#4
夜、夢を見た。私は誰かと海辺のベンチで手を繋ぎながら座っている。青く澄んだ青空がとても印象的だった。夏…。だろうか?とても暖かい。でもここがどこなのかまったく思い出せない。それにしても心が安心するような、そんな優しい場所だ。
「あのね、ジュース買ってくるね。何がいい?」
横に座る女性が私にそう話しかける。でもなぜか彼女の顔が見えない。
駄目だ。思い出せない。
あなたはいったい…。
誰なんですか??
ここで目が覚めた。
カーテンから透けて見える日差しがとても眩しい。時計を見ると今の時刻は朝7時45分。
「もうそろそろ…。仕事に…。行かないと…」
私はそうつぶやきながらベットから立ち上がった。
***
午後5時20分。仕事を早めに切り上げた私はカバンに入れた写真を確認しつつバイクに乗った。
目的地は昨日のあの海辺。今いる勤務先の会社から約15分の距離。約束の時間には何とか間に合いそうだ。そう思いながら私はバイクをゆっくりと走らせた。
空が色を失い、徐々に暗闇が辺りを駆け抜ける。海岸線から見えるそのモノトーンの情景が私の心を静かに落ち着かせる。
「あの女性はいったいどんな写真を見せてくれるのだろうか?」
そんな言葉が脳裏を過る。私と彼女のカメラは同じカメラ。表現できる世界は同じ。だからこそ私は早く見たい。彼女が紡ぎだすその世界を。
早く会いたい。あの約束の海辺で。
***
「こんばんは。ちゃんと来てくれたんですね」
私が手を振ると彼女は一言そう言った。淡いブルーのロングスカートがとても印象的だった。まるでモノクロの世界に一瞬、青空が広がったような、そんな錯覚におちいった。
「こんばんは。さっそくですが、昨日の約束の写真です。どうぞ」
そう言いながら私は彼女に封筒を渡す。封筒を開封して写真を見た瞬間、その儚げな表情がふっと優しげな笑顔に変わった。
「虹…。良いですね。私、好きなんです」
その言葉を聞けた時、なぜか私はほっとした。写真を撮り、それを人に見せて誉められたことはたくさんある。でも今、その時とは違うような気持ちになった。うまく表現はできないのだが、暖かいココアを飲んだ時のような、そんな感じだ。いつしか私は彼女のもつ不思議な魅力の虜になっていた。
「ありがとうございました。では、これが私の写真です」
手には小さな白色の封筒。
私は彼女からその封筒を受け取り、ゆっくりと封を開ける。
「あれ…。これって…」
その写真を見た時、私は正直、驚きを隠せなかった。写真には夕陽をバックに映る二人がいる。一人は彼女、音詠渚だ。そして…。もう一人は…。
私だ。
「ど…。どういうことなんですか?私は…。私は…」
あなたを知っている??
その時、しばらく止んでいた海から吹き付ける風が勢い良く吹いた。
まるで私に何かを思い出すようにと急かすように。
強く強く…。