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#6

 記憶とはなんだろう。自分の生きてきた証?それとも頭の中に漠然とあるただのイメージ?ある意味どれも正解なのかもしれない。記憶の中で輝く日々の数々はある時は自分を癒し、ある時は自分を勇気づける。そうして私達は限りある時間を大切にしながら毎日を生きていくのだろう。

 奥津山。彼女が発したその一言が私の記憶の中に眠るある一場面を呼び覚ました。この情景はいったいなんだろう。春の暖かい日差し。そして、山頂と見られる場所で仲良く手を繋ぎ微笑む二人。一人は私。そして、もう一人は彼女、音詠渚であった。まるで写真を1枚1枚めくるかのようにその光景が私の脳裏によみがえる。

 やはり私は彼女のことを知っている。そのことが疑惑から確信に変わった瞬間であった。


「音詠さん、俺やっぱりあなたのことを知ってるのかもしれません。奥津山、俺知ってるような気がします」


「それじゃあ私のこと思い出してくれた?」


「いえ、すいません。完全に思い出した訳ではないのです」


「そうなんだ」

 ため息を大きくついた後、彼女は私にそう言った。寂しそうな彼女の横顔は見ているだけで私の心を痛める。それにしても俺はどこからどこまでの記憶を失っているのだ。俺の記憶の中で今のところ失ってると思われるのは「音詠渚」のことだけなのだ。彼女と過ごした時間だけがどうやら私の記憶からすっぽりと抜け落ちているのだ。

 なぜだろうか?

 もし仮に俺が記憶を失った原因が彼女のいうように事故が原因だったとしても、そんなことが起こり得るのだろうか。

 疑問から疑問が生まれる。この謎の連鎖はどこまで続いてくるのだろうか。


「ちょっと寒くなってきたね。もし良ければ場所を変えてお話ししませんか?景君に会ってもらいたい人もいるし」

 すっかり真っ暗になった海を見ながら彼女は私に一言そう言う。たしかに時間が経つごとに今、私達がいるこの海辺も寒さが厳しくなってきている。彼女との会話が私から時間の流れを奪い去っていた。それに、彼女が言うように会ってもらいたい人というのも気になる。その人に会うことでもしかしたら違う進展があるのかもしれない。


「会ってもらいたい人?誰なんですか?」


「あなたのことをよく知ってる人よ。それと私のこと渚って呼んでよ。景君、私のこと下の名前で呼んでいたから」


「わかりました。でもなんか下の名前で呼ぶのって緊張しますね」


「そうかしら。でもそういうところは本当に変わっていないわね。私ちょっと安心しちゃった」

 彼女は暖かい笑みを浮かべながらそう言った。


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