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誰も知らない。  作者: キタガワミサ
18/19

また、生まれる…!

退社に追い込むほどの鬱地獄に突き落とした、同僚の木下友美の元彼、羽柴マサキと男女の関係がスタートし、未来が明るくなったかに思えた。

しかし、DVで金にだらしない別れたはずのオトコ、ヒロヤに囚われ、自分に好意を寄せている同僚男、高橋をも虜にしようと揺れ動く、柏木眞弓の前に、退社したはずの木下友美が現れた!

上階のフロアを見つめる、木下友美のオンナの威圧感というのか、目に見えない異様な力に、立ちくらみを起こしクラクラした。


「い、…いつわかったの⁇」


絞り出すような自分の声。


化粧ポーチ事件の追求でなかった安堵感よりも、まさかの妊娠報告。


驚きすぎて、別の自分が失笑してしまいそうになった。


「少し前」


以前のような彼女ではない。


顔付きもそうだが、服装も、近所に買い物に出かける主婦のような、地味目のいでたち。


「私の番号とか、ブロックしてるみたいなの。家にも行けなくて。だからマサキは、まだ何も知らないの」


木下友美は、うつむき、ため息混じりに小さく言った。


(こんな話、誰かに聴かれたら困るわ!)


とっさに、自分の背後に誰か居ないか振り返った。


妊娠…そうなると、2人が別れたスグくらいだろうか。


もし本当なら、安定期に入るか入らないかくらいか…⁈


「病院に行ったの?」


木下友美の空想であってほしい、と思っているのだろう、自分から出た言葉は、ご懐妊おめでとう、なんて温かい波動は、少しも出ていない。


木下友美は、私のその言葉を聴くと、目を合わせた。


冷ややかにも見えた瞳に、一瞬ドキリとした。


「病院に行ったわけではないの」


木下友美は、そういうと床に視線を落とした。


(やっぱり!空想だったんだ!)


羽柴マサキを奪われずに済む、という安堵感で、胸が熱くなった。


万が一、ここで、自分の子供が出来た、などと判ったら、その義務感から、人生を木下友美と歩むと決断するかもしれない。


(奪われたくない!)


全身の筋肉が硬直した。


今はもう話している時間が無い。


絶対に、此処に羽柴マサキを呼び出すわけにはいかない。


会わせたくない!




「木下さん…」



頭の中で、たくさんの引出しが開いた。


ありとあらゆる『良くない作戦』が飛び交う。



ひとまず、木下友美を違う場所で待たせる事にする。


その間に、考えをまとめるしかない。



妊娠の体を気遣う友人、を演じ、一緒にエレベーターに乗り込み、一階に降りると、『ランチタイムに来るから』と、ビルの外のカフェで、待つように指示した。


トボトボと歩いていく木下友美。


後ろ姿が見えなくなるのを確認し、すぐフロアへ戻った。


木下友美は、想像以上に憔悴していた。


数ヶ月前の、キラキラしていた面影は無かった。


結婚するとばかり思っていた彼氏に振られ、それも、何者かに自分の化粧ポーチを荒らされ、人間不信、鬱病になり退社…。


きっとかなり取り乱しただろう。


傷ついただろう。



しかし、怖いのは、これを知っても、木下友美に同情さえしてない自分だ。


私の恋愛遍歴を馬鹿にしたバチだ。


これくらいのダメージは、あって当然だ。


元々、自分とは違う木下友美が大嫌いだったのだ。


小気味良い。





何事も無かったように席に着いた。


誰にも気付かれてないみたいだ。


高橋も私の不在に気付いてないようだ。


誰一人、木下友美の話をしてこないのは助かった。



当たり前の日常のように、仕事にとりかかる。


(3時間ちょいか…)


引出しを引いた。



引出しの中で、携帯電話が、通知を知らせていた。


羽柴マサキと、高橋からメールが届いていた。



『おはよう眞弓。今夜空いてるかな』


『お疲れ様です。眠くないですか。高橋』



2人からのメール。


2通の文章。


読み込む自分のパッションが、全然違う。


(マサキ! 今、私がどんな気持ちで、貴方の事を想っているかわかる⁈ )


声にして伝えたい気持ちの分だけ、強く携帯電話を握りしめていた。


一人の男性に、こういう愛しさが込み上げてくるのを、充分感じた。


オンナの自分で感じた。


こんな感覚は初めてだった。


(良かった!一夜限りにならずに済む!)


恋愛下手な私には、今マサキの存在は初体験みたいなモノだ。



余韻に浸っている場合ではない。


今夜から、本格的に、バタフライへ仕事に行かなければならないのだ。


(早くお金を貯めて、辞めればいい。そうすれば、マサキに話さなくて済む)


純真可憐なオンナだと思われたい、女心だ。



(それより、木下友美をどうするか…)



オンナは、つくづく恐ろしい生き物だと思う。


すぐさま、悪魔の自分に切り替えられる。



『マサキ。嬉しい。今夜はダメだけど、明日の土曜は空いてます』


返信し、引出しをソッと閉じた。


(あ!高橋にも返信しなきゃ)


『昨夜はありがとう』


そんな事は思ってないが、ひとまず、それだけ書いて返信した。



今は木下友美を片付ける事。


色々な作戦が、頭の中を、入れ替わり立ち替わりし、仕事が手につかない。



木下友美にマサキを奪られるわけにはいかない。


絶対に。






店内を見回した。


木下友美が居ない!


(嘘でしょ⁈ まさかマサキに逢いに行ってしまった⁈)


身体が小さく震えた。


「柏木さん」


背後から木下友美が覗き込んだ。


「ごめんなさい! 来る前に、って思って、トイレに行ってたの。早く来てくれたのね」


微笑む木下友美を見て、胸を撫で下ろした。


周りに気付かれないように、早目に出たのだ。



「木下さん、彼に、…もう彼ではないのよね。こんな話をして、どうするつもり?」


もう付き合ってないのだ。


どういうつもりか、まずそれを知りたかった。


木下友美は、視線をカップから外し、恐ろしい事を言い放った。


「例え妊娠してなくても…」


「してなくても?」


「マサキを取り戻す」


木下友美は、強い眼差しで私をジッと見つめた…!



『ブクッブクッ…』


私の中の、一番汚い自分が、又、生まれた…!


(木下友美をどうにかしないといけない!)


これが、もしかしたら『殺意』というヤツなのかもしれない…!





…続く‼︎





絶対に奪われるわけにはいかない!

悪魔の眞弓が又生まれてしまった!

妊娠をネタに元彼を取り戻そうとする木下友美を一体どうするのだろうか…⁈

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