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そのダンジョン、無敵にして(旧)  作者: 槙村まき
第0章 彼らの嘆きをきいてくれ
6/32

⑤白鳥悠菜と志津馬剛の場合。

 モンスターて見たことある?

 私はないのです。

 バケモノも、死体も。

 なにひとつ見たことないのです

 それは私がまだダンジョンに挑んでいないから。

 彼らは心の声を聞かせてくれません。だから私には何もわからないのです。

 私にできることって言ったら、ただ笑顔を浮かべていることだけ。

 彼らが楽しくなるように、笑みを浮かべるだけ。

 だけどどうしてなのでしょうか? 

 彼は元気に笑ってくれるのに、他の三人は笑ってくれないのです。

 クラスメイトがほとんどいなくなる。それを目の前で見たから、辛い思いをしたから、なのでしょうか?

 目の前で見たわけではない私にはよくわかりませんが、それでも人を失う悲しさは知っています。わかっています。

 私は昔から病弱で、『はじまりのダンジョン』に挑むときも、肺炎で入院していました。真っ白な病室で、絵本を読んでいたのです。

 ペラ、ペラ、と本を捲りながら、窓から入ってくる風になびく髪の毛を押さえつけていたとき、時間はちょうど私のクラス『一年三組』がダンジョンに挑む時間でした。

 大丈夫かな、心配かな、そう思いながら窓の外を見ようとしたとき、眠気に誘われて私はいつの間にか夢の世界にいました。

 次の日。私は聞かされました。

 クラスメイト四十人のうち、三十六人が死んだ――と。

 その時私はどう思ったのでしょうか。あまりにも衝撃的過ぎて、私はどうしたらいいのかわからなくなり、学園の先生が部屋から出て行ったあと布団に顔を押し付けて泣きました。

 喪失感を覚えたからです。

 クラスメイトとは一度顔を合わせただけで、そのあとずっと寝込んでいたから名前とかよく覚えていません。

 けれど喪失感はありました。

 私の知らないところでクラスメイトがほとんどいなくなる。

 その喪失感と恐怖を、どうやって伝えればいいのでしょうか。

 次こそは、私もあなたたちと一緒に、ダンジョンに入りたいのです。

 私の力は役に立つから。



● ● ●



 あの日、生徒と共に、俺の娘は死んだ。

 まだ教師になったばかりで、これからを楽しみにしていた娘は、誰も死ぬはずのなかった『はじまりのダンジョン』に生徒ともに挑んだとき、そこで死んだのだ。

 娘の死体は見ていない。他の生徒の親とかもそうだろう。

 ダンジョンに現れたバケモノは、汚い細やかな残骸を残しただけで、地下の奥底に戻って行ったのだ。

 あの後、無謀な挑戦者がダンジョンに挑んだものの、やはり死体は家族のもとに帰ってこなかったらしい。

 今だから思う。

 抱きしめていればよかった。

 娘が中学に上がったあたりから、俺は娘がねだってくる抱擁を無視していた。もう中学生なのだから、と。子供じゃないのだから、親に甘えるな、とそんな冷たい言葉をかけたのを思い出す。

 あれから娘に指先すら触れていない。

 反抗期になった娘を叱ったときでさえ、振り上げた手が娘に触れることなんてなかったのに。

 そのまま娘はバケモノのお腹の中に入ってしまった。

 もう帰ってくることはない。

 『一年三組』。娘が担当していたクラス。

 俺は、娘の代わりに今そのクラスの担任をしている。

 残った五人の生徒と共に、力を磨いている。

 そういえば、クラスに一人、とても危ないやつがいたな。

 あいつはあまりにも無鉄砲で猪突猛進な性格をしているから、本当に手がかかる。

 強くなりたいと、その思いばかりが強いから、危なっかしくって仕方がない。

 無口なやつもいるな。あいつは頭の回転が速いからリーダーに向いているとは思うが、今のままでは無理だろう。小心者すぎる。

 やけに笑顔を浮かべているやつもいる。あいつは幼い頃から武道を叩きこまれているから、今一番強いだろう。

 いつもムスッとした顔のやつもいる。見た目は派手だが、結構繊細な動きができるから、一番魔力を扱うのがうまいだろう。

 そしてあと一人、ダンジョンに挑んだ時に、一人だけ風邪で寝込んでいたやつもいたな。あいつの能力は貴重だから、これからみんなの約に立つだろう。皆が認めればだけどな。

 正直ちぐはぐで、チームワークすらあるのか定かではないが、まだ学園生活はこれからだ。

 娘の代わりに俺が、お前らの面倒を見てやるよ。


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