎(ふゆたいくと)――『レベル5』


(うん。俺よえぇ)

 そして慟哭するかのように天井を仰ぐ。

(俺は嫌だって言ったんだ。こんなの見せあったって、俺が惨めな思いをするだけじゃないか。それなのに静春が)

 頭を抱えたくなるが、平静を装うふりをして自粛する。

 そんなことして仲間に弱いところを見せるのは嫌だ。郁兎は、誰よりも力を望んでいるのだから。

 それでも気持ちに反して言葉は勝手に出てくるものだ。

「だめだ、こりゃ」

 郁兎は思わず本心からのため息をこぼしていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ