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誰も知らない。  作者: キタガワミサ
17/19

不愉快な存在

地味で目立たない普通のオンナから変貌を遂げた眞弓。

以前ならあり得ない「オトコ達との駆け引き」も板について来たこの頃。

昔の自分に引き戻されそうになりながらも、皆んなが真底に持っている気持ちに揺れ動く眞弓に注目です。


あなたにとって「不愉快な存在」は誰ですか?


(コイツから、いくら引っ張れるだろう…いくら…)


ヒロヤから受けた仕打ちは、仕打ちではなくて、不器用な愛情表現。


孤独な私にとってそれは安定剤なのか…?


そうであってはいけないが、ヒロヤはまだ自分を必要としているのではないか、と思ってしまう。


(ヒロヤはお金が必要なのか…)


お金が要るなら作らなければいけない、などという母性のような気持ちが、また芽生えたりした。



店内は、女性客の楽しそうな声や、カウンター内のグラスのカチャカチャが気持ちよくBGMになっている。


かろうじて、同じテーブルにいる者同士の会話が聞こえる程度に、小さく音楽も流れていた。



少し時間が経ち、それに気付いた。


それまでずっと、頭の中で反響している、もう一人の自分の声が占めていたのだ。


高橋は、溶けた氷でカサが増したアイスコーヒーを、ちびちび口にしている。


緊張しているのか?私を見る気配はない。


話題がないのか、気が回らないのか、この、会話のない時間が、苦にならない事が信じられない。


(マサキなら違う、きっとドキドキさせてくれているはずだ)


まださっきの出来事だ。


マサキと過ごした甘い時間、蘇るほどに覚えている。


肌の感触を覚えてる自分には、目の前の高橋がただただ情けなく映った。


小さく溜息も出るが、鼻で「フン」と息を出したくなるような、小馬鹿に見下した感じになった。


この短時間に、感情があちこち飛んだせいか、二杯目のワインも軽く飲み干してしまった。


テーブルにグラスを置くと同時に、


「帰りましょうか」


高橋は、ぎこちなく言った。


「…そうね」


ワインの、高いアルコール度数に勢いがつき、もう一杯呑んでしまいたい衝動があったが、もう深夜だ。



引っ張られた頭皮がズキンと痛む。


思い出したかのように、なんとなく、締められた首に手が行く。



もちろん怖かったが、それよりも情けなかった。


初めての抵抗は、ヒロヤの怒りを、更に買った気がしている。


でも、もう昔の私じゃない、と少しは感じたのではないだろうか。


暗く地味、いるかいないかわからない、今、目の前にいる、高橋のような私には、映ってなかったはずだ。


都会に馴染んだファッション、クルクルと巻かれフワフワとした髪、甘い香り…。


それなのに、ヒロヤは、まだ昔の私と同じ扱いをしたのだ。


結局は、お金を無心しに来たのだ。


情けないより、悔しかった。


マサキとの、淡い出来事を描いたステンドグラスが、ハンマーで割られ、ガラガラと崩れてしまうような気さえした。



私の何も知らず、高橋は近寄ってきた。


ただ、見た目がタイプに変わった私に、興味を持っただけではないか。


結局コイツも、ありふれたオトコだ。



高橋が会計を済ませている間に、そんな事を考え、店外へ出た。


吐く息が、白く舞って消える。


街の明るさで、頭上の星はほとんど見えない。


冷たい空気が、ほろ酔いの頬を、ほどよく冷やした。


店を出て来た高橋と、パーキングに向かい歩いた。


「ごちそうさま」


「あ、はい」


高橋は、それだけ言うと、早足で歩き出した。


停めた車の駐車番号を確認し、精算機に、札と小銭を投入した。


この時間は、また一段と、ぐっと冷える。


見上げてみたが、やはり、星は見えない。


車に乗り込むと、シートも冷たくなっていた。


「明日、大丈夫?」


「僕より、柏木さん大丈夫ですか?」


深夜に来てしまって済みません、的な言い方に、少し、人の好さが垣間見えた。


「1日くらい、寝なくても、死にやしないわ」


「それは、そうですよね」


高橋はホッとしたのか、やっと笑顔を見せた。



高橋に悪気はない。


私を心配して車を走らせて来た、ただのお人好しだ。


頭では、そんな事はわかってはいるが、今の自分は、自分の身をいかに守るか、しか考えていない、自己中心的な薄汚い人間だった。



「それじゃあ、また明日宜しくお願いします」


高橋は私を降ろすと、軽く会釈して、車を帰路に向かわせた。


高橋の車のテールランプを見送り、エレベーターのボタンを押した途端、とてつもない脱力感が襲った…。




さすがに今朝は瞼が重い。


私だけではなく、高橋も同じはずだが、そこに心配は全く行かなかった。



今日、マサキに会ったら、どう接したら良いのだろう。


勢いづいて呑んだ結果だ、『成り行きだった』などと言われたらどうしようか…。


今は、オンナの部分が疼き、ヒロヤから暴力を受けた事は、軽く流せてしまえている。



いつもなら、フロアに上がるとほとんど人が居ないはずだが、今朝は、少し遅めの出勤のせいで、大体のメンツが仕事の準備に取り掛かっていた。


高橋も、もう席に着いて、書類をまとめていた。


部屋に入って来た私に気付き、小さく頭を下げた。


仕事ぶりは、真面目な高橋。


大きなミスを聞いた事も、社内での揉め事なども一切ない。


何も考えないなら、高橋のような透明人間と、生きて行くのは、平凡で良いのだろうが…。


ノートパソコンを開き、引き出しから、お気に入りの文房具を出そうとした時、


「柏木さん」


ふいに後ろから、聞き慣れた声が呼んだ。


ハッとした。


聞き間違いか?と思うくらいに、微かな呼び声。


あまり良い感触ではない。


背後にいるのが誰なのか、記憶の糸が、頭の中で、絡み合い、引っ張り合いをし始めた。


「柏木さん」


間違いではない、もう一度呼ばれ、振り向くしかなかった。


振り向き、全身が凍りついた。


1ヶ月前に辞めた木下友美だった。


一瞬、息が止まり、自分の心臓が、ドクンと大きく鼓動した。


血の気のない顔、以前の華やかな木下友美とはまるで違う、見るからに病的な表情で、扉から少しだけ顔を覗かせていた。


目が合うと、スッと消え、他には気付かれたくないというのが明らかだった。


周りを見渡したが、朝の慌ただしい時間帯だ、もちろん誰も気付いていない。


席から、木下友美が呼んだ場所まで、たかが2メートル。


頭の中で色々な推測が急ピッチで働いた。


辞めた会社にわざわざ来る、そこで私を呼ぶ…理由はなんだ⁈


立ち上がり、彼女の元に行くまでは数秒だろう、しかし、頭の中の推測スピードと反比例して、体は硬直して動きが悪い。


心臓がいつもより膨張しているのか、社服の下で、大きく波打つのがわかる気がした。


トイレ付近の監視カメラを解析したのか⁈


そこで私が怪しいと言いに来たのだろうか…。


それとも、マサキと過ごした事を知り、文句があるのだろうか。


廊下に出ると、人の行き来がない非常階段扉の近くに、痩せ細ったシルエットの木下友美が見えた。


外の眩しさで逆光になり、どんな顔をしているかまでは知り得ない。


木下友美まで数メートル。


右、左、右…と歩くスピードより、心臓のバクバクの方が速い。


木下友美に近付きながら、正直、このままいつまでも辿り着かなきゃ良いのにと思った。



「柏木さん、呼び出してごめんなさい」


弱々しい声を出し頭を下げると、木下友美は虚ろな目で私を見て、静かに話し始めた。


「急に辞めてごめんなさいね、私、鬱病と診断されてしまって」


それなら尚更、何を言い出すか油断が出来ない。


「柏木さんにお願いがあって来たの」


「うん」


私から視線を外し、私の背後を見た後、また視線を戻し、深呼吸した。


「妊娠してるの」


「え⁈」


「柏木さん、彼を呼び出してほしいの。彼と連絡が全く取れなくて…」


(妊娠⁈ マサキの子を⁈)


想像していなかった強烈な告白に、グラリと目眩が襲い、倒れそうになった。


木下友美はそんな私の心情など知る由もない。


愛したオトコの子を身籠もるオンナの強さの表れか、マサキが居る上のフロアの天井を見つめる木下友美がさっきより大きく見えた…!






まだまだ続きます‼︎







昔のオトコにDVを受け、受けた痛み=自分は必要とされている、とまだ深層心理で安堵してしまう眞弓。

マサキをきっかけに脱しようとしていたが、辞めた同僚の木下友美がマサキの子を妊娠したと告白してきた。

このままマサキを奪われてしまうのか⁈


次号はメチャクチャになる予感‼︎


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