表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
そのダンジョン、無敵にして(旧)  作者: 槙村まき
第0章 彼らの嘆きをきいてくれ
5/32

④神橋静春の場合。

 貴方は本心から笑うことができる?

 心の底からの笑顔を浮かべられる?

 私はできなくなってしまったの。

 今では『無敵』といわれているけれど、まだ『はじまり』だったダンジョンに入った時に、私の目の前で親友が死んじゃったから。

 顔を引き裂かれて、バラパラピチャ、といろいろ飛び散って、彼女はバケモノの大きな口に飲み込まれて死んでしまったの。

 どうしてなのかしら。どうして私を庇って、死んじゃうのかしら。

 とても滑稽ね。そんなこと、本心から思ってないけれど。

 でもあえて言うなら。そうね。私はこの気持ちを隠さなきゃいけない。

 彼女の代わりに自分が死んでいればよかった、なんてさすがに寒気がするけれど、でも彼のそう思う気持ちも分かるから。

 彼は本当に彼女のことが好きだったのね。

 私を庇って死んでしまった彼女のことを、本心から愛していたのね。

 羨ましくない、なんて言ったらウソになるけど、そのまっすぐな思いに嫉妬してしまうのよ。

 私も彼女のことが好きだったわ。

 昔から私は、家の都合の良いように振舞うように躾られていたから、親友なんてもとより友達も少なかった――いいえ、いなかったの。

 でも彼女は中学に上がった時に、一番に話かけてくれた。

 黒髪綺麗だね。瞳もキラキラしてる。お姫様みたい。

 何こいつ、って思ったわ。

 いきなりだったもの。挨拶もしないで失礼な人だった。

 でも今にして思えば、それはしょうがないのかもしれない。彼女は誰とでも気軽に仲良くなろうとしていたから。危険な人とかそんなものを区別できなかったから。

 だから私は彼女の親友になったの。彼女は無鉄砲だったものだから、傍で見てあげる相手がいないのと不安だったのよ。そこらへん、あいつに似ているかしら。

 彼女は私を庇って死んだ。魔力を使おうとしたみたいだけど、無駄だった。

 彼女は呆気なく私の目の前で笑みを引き攣らせたままバケモノに食べられた。

 どうしたらいいかなんてわからなかったわ。あいつに腕を引かれているのに、遅れて気がついたぐらい、頭が回っていなかったものだから。

 それにしてもあいつ、自分のことを棚に上げて人のこと心配しすぎなのよ。あんたか一番壊れているくせに。そんなところ、彼女に似ているのかしら。

 だけど、やっぱり私が一番壊れているのかもしれない。笑みを失くした彼女よりも、好きな人を失くした彼よりも、強くなることしか考えていない彼よりも、本心からじゃない笑みを浮かべることができる私が。

 心の底から笑おうとしなくても、笑みは浮かべるみたいね。鏡の前で今の自分の笑みを見たとき、寒気がしたわ。心はこんなにも寂れているのに、どうして鏡の中のこいつは笑っているの? てね。

 でも私は笑わなくっちゃいけない。

 笑わなくちゃ駄目なのよ。

 彼女のことが好きだった彼のためにも。

 だって私以外の人がこれ以上壊れるの、見てられないものね。

 だから私は笑う。

 彼のために。

 彼女と同じ笑みをね。

 今日も元気に、「おはよう!」って、キャラじゃないけれど。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ