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#5

 暫く沈黙の時間が流れた。私の手には彼女が見せてくれた二人が写った写真。写真の中の私は笑顔で微笑んでいる。しかし、今の私の表情は戸惑いの顔。いったいどちらの「私」が本当の私なのだろうか。


「本当に思い出しませんか。私のこと?」

 彼女はそう言いながら私の顔を見つめてくる。でもダメだ。何度頭を回転させても音詠渚と名乗る女性のことを思い出すことができない。


「すいません。あなたが誰なのかがわからないんです」


「お揃いのカメラを一緒に買ったことも!?」

 彼女は身を乗り出しながら私に詰めよって来た。たしかに二人は同じカメラを持っている。それも珍しい名前のカメラを。それにしても今言った彼女の一言が頭に引っかかる。


「カメラを一緒に買った?」

 そんなはずはない。このカメラは私が一人旅に出掛けた時に買ったものだ。あの場所に彼女はいなかった。私の記憶と音詠渚の記憶。どっちが本当の記憶なのだ?


「私とあなたが出会った時を再現すれば記憶が戻るとお医者さんが言ってたけど、やっぱり無理だった」

 一言一言を絞り出すように彼女は話を続ける。そんな姿を見るのがとても悲しかった。ふと空を見ると満天の星々が輝いていた。私にとってこの対比がとても印象的だった。


「渚さん、私は誰なんです?どうしてあなたは私のことを知ってるんですか?」

 このままでは確信に迫ることができない。私は真実を知りたい。そして、目の前にいる女性は私のことを知っている。これは聞かずには終えない問いだった。


「えぇ、知ってる。だって私とあなた楽倉景は婚約しているもの。でもあなたは事故で記憶を失った。ねぇ思い出してよ!私のことを」

 彼女は鬼気迫る表情で私に問いかける。事故で記憶を失った?本当なのだろうか。しかし嘘とも思えない。それにしても私が婚約している?それも今、目の前にいる渚さんと?いや、もしそうだとしてもなんで私は記憶を失ったのだ。事故とはいったいなんなのだ?


「ち、ちょっと待ってください!私にも話をさせてください!事故とは何の事故なんです?教えてください!」


「景君はね、私を助けるために記憶を失ったの。二人で奥津山に登った時に」


 奥津山。

 この山の名前を私は知っている。ほんの一瞬ではあったが、その情景が私の脳裏に思い浮かんだ。

 今いる場所は海辺。

 そして、私が記憶を失った場所は山。

 この2つの離れた場所を結びつけるもの。

 それは今、私が持っている「カメラ」であった。空を見上げると輝く星々。その星々に見守られながら、私は失われた記憶の断片を少しずつではあるが思い出していた。


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