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#8

「楽倉さん思い出しましたか?渚さんのこと?」

 瞑想の世界にいる私に憶平さんがそう問いかける。

 催眠術の施術を受けてから30分ほどが経った。受けている内にとても不思議な気持ちになった。それと共に心がリラックスし今自分が感じている「不安」から開放されたような気がした。そして、いくつか思い出したことがある。それは海辺から見える無人島に「何かを埋めた」ということだ。薄暗闇の中、私はプラスチックケースの箱をスコップを使って埋めている。

 この脳裏に浮かんだイメージはなんだろうか?

 私は無人島に何を埋めたのだろうか?

 そこまでは思い出せなかった。そして、彼女と過ごした時間の数々も…。


「憶平さん、ダメです。とてもリラックスした気持ちにはなったんですが、彼女のことは思い出すことができませんでした」

 この時、私はあえて無人島のことは話さなかった。なんだか教えてはいけないような気がしたからだ。別に何か深い意味があるわけではない。

 ただ、なんとなくだ。


「そうですか。奥津山に二人で登ったことは?」


「はい、登ったという微かな実感はあるのですが、そこで何があったかまでは。憶平さん、私は彼女を助けるために山裾から転げ落ちたんですよね?」


「そうです。あの時、珍しい花を見つけた音詠さんはその花に手を伸ばした。そこで運悪く足を踏み外してしまい落ちかけた所をあなたが助けて変わりに落ちた」

 憶平さんは淡々とした様子で私にそう言う。言われてみればたしかにそうなのかもしれない。辻褄もしっかり合う。

 しかし、私はまだ大切なことを忘れてるような気がする。


「景君何か新しいこと思い出した?」

 台所でお茶を入れてた渚がそう言いながら部屋に入ってきた。大きな屋敷ということもあり移動だけでも大変そうな様子だった。


「うん、リラックスはできたけど新しいことはうまく思い出せなかったよ」


「無人島のこととか思い出した?」


「無人島?えっ?なんでその事を?」

 渚からの問いに私はビクッとなった。どうやら彼女も無人島のことを知ってるようだ。でも、私が思い出した空間に彼女の姿はなかった。


「渚さんどうして無人島のことを知ってるんですか?」


「あら、無人島のこと何か思い出したの?」


「はい、島内のどこかにスコップで何かを埋めました」


「それでその場所は?」

 急に彼女は身を乗り出して私にそう言った。


「それが…。そこは思い出せないのです。プラスチックの箱を埋めたとしか…」


「そう…」

 満開の花が突然しぼんだかのように彼女は一言そう言った。それにしてもなんなのだ?無人島に私は何を埋めたのだ?


「教えてください!渚さん、私は無人島に何を埋めたんです?」


「ごめんなさい。何を埋めたかまでは私知らないの。でも私に見せたいものってあなた言ってたから…。探そうにもどこら辺かがわからないの」


「無人島」

 この言葉が私の喉に引っ掛かった魚の骨のように心の中にしこりとして残った。


「まぁまぁ二人とも。少し話題を変えてみようよ?あまり一気に深く思い出すことは心理学上良くない。ほら、元気よくホットコーヒーでも飲もうよ!」


 二人の会話を静かに聞いていた憶平さんがいきなり立ち上がりそう言った。


 なんだか私達の夜は長くなりそうだ。

 でも、こうしてみんなで話す瞬間、瞬間が内心とても嬉しかった。


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