#9
三人でのコーヒーを飲みながらの会話はとても楽しく、時間は過ぎていくという当たり前のことさえ忘れるくらいだった。こうしてみんなと話してると一気に気分も明るくなる。これが「友達」というものなのだろうか?思い返せば学生時代を通じてあまり「友達」というものを意識したことがなかった。もちろん仲の良いクラスメイトくらいはいた。でも、卒業した途端、彼らとは連絡をとらなくなった。それにしても今、目の前にいる憶平さんというのはとても博識ある人物だ。私の知らないことを知っている。これが知識というものだろう。
「楽倉さんもう一杯コーヒー飲む?」
「いえ、もう大丈夫です。今日はご馳走になりました。それに夕食まで作っていただき本当にありがとうございます。そろそろ帰ろうと思います」
「そんな夕食っていったってサンドイッチとスパゲッティだよ。すぐ作れるからまた食べに来てよ」
憶平さんは相変わらずラフな感じて俺にそう言った。もしかしてこの軽い雰囲気も彼なりの俺への配慮なのだろうか。
「あっ!景君まだ帰らないで。状況をいったん整理しようよ。今後のこととかちゃんと決めないと」
渚さんが俺の袖を引っ張りながらそう言う。そう言えばたしかにそうだ。俺は今後のこととかちゃんと考えてなかった。
「とりあえず景君は私との記憶を思い出していない。でも、奥津山に登った時の事故で記憶を失ったことは私との会話で知った。そしてここからが重要!さっきの海辺から見える無人島にあなたは何かを埋めた」
理路整然とした様子で彼女は話を続ける。
「それでね、私気がついたんだけどあなたが事故で記憶を失ったのは、その無人島に何かを埋めた次の日だったの」
「えっそうなんですか?」
「ええ、間違いないわ。その日の朝、あなたから電話があったから。奥津山に登った後、無人島に行こうって」
無人島…。そして、私が埋めたもの。とても気になる。あの島には何か私が記憶を取り戻すような衝撃的なものが眠っているのかもしれない。
「景君、行こう?無人島に」
「そうだね。きっとあの島に行けば何かわかる」
その時、まるで見えなかった解決の光がその時、うっすらとではあるが見えた気がした。
「ちょ…。ちょっと待ってよ!二人とも。僕も協力させてよ。無人島へ行くボートなら僕のを使ってもいいよ!その変わりまたみんなでコーヒー飲もうね」
私と渚さんの会話を静かに聞いていた憶平さんがふと立ち上がり大きな声でそう言った。
「あっ…。ありがとうございます」
私は素直に憶平さんの好意に甘えることにした。
こうして、気さくな憶平さんにも助けられて次の週末、私達は「無人島」へと行くことになった。